表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隠しルートには行かないで  作者: アオイ
二章 ゲーム開始~???ルート~
46/132

自室にキッチン

 あまりレイの屋敷に呼ばれることはない。結婚するまでは実家でゆっくり過ごしてと言われたけど、あれはただ自分以外の人と仲良くしてほしくないからだと最近気が付いた。学園に入学してレイ以外の人と交流するようになって分かったが彼はかなりのやきもち妬きだ。心配性なだけじゃなかった。

 なので、今回の招待は非常に珍しい。レイの屋敷に行くなんてディーンと初めて会ったあの時以来か。

 この前のレイがスイーツを作っている姿が見たい、と言ったことを叶えてくれるらしい。

 家まで迎えに来てくれて、ロングハースト家の馬車に乗ってやってきた。早速レイの部屋に案内される。


 レイの部屋は二階にある。以前の音楽室は一階だった。広いお屋敷なので二階に上がるには長々とした階段を上る必要があるが、そこは魔法の世界だ。一歩足を踏み出せば次の瞬間には二階に移動している。高位貴族なら屋敷の至る所に魔法を使うのは普通である。

 レイの部屋なんて久しぶり。本当に幼少の頃以来だと思う。腰を引き寄せられてレイのエスコートで来たものの、後ろには執事のヴォルクさんがいた。扉が閉まると二人きりになる。執事の方と話せなかったなあ、と扉を振り返れば腰に回っていた手に力がこめられ、もう片方の手で顎を掴まれてキスされた。

「それはダメ」

 髪を耳にかけられ今度は頬を包まれる。どうやらロングハースト家の使用人の方にはまったく寛大じゃないみたい。見るのもダメなの? レイって大変ね。結婚した後大丈夫かしら。リリーのことは認めてくれたんだもの、他の人にはあまりやきもちを妬かせないように私も気を付けよう。

「うん、分かった」

 レイに向かってにこりと笑いかければレイも笑ってくれる。再度降りてきた唇を素直に受け取った。


 唇が離れて、レイの部屋を見渡す。幼少の頃との違いはあまり覚えていないから分からないが、一つびっくりするものを見つけた。

 窓側とは逆の隅にキッチンがある。そこだけスペースを取ったようにキャスター付きのアコーディオンスクリーンが周りにあるものの、今は半分くらい開けられていて見られるようになっていた。コンロが三つあり結構大きいのにレイの部屋が広いから邪魔になっていない。キッチンのさらに奥にはそれほど大きくないが冷蔵庫もあった。これはさすがに昔はなかったと思う。

「わざわざ厨房に行くのは手間だし料理人の邪魔にもなるからね、作ってもらった。道具類は下の棚にあるけど材料は厨房の冷蔵庫と中で繋がってて行き来できるようにしている。オーブンなんかも向こうのを使うよ。一応使わない時間帯は教えられているから」

 ぽかんとしていればレイが説明してくれた。試しに冷蔵庫を開けて見せてくれると中に何も入っておらず、白いばかりの亜空間になっている。棚には数々の道具が収められていた。私には使い方が分からない物もある。

「それはメッシュローラーだよ。ミートパイとかアップルパイとかの上にある網目状にできる道具だね」

 にこにこ笑いながら教えてくれるレイを呆然と見つめることしかできない。

 これ全部、私だけのためなのよね。ひやああああ。

「で、今日は何を食べたいの? 作ることは言ってるからいろいろ許可をもらっているんだ。材料何を使ってもいいってさ」

「この事実でお腹いっぱいです……」

 レイと同じ気持ちを返そうと思ったら、私はどう表現すれば届くのだろう。レイはゆっくりでって言ったけど……。未だ腰を抱かれたままの姿勢を抱きしめる形にすればすぐ抱き返される。

「そんなこと言わないで。今僕やる気最高潮だから。僕も料理人も、君の笑顔が見たいだけだよ。本当、もっとこっちに来させろってうるさいんだよね皆。結婚まで我慢しろって言ってるのに。僕以外とは話さなくていいんだよ」

 舌打ちしている。レイは本当に大変だ。うーん、ここで私が行きたいと言うと妬くから言わないほうがいいのか。何と言うのが正解なんだろう。

「クラリスを歓迎してくれているのはいいことだけどね。まあ君を邪険にしようとする奴はもう辞めさせていると思うから当然か」

 私を抱きしめる力が強くなる。私ってどれだけレイに守られてきたの?

