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隠しルートには行かないで  作者: アオイ
一章 ゲーム開始前~レイ×クラリス~
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転生したのは親友ポジション

 何もきっかけというきっかけはない。

 ただある日、目が覚めたら自分の前世を思い出していた。

 といっても細かいことはよく覚えていない。自分の名前とか家族や友人のことなどまったく記憶にない。思い出したとはいうが今日の夢は内容をよく覚えているな、程度のぼんやりとした印象で、細部まで思い出そうとしても夢みたいに前後が繋がることはない。死んだのがいつかとかどんな原因でとかも覚えてないけど、それはいいか。

 ただ一つ、よく覚えていること。

 それがある乙女ゲームに関することで、あろうことか自分はそのゲームに登場する人物に転生していた。

『パロディア・マグニフィカ・スクール』と題されたこのゲームは魔法を使えるヒロインが伯爵家に養子に入り学園に入学してそこで出会うヒーロー達と恋愛を育む、よくある乙女ゲームの一つだ。よくあると言ったが他のゲームはあまり覚えていないから多分のほうが正しいかもしれない。

 そして私、クラリス・イシャーウッド。

 この令嬢、ヒロインではない。かといって悪役令嬢でもない。ヒロインの親友のポジションだ。養子に入ったとはいえ元は平民のヒロインの恋を応援する、いうなればお助けキャラクターである。ゲームの操作方法や攻略のヒントを教えてくれる。

 けれど一つだけ。ヒロインがある男の人のルートを選ぶと、問題がある。それはクラリスの婚約者であるレイモンドルート。初期の攻略キャラ全員をクリアすると新たに出てくる隠しルートだ。ヒロインが彼以外を選ぶルートではクラリスはレイモンドと結ばれる。



 …………え。



 ――レイモンドと結ばれる。



 えええ――――!!!!

 私ってレイと結ばれるの!? まだ婚約者でもないんですけど!?

 しかも確か両想いでラブラブだったはず。そのラブラブっぷりにヒロインが触発されて恋愛したいな、と思うところからスタートするのだ。

 何、今からどうなったらそんなことが?



「――クラリス?」

「きゃっ!」

 近くで聞こえた声にびっくりして悲鳴を上げてしまう。慌てて口に手を当てながら声の持ち主を見た。

「レ、レイ。ノックもせずにいきなり何?」

「ノックはしたよ。君が全然気づいてくれないから。……何かあったの?」

「う、ううん。ちょっと考え事してただけ」

 気づかないほど考えていたなんて。もう昼食も終わってお茶を楽しんでいる時間なのに、私ったら前世の記憶に大分混乱してるわね。大丈夫、と答えればレイが安心したように笑ったので私もつられて笑った。

 三歳年上の幼馴染、レイモンド・ロングハースト。私は「レイ」と呼んでいる。私の誕生日は3月と遅いので学年で考えれば二年上だ。父親同士が親友の上王都にある屋敷が近いのでよく遊びに来てくれる。見目麗しい外見で、顔は中性的ではあるけれど肩幅は広いし背も高いので女性と間違われることはない。肩より少し長い黒髪を後ろで結んでいる。結んでいる赤い髪紐は昔私が彼にあげたものだ。もともとは私のもの。あげた理由はただ単にうっとうしそうにしていたから。切ればいいのに、と言ったら

「でも君、僕の髪好きでしょ?」

 と言われたことを思い出す。うん、確かに好きだ。ちょっと硬いんだけどツヤがあって綺麗なのよね。私がパーマなのでストレートが羨ましいというのもある。今でも大事にしてくれている。じっと見ていたら不思議そうに首を傾けられた。

「どうしたの?」

「ううん、何でもない。レイの髪はいつも綺麗だなあ、って思って。見惚れてた」

「そ、そう」

 黒髪もいいけど、宝石のような赤い色の瞳も素敵だ。私は赤い色が好きで服も小物も赤が多い。今だって淡い赤色のドレスを着ている。レイの瞳くらい鮮やかではないけどお気に入りの一つだ。


 うーん。それにしても、なんで婚約者になったんだっけ?思い出せないというか、そういう話はなかった。

 彼のルートは、正直あまりいいストーリーじゃない。全キャラの中でも最低の評価をされている。今までずっと応援してくれていた親友の恋人を取るというのも理由の一つ。それまでのルートでクラリスとレイモンドのラブっぷりがこれでもかと描写されているから、


 ――ヒロイン最低

 ――隠しルートなのにクソ

 ――レイモンドの鞍替え無理

 ――何こいつ、ずっとクラリスが好きだったんじゃないの? 何があった?

 ――いきなりのキャラ変にびっくり


 のように、ヒロインへの否定もあるけどレイモンドが裏切ったみたいな感じになってすごく評価が悪かった。

 というか無理があるのよ。ヒロインはヒロインで唐突に告白するし、レイモンドもあれだけラブラブで他のルートでは結婚するのに「実は君が好きなんだ」といきなり打ち明けて来る。この前までヒロインに惚気たりしていたのは何だったのかと問いたくなるほど矛盾したストーリーになる。キャラが突然変異したとしか思えない展開に非難轟々だった。あるルートではヒロインとクラリスの仲に嫉妬する描写もある。しかも彼視点で作られているのだから驚きだ。せめてそれまでのクラリスとの描写がなかったり仲の悪い婚約者だったなら納得はいくけれど、あれはない。

 そしてこのルート、他ではヒロインを手助けしていたクラリスが大好きな婚約者に婚約を解消されたというのに一切出てこないところもおかしかった。彼のルートに入るとヒントを与える役がクラリスから担任教師に変わっているのである。出てくるとすればレイモンドの「クラリスとの婚約は解消したよ。僕は君と婚約したい」という言葉くらいだ。そんな状況で恋愛されても終始はてなマークだった。製作者絶対間違えている。


 いや、待て。これはゲームじゃなくて現実だ。何周目とかはない。つまりヒロインがレイを選ぶ隠しルートは存在しない。

 ……ん? つまり、私とレイが結ばれるのは確実? 嘘でしょ。

 うーんと考えているとぴたりと額に手が当たる。

「やっぱり今日のクラリスは変だよ。ぼーっとして、体調が悪いの?」

 あ、また考え事して目の前のレイを疎かにしていた。

「ううん。そんなことない。ごめんね、レイが来てくれてるのに」

「大丈夫ならいいけど……」

 何かを探るようにこちらをじっと見ているのが居心地が悪くて、私は口を開いた。

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