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隠しルートには行かないで  作者: アオイ
二章 ゲーム開始~???ルート~
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ルートに繋がらない

「なんで貴女みたいな人が姉なのよ」

 昼休み、レイとのお昼を食べ終えリリーとの集合場所に向かって廊下を歩いていて聞こえた言葉に頭を押さえたくなる。

 いい加減にしてよ、もう。まだ残っていたなんて。

 まったく、リオンは一体どれだけすごいの。まだ12歳くらいでしょ? その魅力を分けてほしい。

 リリーの姿を見つける。周りにいた三人の女性をキッと見つめた。

「何をしているの」

 後ろにリリーを庇うように立つと女性たちがびくりと怯えたのが見える。いいわよ、怖いと思うなら怖いと思えばいいのよ。

「クラリス」

 私の名前を呼んだリリーを振り返って安心させるように微笑んで、また女性達を見てゆっくり首を傾げてみせる。

「彼女は私の友人なのだけれど。貴女達、彼女に何の用?」

 リオンが好きなら彼に直接アタックすればいいじゃない。なんで姉というだけでリリーに文句を言うの。まったくもって理解に苦しむ。しかも貴女みたいなって、リリーが成績優秀なのを知らないのかしら。違うクラスみたいだからリリーの性格の良さを知らないのは仕方がないにしても、顔だって一目見ればどれだけ可愛いかが分かるでしょうに。

 いつもなら私が出ればすぐ逃げ出すのに、今日は何故か違った。

「クラリス様。こんな女と親しいのですか?」

 こんな女!? え、この人目が悪いの?

 オーデッツ伯爵令嬢、フェネリー子爵令嬢、ブルック男爵令嬢だ。

 もうリリーも伯爵令嬢ですけど? シーウェル伯爵家はオーデッツ伯爵家よりも上だ。

「こんな平民の女と仲良くしていたら格が下がりますよ。クラリス様には相応しくありません。もっと考えられてはいかがですか」

 格って……。

 小さな息をつく。この人達、そんな理由で友人なのかしら。

「オーデッツ伯爵令嬢。貴女は、格だけで友人を選んでいるの?」

「なっ……。 わ、悪いですか?」

「私、一言も悪いとは言ってないけど。貴女は悪いことだと思っているのね」

 かっと赤くなって顔を歪めている。うーん、可愛くない。

 図星をつかれると怒るというし、気にしているなら普通に仲良くすればいいのに。

「私は貴女とは友人を選ぶ基準が違うみたい。私の判断基準だと、貴女と友人になるなんていやだわ」

「なっ……!」

 友達を悪く言うような人なんてお断り。レイが審査してたら絶対落とされてるわね。

「貴女の判断基準で考えても、私が貴女と友人になったら私の格というものが下がってしまうからいやね」

「なんですって……!」

 ふいっと顔を背ける。せいぜい怒ればいい。リリーを傷つけておいて何を言っているのか。

 あ。

 でも怒って私に手を上げたらレイやお父様に消されてしまう。二人がどんな非道な手段を使うか分からないからそれだけは阻止したほうがいいかも。


 背けていた顔をもう一度正面に向けようとしたとき、私達の横に誰か人が立った。

 高い身長に見るからにいい体格。顔を上げて誰か確認する前に令嬢達が「ひっ」と悲鳴を上げた。

 ブラッドリー。

 彼の視線が令嬢達に動いただけで三人とも足早に逃げて行く。まあ、廊下を走るなんて。

 別に睨んだわけでもないだろうに、この人結構顔で損してない? いや今の場合は得か?

 そういえばブラッドリーがいじめから守るシナリオがあったっけ。

 え? いつの間に側近ルートに入ってたの? 思わずブラッドリーをじっと見つめるも彼は去っていった令嬢達の方角を見ている。

 けれど彼のルートなら上達させるのは攻撃魔法一辺倒のはずだし、リリーから会ったという話を聞いたこともない。

「ありがとうございます」

「ありがとう」

 リリーに次いで感謝の言葉を告げぺこりと頭を下げるとこちらを一瞥しただけで向こうへ行ってしまった。

 ええー! そこはリリーと交流するところじゃないの!?