「ありがとう、レイ。私レイに会えてよかった」

「……今感謝するところあった? 引かないの?」

「逆に引くところってどこ?」

「僕の家の使用人とは結婚するまで関わりを持ってほしくないって言ってるんだけど」

「うん、そうね。ちゃんと聞いてたわよ。結婚まででしょ? 引くところないわよね?」

 純粋に疑問なのだがレイは時々自身の発言が悪いことだと思っている節がある。嫌がらないでくれるとか重いとか。そういうことは私が一度でも嫌がってから言ってほしい。今だって安心したように笑っている。結婚したらやきもちを妬いても我慢しなきゃいけないレイのほうがよっぽど大変だというのに。

 結婚までほとんどを実家で過ごしてレイのほうがこちらに来ることだって、両親からとても歓迎されていることを知っているはずだ。

「レイって変なところでネガティブよね。私がそんなことで嫌がると思ってるの?」

「……クラリスの許容量がすごすぎるだけだと思う」

 そうかなあ? 限度があるって言っていたし、レイって自分で思ってるより我慢強いと思う。

 結婚した時はそれを全部取っ払ってくれるように、レイから頼られる大人の女の人になろう。

 私が一人で決心しているとレイが頭を撫でてくる。機嫌はすっかり良くなったようだ。

「で、どうする? クラリスのリクエストがないならせっかくだからメッシュローラーを使ってアップルパイにしようか?」

「うん! 使っているところ見たい!」

 顔を上げて答える。分かった、と嬉しそうに返事するレイに私も嬉しくなる。背を伸ばして唇を合わせた。私からすると何故かレイはびっくりした顔をすることが多い。レイはたくさんしているのに私は受け入れるばかりだ。これでは到底返せていない。少しずつでもいいから返そう。いつかあの深いキスも私から……が、頑張る。

「楽しみにしてるわね。レイ、大好き」

「っ……だから、ああもう、君は受け入れてくれるだけですごいんだよ」

 何故か痛いくらいにきつく抱き締められて、しばらくそのままだった。私が積極的だとレイは結構困った顔をする。私も恥ずかしいからありがたいことではあるけど……ここら辺がゆっくり行こう、と言った理由なのかな。


「って、ダメだ、もうすぐお茶の時間になる。クラリス、急いで作るから待っていて」

 時計を確認したレイが私を離す。分かった、と答えるとレイの視線がきょろきょろと動く。

「どうする? 座って見る? ソファーならあっちにあるよ」

「ううん、近くで見たいから立っていたい」

「そう? 危ない物はここにあまりないけど一応この衝立よりは下がっていてね」

 言いながら私をそこへ移動させて、ソファーの上に脱いだ上着を無造作に置きキッチンに戻るとそこにあった小さなスツールの上にあるエプロンを着ける。シンプルな黒のエプロンだ。

「汚れなら魔法で消せるけど、気分の問題かな」

 と説明してくれた。普段からかっこいいけど、エプロン姿もいい。

 冷蔵庫を開けて手を伸ばせば次の瞬間にはいろいろな物がレイの腕の中にあった。

「ごめんね、もうフィリングは作ってあるから簡単に済ませちゃうね」

 何それ、と聞いてみたら中に入れる具材のことらしい。

「レイ、もともとアップルパイ作るつもりだったの?」

「いや、いろいろ作り置きしているよ。そのほうが時間短縮できるから。これもだね」

 さらりと言うと何か固まっている物体を取り出す。

「これはパイ生地。すぐできるけど、せっかくなら一から作れる物のほうが良かったかな?」

 躊躇うようにこちらを見たのでぶんぶんと首を横に振る。レイって、本当に忙しいはず。そんなに私のスイーツのための時間を作ってもいいのかしら。聞いてみれば

「……? クラリスのためじゃなければ何に時間使うの?」

 本気で思ってる顔で言われても……。ねえレイ、どうしてそこまで言うのに私が何かにつけて嫌がると思ってるのか、不思議でしょうがないわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