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隠しルートには行かないで  作者: アオイ
三章 ハッピーエンドへ向かって
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この後のシナリオ

 朝、切羽詰まった様子のリリーに相談したいことがあるからお昼を共にしたいと言われた。ハミルトン先生のことらしいが詳しくはお昼に、と言われてその場を離れてしまう。表情からするとあまりいいことではないと思う。一体何だろう。

 リリーはレイも一緒で構わないと言ったけどそうじゃないほうが嬉しいわよね。なのでテレパシーを使ってレイに連絡を取ってみる。これは難易度も高いし魔力の消費も多くて大変だから本当はあまり使いたくない。しかし背に腹はかえられない、レイ自身に会いに行く時間はないんだもの。話が話だから食堂もやめて、人がいない庭園にしよう。

 レイからはすぐ応答があった。

『なんで!? どういうこと!?』

 テ、テレパシーなのに声が大きい。意味がないのは分かっているけど反射的に耳を塞ぎながら説明する。案の定ものすごく文句を言われたものの最後には『ハミルトン先生め……』と呪いのように低い声で呟いてテレパシーが切れた。

 レイ、大丈夫かしら。放課後会いに行くと言われたが私もいろいろ覚悟しておいたほうが良さそうだ。

 とりあえず、まずはリリーね。


 話を聞いてびっくりする。

 ゲームでは告白しようかどうか迷う場面はあったけど、ハミルトン先生が気付くほどの告白未遂ってあったっけ? 好きになったのが早いから、我慢もしづらくなってるのかしら。

 先生にフラれるかもしれない、と言っているが私にとっては疑問だ。あそこまで特別扱いを受けているのに?

 それを告げても根拠がないと言われてしまう。

 うん、これを用意しておいて正解だった。

 お守りだと言って目の前に差し出した物にリリーは目を見開く。私が出したのは授業で使った植物の蕾。リリーが“死ぬほど恋焦がれています”という意味の紅色の薔薇を出したあれだ。

 お昼までに生物の授業があったため私のクラスの生物教師にもらったのだ。魔法植物だけど意思もなく、できることは花を咲かせることと初級の物なので許可は得やすい。ゲームでは使っていた。


 ヒロインが紅色の薔薇を使うのは告白というより告白を匂わせるものだったのがゲームだ。告白を迷っていたヒロインが最初の授業で使った蕾で薔薇を咲かせ、その大きな想いに気付いて告白することを決意する。けれど相手が教師であることを考慮して言葉にせず、したのは薔薇の花を先生に見せるのみ。先生が咲かせたスイセンの花言葉に勇気をもらう。誕生日の時借りた本で花言葉を勉強していたのですぐに分かったのだ。先生は先生で

「あーあ、隠していたのに」

 と苦笑して、薔薇を受け取り感謝してからの卒業したら~だった。先生の表情もだけど、薔薇のスチルがそれはもう見事だったのよね。


 ハミルトン先生が私のクラスの担当じゃなくて良かった。私がリリーに渡すことを予想されて許可がもらえなかったかもしれない。現実では一度ハミルトン先生はリリーの紅色の薔薇を見ている。リリーの想いの深さには気付いている可能性が高い。そもそも両想いなのだから完全な拒否はできないはず。

 一つ疑念があるとすれば、このシナリオは最終回前の出来事で次はエンディングになる。まだやっていないシナリオがあるけれども、どうなるのか。




 *   *   *




 私にできることはゲームの通りお助けだけなので放課後リリーにがんばって、と応援して帰路に就いた。

 結果を聞く明日を楽しみにしよう。ただ、レイに言われて今日のかわりに明日のお昼は元々三人の予定だったのを二人に変更させてもらった。だから何としてでも成功させないと、というプレッシャーをかけてしまった気がする。大丈夫かな。あの蕾、お助けになるかしら。


