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隠しルートには行かないで  作者: アオイ
二章 ゲーム開始~???ルート~
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リリー視点:百合の花

 あ、この図書。ハミルトン先生からお勧めしてもらったものだ。早速読もう。

 図書室で目当ての本を探せたことに満足しているとクラリスがきょろきょろと辺りを見回していた。

「クラリス?」

「う、ううん、何でもないわ。ごめんね」

 時々何かを探しているような気がするけど、私が名前を呼ぶとすぐに私だけを見てくれる。

 彼女は時々婚約者さんとお昼を食べた後でも昼休みに私と過ごしてくれるのだ。特に私が借りたいと思った本を借りる時は図書室についてきてくれる。この学園の図書室は広い上に魔法を使って本棚から本を選ぶからまだ不慣れな私は彼女に手伝ってもらえてとてもありがたい。

「その本いいわね。それの他には何か借りたい物はある?」

「えっと、これに関連するお勧めの本があれば、教えてくれると嬉しい」

「そうね、その本なら同じところにあったこれとこれも合わせて読むともっと勉強になると思うわ。特にこっちは説明も分かりやすいし、いろいろおまけの情報が充実しているからリリーにぴったりだと思う」

 有名な本らしく題名を見たらすぐに本棚から本を数冊選び出してくれた。

 クラリスからもよく本を勧めてもらうし、先生に教わらない上級生が習うものや応用系の魔法を教えてくれる。学園内では結構私を優先してくれていると思う。ここまで良くしてもらって、婚約者さんに申し訳ない。


 クラリスから教わった変化魔法が完璧にできるようになったので早速放課後百合の花を作って先生に見せてみた。先生からは感嘆の息が漏れる。

「素晴らしいですね。この魔法はイメージが大事なんです。二年生からの選択科目だったと思いますが」

「クラリスに教えてもらいました」

「ああ、彼女ならよく知っているでしょう。教師として負けた気分です」

「そんなことないですよ。クラリスも、短期間でいろいろな魔法ができてすごいって褒めてくれるんです。先生のおかげです」

 急いで首を横に振れば先生は目を細めて見つめてくる。

「褒めても今日も紅茶しか出ませんよ。飲みますか?」

「はい!」

 あの紅茶は本当に美味しい。そして先生は本当に自慢に思っているようで飲みたいと言うと嬉しそうに笑ってくれる。その笑顔を見るのも好きだった。


「ところで、どうして百合の花を? 変化魔法は細部までイメージしなければならないのでまずは簡単な物や好きな物から始める魔法ですが」

 クラリスが教えてくれたのもそうだけど、私が一番好きな花でもある。それに私の名前にも繋がる。

 家族にいい思い出はあまりないが、魔法を暴発するまでは良くしてくれていたと思う。庭に咲いている百合の花。そこから私の名前を取ったと言っていた。だから髪飾りも百合を選んだ。

「なるほど。百合の花言葉は純心、無垢。ええ、ぴったりですね」

 私の目を見て言われた言葉にかあああ、と赤くなる。俯くと先生は勘違いしたようだった。

「あ、すみません。男で花言葉が詳しいのは変ですか?」

「い、いえ。先生は……サボテン、お好きなんですか?」

 準備室に飾られているいくつかの小さなサボテン達。ハミルトン先生以外の誰かのかと思ったが水をやっている時に聞いたら先生が持って来た物だと聞いたことがある。そちらに目をやると先生は小さく笑みをこぼす。

「ええ、まあ。花を飾っているよりは変に見られませんし、育てやすいですし。生物の植物学教師として植物は全般好きですよ。好きだからこそ教師を目指しましたからね。百合の花も大好きです」

 花と言ったし、私のことでないのは分かっている。先生も私の髪飾りを見つめて言っていたが、私はさらに顔が赤くなるのを感じた。

 先生の視線は私が魔法で作った百合の花に移る。

「この魔法で作った百合の花、ここに飾ってもよろしいですか? 学生が魔法で作ってくれた物だと説明すればおかしな目で見られないでしょうから」

「は、はい、もちろんです。飾ってくれたら嬉しいです」

「ありがとうございます。早速花瓶を用意しましょう」

 気分良さ気に立ち上がり空の花瓶を探しに行く先生の背中を見つめつつ、教科書で顔を隠した。




 *   *   *




 放課後、いつものようにクラリスと別れて生物準備室の部屋をノックする。

「どうぞ」

 扉をガチャリと開けて、思わず立ち止まってしまった。

 先生の他に学生がいた。女性だ。私が普段座っていた席に座って、同じように先生と顔を突き合わせている。彼女の手にも教科書があった。

「ありがとうございました」

「いえいえ、またいつでもどうぞ」

 ちょうど話が終わったところだったのか彼女はぺこりと頭を下げると私とすれ違って部屋から出て行く。私は何故か彼女を目で追ってしまった。いなくなってからも扉から目が離れない。

「リリーさん?」

 先生に名前を呼ばれてはっとする。先ほど女性が座っていたイスに座りながら聞いてみた。

「あの……さっきの人は……」

「彼女も貴女のように質問に来た学生です。一年生ですが違うクラスですよね。今年の学生は皆さん熱心で教師としては嬉しい限りです」

「……よく来るんですか?」

 ここに毎日来ているわけではない。お昼の二日は必ずだけど、放課後だって毎日ではない。家でのマナーの勉強もあるからだ。

 ハミルトン先生は質問の意味が分からないかのようにきょとんとしていた。

「あれ? リリーさんと他の学生が一緒になることって今までありませんでしたっけ? 確かに一年生はほとんど来ませんが、ニ、三年生は結構来ますよ?」

 先生にとっては覚えてない程度の記憶なんだ。

 ああ。勘違いしていた。先生にとって私は大勢の学生のうちの一人で、特別ではない。

「おいやでしたか?」

「え?」

 顔が俯きそうになると先生が気遣うように眉を下げる。

「貴女は確かクラリスさん以外には緊張するのでしたね。配慮が足りずすみませんでした。質問に来た学生には答えたいですが、貴女にストレスを与えるつもりもありません。これからは気をつけますから、どうか遠慮せずに引き続き来てくださいね」

 学生に対しての配慮だ。それは分かる。私がいやだった理由は違うけど、否定はせずにただ頷いた。これからも先生と二人きりがいい。


 先生は立ち上がると奥のほうにあった長いテーブル席のイスを引く。そして私を見つめ手招きした。大人しく近くに行ってみれば座るように手で示される。

「入り口の席よりこちらにどうぞ。他の学生が来ても私が入り口で対処しますし、ここなら入り口からは見えにくいですから」

「え……あ……」

 座ったが先生とテーブルと交互に見てしまう。せ、先生からは離れちゃうの? 心配していると先生は次に自身のイスをこちらに持って来る。

「それで、本日は何を勉強しましょう?」

 イスを隣に置いて座った。机を挟んでいるいつもよりだいぶ近い。

「……先生、あの、自分の席から離れていいんですか?」

「……? 一対一で教えるのに遠くにいるなんて非効率なことしませんよ。自分の席でないと教えられないことはありませんし……あ、威圧感ありますか?」

 離れようとイスを持って腰を浮かそうとする先生に慌てて首を横に振って図書室から借りた本のとあるページを見せる。

「い、いえ。その、今日はこれを……」

「はい」

 先生が座り直して本を覗いてくる。やっぱり近い。人知れずどきどきする。

 さっきの悲しい気分なんてもう覚えていない。むしろ早く知っておけばよかったと思ったのだから私は現金だ。

 先生を独占したいなんて、変な考えを持ってしまう。

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