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隠しルートには行かないで  作者: アオイ
二章 ゲーム開始~???ルート~
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リリー視点:出会い

 幼い頃から家族には遠巻きにされていた。

 父親からもらった金髪と母親からもらった緑色の瞳。その組み合わせは珍しくて、両親の子ではないと疑われたわけではないが私を見つめる瞳は遠慮がちだった。

 それでも愛されてはいたと思う。魔法を暴発してしまうまでは。

 自分でもどうしてそんな力があったのか分からない。両親が魔法を使えなくても魔法が使えることは珍しいことではない。しかしここまで魔力が大きいことはあまりないのだ。

 それ以降魔法を使わないようにしたのに腫れ物のように扱われ、私は部屋に閉じこもり一人きりで過ごすしかなかった。

 そして学園に入る少し前に養子に出された。家族は誰も悲しんだり泣いたりしてくれなかった。やっと厄介払いができる、そんな感じだったのが悲しい。養子先の家族は優しい人でよかった。

「お義姉様、何かあったら僕を頼ってね」

 と義弟のリオンも言ってくれた。私は養子なのに様とつけられるのは困ったが、「様付けで呼ばれるのを慣れるように」とのことらしい。

「お義姉様はもう伯爵令嬢だから。マナーはだんだん身につければいいけど、まずはこういうことに慣れないと」

 様付けの上誰かから敬語で話されること。な、慣れるかな。


 短い期間だったので基礎の基礎だけ勉強して、迎えた入学式。

 今は私もそうとはいえ、ほぼ貴族の人たちが通うことになっているパロディア魔法学園。私はそこの貴族エリアの校舎に入学することになった。仲良くなれる人なんて、できるだろうか。

 クラスに案内されて自分の席に座ったが緊張する。もうすでに互いを知っているらしく仲がいい人で固まっている。どうしよう。俯くしかなくて、私が話すことができたのは担任の先生だけだった。

 ハミルトン・ワイズ先生。生物教師。先生は男爵家だが、この学園の法律で教師には身分関係なく敬語を使わなければならないらしい。私にはそのほうがありがたい。同じく教師は学生に敬語を使わなくていいみたいだけどハミルトン先生は敬語だった。

「よろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします。リリーさん、貴女は確か平民でしたね」

 ぎくりとする。何を言われるんだろう。髪で隠していた瞳をじっと見つめられた。この瞳の色はコンプレックスだ。髪もそうだけど、隠すことは難しいのでせめて瞳だけでもと思った。

「その瞳では苦労されたでしょう。大丈夫ですよ、ここは魔法学園ですから。もう魔法を使っても誰にも何も言われません。魔法は危険なものではなく楽しいものだと教えるのが私達の仕事ですから、ぜひいろいろなことを楽しんでくださいね」

「は、はい」

 楽しむ、かあ。ぴんとこなかったが、ハミルトン先生のこちらを安心させるような笑顔は素敵だと思った。この人が担任教師で良かった。




 *   *   *




 シーウェル家は東エリアにあって、ここから徒歩は少し遠いため馬車で送り迎えしてもらうことになった。まだ約束まで時間があるから学園を散歩してみることにする。貴族ばかりの校舎は怖いけど、休める場所はたくさんあるようだ。あまり人がいないところを、と歩いていたはずなのに私を見つけた人がいきなり眉をつり上げて「ちょっと」と近付いてきた。

「貴女、シーウェル家の養子になった子よね?」

「つまりリオン様の姉になったってこと?」

「リオン様を弟にしたなんて」

「一緒の家にいるからって誘惑しないでね」

 突然一遍に言われて言葉が出ない。

 弟は美形だ。入学するまで勉強ばかりで家から出たことがない私には弟の人気ぶりは分からなかった。私は彼を弟として見ているしそんな関係ではないのだが、私が姉であることも気に食わないようだ。どうしようと思っていたその時。

「貴女達、何してるの?」

 凛とした声が響く。声のしたほうを見れば柔らかいウェーブを描いた茶髪の綺麗な女性がしゃんと立っていた。令嬢たちはそちらを見て肩をびくりと震わせ、何も言わずそそくさと向こうへ行ってしまう。彼女たちが見えなくなると女性は私を見つめてくる。