 という心配も、玄関の扉を開ければそんなことを考えている余裕はなくなった。

 どうしてまたレイが私より先に屋敷にいるのかという疑問も消える。ものすごく不機嫌だ。これで授業受けてないわよね? 同じクラスの人と先生に謝りたいくらいである。

 腕を引っ張られて部屋に連れて行かれ、部屋に入ったら鞄を奪われてソファーの上にぽいっと置かれた。不機嫌な顔のまま「ん」と腕を伸ばしてくる。私からその腕の中に行けばきつく抱きしめられた。

「何なのさ、あの二人両想いでしょ? なんで僕とクラリスの邪魔をするんだ」

 両想いって、レイも気付いてたんだ。私に比べたら全然関わりがないのに鋭い。

「でもハミルトン先生は教師だし……」

「だから何? それで諦められるくらいの想いなの?」

「……ごめんね」

「クラリスには怒ってないよ」

 宥めるように頭を撫でられる。いや、これ必要なのレイのほうじゃない?

 少しだけ気分が収まったのかソファーに移動した。私はレイの膝の上に横抱きにされる。今度は私がレイの頭を撫でようかと見つめる間もなく手が私の首の後ろに移動しぐいっと強い力で引き寄せられた。唇を強く押し付けられる。何度も角度を変えて唇を食まれて、舌がするりと入ってきた。ぴちゃぴちゃとわざと音を立てていることは分かったけどどうすることもできない。レイがお昼を楽しみにしていたことを知っていて、それでも私はリリーと二人きりで食べることを選んだのだから甘んじて受けよう。

「んっ……は、ぁ……」

 お、お仕置きにしては甘いと思うけど長い、長すぎる。全然離してくれない。口の端からこぼれる唾液を気にしている余裕すらなくなった。口だけじゃなくレイのもう片方の手が背中を撫でるように動く。体が熱くなるとともにぞわぞわと震える。

「っ……ん、も……」

 これ以上は息が……というところでやっと離してくれた。脱力してレイにもたれかかってしまうも難なく受け止められる。レイは見た目よりがっしりしていて力が強い。

「……いいよ、クラリスがリリー・シーウェルに甘いのは知っているからそこは数時間くらい我慢するよ。でも後でこうやっていちゃいちゃさせてね」

 耳にちゅ、とキスされた。びくりと震えて反射的に離れようと思ってもきつく腕が回されているからできない。

「クラリスは耳弱いの? 背中も弱そうだよね。いいね、楽しみにしてる」

 何を? でもふふふ、とレイは機嫌良さそうに笑っているからいいのかな。

 不穏に感じるのは気のせいかしら。先ほどとは別のぞわぞわした思いが広がっていく。覚悟はしていたけど、私のはやっぱり子どもの覚悟なのね。

「大丈夫だよ、卒業するまでゆっくり僕が教えてあげるから。だんだん覚悟が決まっていけばいいさ」

 ……抱きしめて顔を見ていなかったはずなのにどうして心の声が読めたんだろう。レイ、すごすぎる。




 *   *   *




 朝会ったリリーは答えを聞かずとも分かるくらい浮かれていた。良かったわね、と言えばうん、と頷かれる。恋人にはなっていないけどゲームと同じように卒業後の約束をしたらしい。

 リリーの周りに花が舞っているかのよう。とても可愛い。ぜひハミルトン先生に見せたい。

 その時にも手は握らなかったそうだ。元々ないシナリオだったし、きっとあの風邪の時が特別だったのね。この二人が接触するのはヒロインの卒業時、ハッピーエンドの一度だけ。他のキャラのルートでは恋人になったらスキンシップがある分何とももどかしい。ゲームでは告白すらしなかったのだからなおさらだ。

 ゲームでは後もう一つ、私の手助け……というかレイの手助けがあるわよね。

 現実ではどうなるのかしら。レイ、リリーを手伝ってくれるといいな。頑張ってお願いしよう。

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