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隠しルートには行かないで  作者: アオイ
二章 ゲーム開始~???ルート~
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オープニング:ヒロインとクラリス②

 次の日、早速朝からリリーの教室に向かった。扉を開けて中を覗くとざわり、と周りが騒ぐのを無視してリリーだけを見る。伯爵家や子爵家が多いこのクラスには私のお茶会の友人はいない。よくよく考えれば、同じクラスになるようにか高位貴族ばかりだった。レイったらそこまで考えていたのね。お父様より厳しくなるはずだ。

「リリー」

 名前を呼んで手を振れば彼女が来てくれた。

「クラリス?」

「会いに来ちゃった」

 昨日レイは、私を守るためにいろいろなことをしていると言っていた。私もそうしよう。

 公爵令嬢と友達。

 それだけでも大きな価値がある。まして私の後ろにはお父様とレイがいる。貴族ならそんな人の友人に手を出したりするはずがない。ゲームでは文章で仲良くなって自分も恋愛がしたい、と簡潔に書かれていたけど。まずは仲良くなりたい。ゲームが関係なくていい。

「ここは邪魔になるから、空き教室に行かない?」

 と誘えばこくりと頷いてくれた。そこで改めて自己紹介をする。主に身分の話を。当然かもしれないが、びっくりされた。

「こ、公爵家なの!?」

「うん。でも気にしないでね? 今更敬語を使われたら悲しいわ」

「う、うん」

 よかった、とほっとする。本題はこれからだ。

「昨日のようなこととか、何かあったら私の名前を出してね。そうすればたいていの貴族はいなくなるはずだから」

 お父様は恐れられているし、レイも私が会っていない人達を脅したと言っていた。あの二人が怖い存在でいてくれて感謝する。

「え。それはちょっと……。そんな、クラリスを利用するようなやり方……」

「いいの、利用して。そのための公爵家の肩書きだもの。レイ……あ、私の婚約者なんだけど、彼もそうやって私を守ってくれてるから。私が守れることがあるなら嬉しいわ。リリーに昨日のようなことがあるのは私がいや」

 実際はお父様とレイの力だけど。私みたいな世間知らずの娘が他に守れる手段なんて思いつかないので、有り難く利用させてもらおう。

 リリーは戸惑うように私を見つめてくる。

「どうしてそんなに親切にしてくれるの?」

「……? あれ、私言わなかった? 仲良くしてね、って」

 レイ以外の人とはあまり交流していないから勝手が分からない。急に押しすぎたかしら。

「あの。できれば私はリリーと仲良くなりたいんだけど……だ、ダメ?」

 昨日の今日だもの、いきなり迷惑だったかな。へこみそうになっているとリリーがあたふたと口を開く。

「ぜ、全然ダメじゃない。う、嬉しい。その……私でいいの? 私平民だし、クラリスならもっと他にもたくさん友人が……」

「私が仲良くなりたいのはリリーだけよ」

 だって他って、貴族ならお茶会に招ける友人以外はすでにレイが私の友人には相応しくないって断定してるのよね。首都に住んでいない人とか全員じゃないんだろうけど、せっかくレイが忙しい中私のために心を砕いてくれたのにそれを無駄にするなんてとんでもない。

 首をひねっていると、リリーが泣きそうな顔になった。

 え!? わ、私何かひどいこと言った? やっぱり顔怖い?!

 こういうときはどうすればいいの。助けてレイ。

 頭の中のレイは「そんな女放っておいて僕のところにおいで」となかなかひどいことを言っている。レイ、今欲しいのはそういう言葉じゃないわ。

 どうしようと悩んでいると、リリーは泣き笑いみたいな表情になる。

「あ、ありがとう……。あの、私こそ。仲良くしてくれると、嬉しい。よろしくお願いします」

 深々とお辞儀をされそうになったので慌てて止めた。

 リリーの前では、なるべく笑顔でいるように心がけよう。私には近寄りがたいオーラがあるとか言っていたし、レイの場合はいやな気持ちが吹き飛ぶって言ってくれたから。

 もう二度と泣かせないようにしたい。


 そうこうしているうちにもうすぐ授業が始まる。次、お昼に会う約束をした。

「私の教室はリリーの教室から三つ東側の角部屋よ。何か用事があったら来てね?」

「ご、ごめんね。そこに私が行くのはちょっと……」

 緊張するらしい。そうよね、考えなしだった。反省する。王子と側近もいるし。この二人とはまだ会う予定じゃないはず。リリーも私もお弁当だから食堂に行く必要はないし、人がいないところがいいと思って庭園を勧めると快く了承してくれた。




 *   *   *




 リリーのお弁当は思ったより小さい。どうやら少食らしい。女の子らしくていいな。でも私がそんなことを言ったらレイに何を言われるか分かったものじゃない。風邪を引いてあまり食べられないときでもレイのほうが病気かのように顔面蒼白になるのだ。作ってくれた料理人にも悪いし、私に好き嫌いはないので残さず食べよう。こんなに食べているのにさらにスイーツを食べないと痩せるとか、燃費が悪いな私。

 今日は風が爽やかで気持ちがいい。マグニフィカ王国は面積が広いから気候もさまざまだけど、首都で一帯に魔法が使われている王城と貴族エリア、そしてここパロディア魔法学園は比較的穏やかな気温を保っている。それでも雨が降ったり雪が降ったり四季折々の違いはある。

 今日は太陽が眩しいが紫外線はほぼ遮断されているのでリリーの色白の肌は守られるだろう。

 と、隣のリリーを見て感嘆する。思わず口を開いた。

「すごい。リリーの髪はとても綺麗ね。昨日も思っていたけど、特に太陽の光に照らされると輝くわ」

 ほう、と見惚れてしまう。私のありふれた茶髪とは大違い。うっとりしていると恥ずかしそうに俯かれた。

「あ、ありがとう」

 さすがヒロイン、なんて言えないけど。

 リリーのはにかむような笑顔は素敵。私にできることで、この笑顔を守ろう。


 それからも、休み時間やお昼の長い休み、放課後に会う場所を決めてそこに集合することにした。大抵は校舎から離れたところにある庭園だけど、空き教室や放課後の食堂、図書室、保健室とできるだけ人が少ないところを選んでいる。

 太陽の光に照らされる金髪がとても綺麗だから私は外で会うほうが好きだ。庭園は広いから見渡す範囲に人がいないことも多く、リリーも一番安心してくれる。

 心配したけど、思ったよりも穏やかに過ごせているようでほっとする。

「クラリスのおかげよ」

 と言ってくれた。

「クラリスの友人なら、って皆すごく友好的に接してきてくれるの。クラリスの友人になれる人はすごいって」

「ああ。レイが私を守るために、友人を選んでくれてたらしいの」

 だからレイのおかげよね。やっぱり。レイはリリーのことも守ってくれてることになってる。彼はゲームのことなんて知らないんだから意図してないのは分かってるけど、素敵。惚れ直しちゃう。ほら、申し訳なさそうにすることなんて何もなかったのに。あ、でもこれでリリーがレイを好きになるのはいやだなあ。

 リリーを見ればなぜか気落ちしている様子だった。

「私は、違うのに……」

「気にしないで。リリーが素敵な女性であることは間違いないんだから」

 それを遮っているのは私だ。醜い嫉妬でリリーを不安にさせるくらいなら会わせたほうがいいだろうか。リリーならレイもきっと許可してくれる。

「うん。ありがとう。クラリスにそう言ってもらえるなら嬉しい」

 ふわりと笑ってくれた。可愛い。

 ごめんね。いじめとか悪いことからは守るから、レイに会うのだけはもう少し遅らせて。

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