 当惑するも私の名前を呼んだリリーに反応する。

「リリー。大丈夫だった?」

「うん。クラリスがすぐ来てくれたから。ありがとう」

 私は何もしてないけどね。ブラッドリーみたいになるなら、もっと怖い顔でも良かったのに。

 でもあまりに怖いとリリーもずっと怖がっただろうからいやね。

「あの、さっきの人は? 確か王子様とよく一緒だったと思うけど」

 やっぱり知らないみたい。

「ブラッドリー・トムソン。侯爵家で殿下の側近の人。あ、顔は怖いけどただ無口なだけよ?」

「助けてくれたのかな?」

「さあ、どうかしら。たまたま通りかかっただけのような気がするわ」

 だってリリーとの集合場所は図書室だったんだから。彼の向かった場所も図書室だろうし。

 ……なんでルートに入ってないのにゲームのシナリオみたいなことが起こってるの?

 ゲームなら助けた後一緒に図書室に行きいつもの本の語り合いをするが、私達が行ってもやはりブラッドリーは一人で本を読んでいるだけだった。そもそもその時にクラリスはいなかったはず。

 これで終わり?

 よく分からないまま学校での授業を終えて屋敷に帰ると、夕飯後くらいの遅い時間帯にも関わらずレイがやってきた。

 顔を見て一目で分かる。頭に血が上っている。


「――クラリス。今日学園で何があったか、もちろん詳しく教えてくれるよね?」


 詳しく、に力が入っている。とてもいい笑顔だ。季節は夏になろうとしているのに後ろに吹雪が見える。

 あれだけの会話で済んでブラッドリーが来たから手を出されたわけではないけど、どうやら逆鱗に触れてしまったらしい。

「えっと、消さない?」

「大丈夫だよ、合法的な手段しか取らないから」

「そういうことじゃなくてね?」

 言われた通り詳しく教えた後一応どうするか聞いてみたが、これは私が何を言おうと無理だ。

「クラリスに手を上げたかもしれない人物を許せるはずないでしょ。例えクラリスが何を言おうと、だよ」

 甘すぎないかそれ。ダメじゃない?

「あの……それはどうかと思うの」

「じゃあクラリスは自分から喧嘩売ったことがあるっていうの? 君にそんなことできるはずないでしょ。相手がまず何かしたに決まっている」

 それは信頼なのか? 甘やかしでは?

「まあ僕はもし君が100%悪くても相手が悪いと言うけど」

「ダメじゃないそれ」

 私そんなダメ人間になりたくない。レイ、私に甘すぎる。

「それを口実により独占できるからね。本当、僕以外は受け入れる必要ないのに」

 頭を撫でられて髪を梳かれる。

 受け入れるどころかはっきり友人になるのはいやだと言ったのに、何の話?


「残念だけど、僕を止めてもイシャーウッド公爵はもう止まらないよ。今頃すでに決着がついているんじゃない?」

「早すぎる」

 そういえば珍しくお父様がまだ帰ってきていない。うわあ。怖い。

「大丈夫。そもそも彼女の父親のオーデッツ伯爵は元から不正が多くてお義父様がそろそろ潰そうかな、って言っていたから。ちょうどいい機会に恵まれて張り切っていたよ」

「張り切るお父様ほど怖いものはないのだけれど」

 声が震える。怖い。お父様がとても怖い。お父様に比べればレイの怒った顔なんて菩薩のごとく穏やかだ。元々潰そうとしていたというんだから可哀想だとは思わないけど、心の平穏のためには知らないことって大切だと思うの。

 落ち着かせるように抱きしめられてレイにしがみつく。

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