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隠しルートには行かないで  作者: アオイ
二章 ゲーム開始~???ルート~
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ゲームの舞台袖②

「……ああ、婚約者を溺愛しているという噂は本物だったのか。地位目当てだと思わないのか」

「まったく思いません。ずっと昔から一緒にいますから。それに、彼も裕福な公爵家なのに地位目当てだなんて意味が分かりませんよ。万が一レイがそんな方だったらお父様が許さないでしょう」

「なるほどな。レイモンドが生きている時点で察することができるか」

 そんなことで納得されるお父様って。屋敷ではお母様に弱くてのんきなところもあるのに。お父様の仕事しているところは見たくない……。

「しかし溺愛しすぎて屋敷に軟禁していたという噂もあったぞ。それでも優しいというのか」

「ええ」

 軟禁なんてされてないけど迷わず頷けば面白くなさそうに鼻を鳴らす。

「ふん。お前にだけということか。よく愛想を尽かさないな」

 意味が分からない。私だけでも、レイの気質が優しいということには変わりないと思うんだけど。そもそも恋人一人だけに優しいなんて、ときめきポイントにはなってもがっかりすることなんてないでしょう?

 ゲームの中とはいえ、好きな人と喧嘩ばかりしていた王子には分からないかな。

 王子の瞳をじっと見つめる。リリーと同じ緑色。確かによく似ているけど、リリーのほうが若干明るい。私はリリーの色のほうが好き。

「なんだ?」

「いいえ。私は殿下に好きな方ができることを願っていますよ。そうすれば今よりもっと幸せになれると思います」

 ポーラに「ね?」と同意を求めれば無言だけどこくこくと頷いてくれた。

 冷めている王子はそこからいろいろな感情を経験していくのだから。相手がリリーになるかは分からないけど、王子夫妻も仲がいいほうがいいと思う。

 王子は私の発言に対し眉を歪める。

「お前がレイモンドと婚約していなかったら俺の婚約者になっていたかもしれないのによく言えるな」

 え、そうなの? うわあ、怖い。

「そうなんですか。それは良かったです」

「おい」

 ツッコミをされたけどそれ以降は何も言われなかった。


 んー、今日のことレイに話したら怒りそうだな。でもさすがのレイも王子に怒るなんて……。


「――潰す」


 怒るんだ。はい、レイに言わないなんて無理でした。

 でも不機嫌ではない。今日は最初から横抱きにされている。外側の手の上にレイの手が重ねられていて、時々握りしめたり指同士を絡めたり。内側の手は持ち上げて手の甲や手の平、指にキスされている。潰すと言いながらも私の指先にキスしてご満悦だ。

 レイはいちゃいちゃするの好きよね。私も好き。

 楽しそうな顔をしている。こういうときはご機嫌だからそれも嬉しい。でもさっきの発言はダメ。

「レイ、殿下になんてことを……」

「関係ないよ。男は男。クラリスと話したという事実だけでムカつく」

 外側の指を絡めるともう片方の手を腰に回され抱き寄せられる。

「僕もディーンも女兄弟はいないし、クラリスは公爵令嬢だから候補にはなるだろうね」

「いやよ」

「もちろん。させないよ」

 頬に軽く口づけられる。口元は笑んでいる。

「殿下だろうと関係ない。クラリスは誰にもあげない」

 うん。そうしてくれると私も嬉しい。


 そういえば、ブラッドリーとは全然話さなかったな。うーん、無口。目は何度か合ってたと思うんだけど表情は特に変わらなかった。結婚するなら一番という評判は、ブラッドリーの気持ちがなぜか分かったゲームのヒロインとだからこそだ。私には何を考えているのか少しも分からなかった。

「殿下も分かっていても言わなければいいのに」

 拗ねたような顔をしたレイをじーっと見つめる。レイはちゃんと気持ちを口にしてくれるし、表情も豊かだ。うん、私が結婚するのがレイでよかった。

 にこにこ笑っている私を不思議そうな目で見つめてくる。

「クラリス?」

「ふふ。私はレイで良かったな、って思って」

「え、何が?」

「もちろん結婚する相手が。私はもうレイのなのに怒るんだ?」

 一瞬目を丸くしたが、私の質問には眉をつり上げる。

「怒るよ。言われなければ知らなかったでしょ。……クラリス、王妃になりたいと思ったことはない?」

 眉を下げて気まずそうな視線を送られる。

 ああ、なるほど。

 女性なら一度は夢見ることであるし、王妃になるのが最大の幸せという見方も多い。

「私良かったですって答えたって、言ったわよね? 一度も思ったことないわ」

 お父様もお母様もそんなことは私に望まなかった。教育としていろいろなことを教わったが、それは選択肢を増やすためだ。一人娘で婿を迎え入れることも考えられていたため候補は国内外問わずだった。

 そう伝えればそちらのほうにいやな顔をされる。

「……僕ずっと前から周りを牽制していたのに、それでもそんなに候補がいたんだ。しかも国外にまで? お義父様に勝てる気がしないよ」

「どんなに候補がいても私はレイを選んだんだけど」

 お父様はきちんと、私に無理強いする気はないと言ってくれた。王妃になるのを求めなかったのもそういう理由だ。無自覚とはいえ、私がレイを好きなことにお父様が気づいていなかったら多分私に聞く前に跳ね除けられただろう。

「……そう。形だけでも、という僕の浅ましい考えは見抜かれていたんだね。だから意地悪されたわけだ」

 意地悪? 何をされたんだろう。聞いたけど教えてくれなかった。

「大丈夫? お父様、レイに厳しくない?」

「大丈夫、心配いらないよ。自分がお義父様の立場なら、と考えれば納得はいく。むしろ僕の独占を許してくれているんだから、僕には優しいほうだよ」

 顔が近づくと唇を押し当てられた。絡まっている手に力が入る。

「僕のすることに何も言わないでいてくれるのはクラリスが僕を好きになってくれたからだね。クラリスに好きになってもらえて本当に良かった」

「私も。レイが私を好きになってくれて本当に良かった」

 こちらからも手に力を入れれば嬉しそうに顔をほころばせてくれた。

意味が分からないと黙らずに軟禁を否定しましょう。合ってるけど。

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