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隠しルートには行かないで  作者: アオイ
二章 ゲーム開始~???ルート~
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久しぶり(?)の和食

 お昼になり、食堂に向かう。すでにリリーの養父母とリオンが座っていた。リリーの隣に案内されて腰を下ろす。

「クラリスにぜひ食べてもらいたいと思ったのはお寿司なの。話したこと覚えてる? あの時クラリス結構興味を持ってたと思うから、ぜひ食べてほしくって」

「うん、覚えてるわ。ありがとう、楽しみ」

 こくこくと頷く。

 話したのは確か出会って間もない頃だ。ずっと覚えていて、今回そのために呼んでくれたことが嬉しい。リリーと二人で笑い合ったらやっぱり周りがざわっとなったが、最初の緊張している空気はだいぶ緩和されたと思うからいい。

 前世の私はどうだったんだろう。自身に関する記憶がほとんどないからどうしようもないけど、日本という世界についての知識なら多少は残っている。

 出てきたのは見た目も私の記憶に近いものだった。少し小ぶりかな。一口サイズで、どれも大きめのスプーンの上に乗っている。醤油はすでに上にかけてあった。

 感心して見つめる私にリリーが丁寧に説明してくれる。すでにある知識通りだったが何か違うことがあっては困ると真剣に聞いた。箸は見当たらないし、これを食べるマナーも何も知らない。どうやらスプーンでそのまま食べればいいらしい。リリーが実際やってみてくれた。お茶まで緑茶だ。

 早速一つ食べてみる。マグロだ。スプーンを持ってぱくりと食べて……ツーンとした感触に体が震えた。

 あ、私わさびだめだ。

 涙目になってしまう。お茶に手を伸ばし頑張って飲み込んだ。

「大丈夫?」

 背中を摩ってくれるリリー、優しい。

 食べる前に気付くべきだった。私は甘党だ。といっても辛い物も嫌いではなくて食べられることは食べられる。私に配慮してか我が家の食卓にはあまり出ないけど、出されたら辛すぎる物も時間をかけてきちんと食べている。わさびも量を少なめにすれば大丈夫なはず。

 もう一つ食べようとするとリリーがあたふたと何かを近くの使用人にお願いしていた。

「クラリス、わさびなしもできるから。そっちを食べて?」

「こほっ……ありがとう、リリー」

 そっか、そういう物もあったっけ。今のこのお寿司がどうなるのか気になったが料理人の人達が食べてくれるようだ。それにも感謝して再度わさび抜きのお寿司に挑戦する。美味しい。特に穴子が美味しかった。


「穴子のタレは甘いからクラリスも気に入ると思った。良かった」

「他のお寿司もとても美味しかったわ。西エリアに流通していないのは本当に残念ね」

 魔法を使えば簡単にできるはずだが、聞くところによると貴族はあまり生魚を食べたがらないということだった。一度も食べたことがないのに避けるなんて、何ともったいない。かといってお父様にお願いして流通させてもらうのはわがまますぎるし、東エリアだけでしか食べられないというのも観光を考えるといい条件だと思う。私がまた食べたくなった時に東エリアに来ればいいだけだ。あ、いや、外出はレイが嫌がるからそこはお願いして持って来てもらおう。

「教えてくれただけじゃなく食べさせてくれてありがとう、リリー。シーウェル家の皆様も、どうもありがとうございました」

 帰りの馬車もレイが迎えに来てくれるけどそんなに詳しく話す時間はないだろうから、次にレイが家に来た時に話そう。楽しみだ。

 軽く頭を下げるとリリーの養母が小さく笑った。リリー曰く私が来ることで緊張して大人しいのではなく元々大人しく、まるでブラッドリーのように表情に乏しい方なのだとか。ヒロインが側近ルートで気持ちが分かったのは養母がいたからか。

「こちらこそ。このような物を食卓に出して良かったかと思ったのですが、貴女はリリーの言う通りの方でした」

 養父が最初の緊張とは全然違った顔で話す。それって、お父様のように怖いとかそういうこと? ああ、まだ誤解されている。お父様も何もしなければ怖くないのに。……多分。……お父様の弁明はやめておこうかな。

「今後とも、どうか娘をよろしくお願いいたします」

 立ち上がり深々と頭を下げられてしまった。ま、また。私相手にそんなこと必要ないのに。

 でもまあ、ご家族の方がそれだけリリーのことを心配して気にかけていたってことよね。リリーのご家族に認められてよかった。

「こちらこそ、これからもリリーさんとは仲良くしていただきたいと思っています。本日はどうもありがとうございました」




 *   *   *




 と、挨拶をしたのだがまだ迎えの時間までは少しあった。伯爵が許してくれたので再度リリーの部屋で過ごす。

 養父母もリオンも優し気な顔をしていた。リリーを本当に大切に思っているらしい。素敵だ。

 ゲームは分からなくなったけど、それは関係なくこれからも私なりにリリーを支えよう。


 さて、この短い時間に何を話そうか。ああ、そういえば。以前レイに言われて分からなかったことを聞いてみようかな。

「ねえ、リリー。リリーは丸呑みのキスって分かる?」

「え?」

 きょとんとするリリーにその時のことを簡単に伝えれば、顔が真っ赤になった。

「あ、あのねクラリス。そ、それ多分、だけど……」

 くいくいと腕の袖を引っ張られる。耳を貸して、と言われたので素直に傾ければぼそぼそと答えを言われた。


 !?!?!?


 今度は私が真っ赤になる番だった。何というか、こんなことを聞いてごめんなさい。

「う、ううん……その、両想いでいいな、と思う……」

 あ、あれ? 何かリリーの発言に違和感を覚えたんだけど何だろう。


 それよりも、まさかレイが言ってた丸呑みがそっちのことだったとは。

 婉曲的すぎる。分からないわよ。

 他にそういう話を聞ける相手なんてメイド達くらいだし、でも「お嬢様には早いですよ」とあまり詳しく話してくれないし。前世での記憶も皆無だし、私に実践経験なんてあるわけないんだから。なんでリリーは気付いたんだろう。私そんなに世間知らず?

 ……でも、そうだとしても。私の気持ちは変わらない。レイがすることなら何だって、いやに思うわけがない。あ、嫌われるのだけはいや。よし、今度もっとちゃんと返事をしよう。子ども扱いなんてされたくない。私の一生はとうの昔にレイに捧げられているんだから。

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