「大丈夫?」

 瑠璃色の瞳が太陽の光を浴びて輝いているように見える。服装や振る舞いからかなりの高位貴族だということは私にも分かった。私と目が合うときりっとしていた瞳がにこりと笑みに変わる。ありがとうと感謝する。初見では高貴な美人といった感じだったが、笑った顔は可愛らしかった。

「リリー・シーウェルです。その、今日パロディア魔法学園に入学することになりました。よろしくお願いします」

「敬語はいらないわよ、私も一年生だもの。私はクラリス・イシャーウッド。仲良くしてね」

 また再度にこ、と笑って手を差し伸べられる。優しい声色に考えるより先に惹かれるようにその手に自身のを重ねた。さっきの令嬢達とは雰囲気からして全然違う、これが貴族なんだ。

 さっきの人達もそうだったけど、養子になったことって分かるんだ。俯いていると

「この学園で一緒に勉強しましょ。そうすれば魔法を使うのも普通になって、楽しいと思うの」

 先生と同じことを言う。顔を上げれば二人の安心させるような笑顔が重なって、それに自信をもらった。




 *   *   *




「おや? 昨日より顔が明るいですね。何かいいことがありましたか?」

 次の日の朝、クラスに行く前に偶然ハミルトン先生と会った。昨日クラリスと会ったことを話せば先生が笑みを深める。

「クラリス? クラリス・イシャーウッドさんですか? 彼女と友人になったんですか? それは心強いですね」

 ……? どういうことだろう。クラリスはとても綺麗だから近寄りがたい雰囲気がある。それかな?

「初めて会ったのにすごく良くしてくれて……これももらったんです」

 緑色のヘアクリップに触れる。シーウェル家の皆からも好評だった。ただ彼女は安物だと言っていたけど、お養母(かあ)様曰く結構な値段の物らしい。髪から外して見てみればペリドットがいくつか飾られている。緊張するがせっかくもらったものだからつけようと思う。

「ああ。そのクリップは素敵ですね。貴女の瞳の色に似ていて、百合の髪飾りとも合っています」

 クラリスも瞳を綺麗だと言ってくれた。まさかいきなり二人にこの瞳の色を褒められるなんて。シーウェル家では私が気にしているのを知ってか何も言われなかったのに。

「王族と同じ組み合わせですから心配していたのですが……貴女は大丈夫そうですね、安心しました。金髪も緑色の瞳も素敵ですから、自信を持ってくださいね」

「あ、ありがとうございます」

 先生って口が上手だ。顔が赤くなりそうになって慌てて頭を下げて隠した。


 席に着いたすぐくらいにクラリスが教室に来てくれた。

 クラスメートとは違う圧倒的なオーラに周りがざわりとする。それをまったく気にしていないクラリスの視線は私に向けられていて、好意的な笑みに気分が落ち着く。

 空き教室に案内され、改めて自己紹介されてびっくりする。公爵家。すごいところのお嬢様だった。高位貴族だとは思ったけど、最高峰だなんて。そして利用してという声にさらにびっくりする。どうして私にそこまで親切にしてくれるのか。昨日会ったばかりなのに。そう告げるととても不思議そうな顔をされた。

「私が仲良くなりたいのはリリーだけよ」

 友人どころか知り合いすら一人もいなかったのに。嬉しい。それからも会うなら人がいないところを、と彼女は細やかに気を配ってくれた。

 お昼に庭園でお弁当を食べようとしたら

「リリーの髪はとても綺麗ね。昨日も思っていたけど、特に太陽の光に照らされると輝くわ」

 あまり外に出ることがなかった私には驚きの発言だ。忌避される原因だったこの組み合わせ。それを二人とも褒めてくれる。

 二人の穏やかな笑顔は癒される。

 私、この学園での生活を頑張ってみよう。そして二人の言う通り、できるなら楽しんでみようと素直にそう思えた。

ゲームのヒロインといえば攻略対象と偶然何度も会えるのが必然ですよね!(偏見)

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