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隠しルートには行かないで  作者: アオイ
一章 ゲーム開始前~レイ×クラリス~
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買い物①

 マグニフィカ王国の首都カクタスは広い。北から西にかけて山脈がそびえ立っているため人は入ってこられず、入り口は東と南の二つ。それぞれに魔法で作られた関門があり入るにも出るにも手続きが必要だ。城は北寄りに、山の麓近くに建てられている。山脈のさらに北には鉱山があって金や銀などの鉱物が取られていて、海が近い東エリアは主に海産物でにぎわっている。南エリアは商人がたくさんいて一番にぎやかだが、貴族も平民も外国人も入り乱れているので警備も厳重だ。他の国よりも安全な我が国だし商売の基準もかなり厳しいらしいけれど、警備が厳重なのは他国への牽制も兼ねている。我が国はこのくらい軍事力がある、ということだ。商人を騙るスパイは多いのでその対策らしい。人通りの多い東と南には観光スポットがたくさんある。

 北は首都を出ないと人が住めるところなどない山ばかりの地形だが中央や西など城の周りは高位貴族が多数住んでおり外国人はおろか平民もあまり来ない。警備員が少ないかわりに一帯に魔法がかけられていて、許可証を持っていない人間が中に入るとアラームが鳴る仕組みになっている。これは王城も同じ。

 私達の屋敷は西側にあり、私は他のエリアには行ったことがない。そもそも私はあまり外出はしない。外に出る用事といったらクラシックのコンサートくらいだ。お茶会も私が主催して参加してもらうことはあっても誰かの屋敷に行ったことはない。買い物といえば商人が屋敷に来ることが普通で、今日のような外に出ての買い物は何年ぶりだろう。

 レイは私がレイ以外の男性と会うのをひどく嫌がるから、私がどうしても会わなければならないときにはレイが常に傍にいる。お父様は別。レイは心配性なのだ。


「デートしよう。もうすぐ君の誕生日だから、そのプレゼント探しも兼ねて」

 と言ってきたレイに頷き、今は選ばれた商人だけが通り店を開いている西のエリア街にいる。東や南に比べたら規模も小さいし行き交う人は多くないがはぐれないように、とレイに言われて手を繋いだ。貴族相手なだけあって品質も高くいいものばかりが売られている。もちろん値段も桁違いだ。

「やっぱりこのエリアのものって高いのね」

 立ち寄った店の服を一つ手に取って値段を見て驚く。公爵令嬢としては当たり前の値段なのかもしれないが、それはそれだ。レイからは「君の欲しいものでいいよ」と言われているけどもっと安いものはないかと探してしまう。レイが作ってくれるケーキでもう十分なのに、と言ったものの首を縦に振ってはくれなかった。「形に残るものがいいんだ」と言ってきかない。

「値段なんて気にしなくていいのに。クラリスが欲しいものを買うために今日はたくさん持ってきているよ」

 店を見渡し一つ頷いた。

「この店なら全部の品が買えるくらいは持ってきているから安心して」

 にこやかに言われたが一体どこに安心する要素があったのだろう。

「……冗談、よね?」

「僕は冗談あまり好きじゃないよ? 知っているでしょ?」

 不思議そうな顔で否定されたけど、そんなに持ってるの? 怖い。盗難とかにあったらどうするの。

「この貴族エリアで? そんなことをしたらすぐアラームが鳴るし、何より僕から盗れるものなら盗ってみればいいさ」

 聞いてみれば自信満々で答えられた。学園で魔法を習うとされているが、貴族ならすでに家庭教師を雇ってある程度の魔法は使えるようになっている。レイの魔力は高いし、魔法の扱いも上手い。スイーツ作りもそうだけど、レイは何でも器用に上手にこなす。

 今日だって本来なら近くに護衛をつけていなければいけないのにたった数人が遠巻きに見ているだけなのは、レイの実力の高さゆえだ。

「クラリスは僕が守るから君達は必要ない。どうしても護衛しなければならないならクラリスから離れてくれ」

 そう不機嫌そうに言い放つとさっさと私の手を握って屋敷を出て行った。護衛が男の人だったから仕方がない。

「私、そんなに高いのいらないわ」

「分かってるよ。ただ君が欲しいものならどんなものでも買ってあげたいから。クラリスが喜ぶ姿が見たいだけだよ」

 ううっ……レイって絶対モテる。かっこいい。

 私はお金は持っていない。家から出ないからほとんど持ったことがない。「デートなんだから全額僕が払うよ」と言ってくれたけど、この世界で男が奢る、という風習はないのに。基本的に自分の分は自分で払うのが普通だ。だからこそゲームの中でヒーローが全額払いヒロインがときめくシナリオがある。


 私の誕生日が過ぎたら、約一か月後にレイは学園に入学する。

 同じクラスの女子とかレイを放っておかないだろう。ヒロインの前に、そういう人にレイを取られてしまったらどうしよう。

「どうしたの? なにか心配事?」

 レイが私の顔を窺うように首を傾ける。

 しまった、デート中だった。学園のことはおいといて、今はレイに集中しなくちゃ失礼だわ。何でもないと返事をして店の中を見て回り、少し気になった服を見せてみる。

「この服、どう?」

 上から下まで何度か視線を往復させたレイが満足そうに笑う。

「うん、似合うね。クラリスは何を着ても可愛いよ」

 まじまじとレイを見てしまう。びっくりして照れるのを忘れていた。それが欲しいの、と聞くレイの声で服をもう一度見て、首を横に振って元の場所に戻した。私の服は基本オーダーメイドで専属の職人さんに作ってもらっているから、貴族エリアのお店といっても買おうとは思わない。ましてレイからの誕生日プレゼント、せっかく買っても使わなかったら意味がない。うん、服はないわね。

「別のお店行ってもいい?」

「もちろんいいよ」

 それからもいろいろなお店を巡ってみたが、いざ何でもいいよ、と言われると何も思いつかないものである。赤いものには目が惹かれるが、これがいい、といったものはない。長い時間を取ってレイに申し訳ないと思うけど

「何で謝るの。いっぱい悩んでよ。さっさと決められてはいさようなら、になるほうが僕はいやだよ」

 と言ってくれるのでそれに甘えることにした。

 カフェで簡単にお昼ごはんを食べて、今いるのはジュエリーショップ。有名店だから一度入ってみたかった。小物もたくさんあるので目移りしてしまう。私がきょろきょろしていると、レイはどこか一点をじっと見つめていた。

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