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隠しルートには行かないで  作者: アオイ
二章 ゲーム開始~???ルート~
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いよいよゲーム開始

 いよいよパロディア魔法学園に入学する年になった。

 鏡で最終確認をする。ゲームの登場人物、それも公爵令嬢だけあって体型は素晴らしい。出るところは出ているし引っ込んでほしいところは引っ込んでいる、と思う。ただレイはもっと太ってほしいと心配していたからギリギリなのだろう。髪の量が多いせいで相対的にそう見えるだけじゃないかな。違うかな。


 パロディア魔法学園に入ることができるのは魔法を使える者。学園は税金、寄付金で成り立っており費用はかからない。それだけでなく申請すれば労働力がいなくなる代わりとしてお金が支払われることもある。魔法を暴発させるよりマシだという考えだ。成人の年まで待つのは、その頃になってようやく魔力の有無が最終的に判断できるから。これ以降魔力がないと思っていたのに実はあった、ということはないらしい。

 貴族がほとんどだけど、平民も少なからずいる。もっとも校舎や何やらが違うのでお互いの行き来はほぼない。そして平民で高い魔力を持つ者は貴族の養子になることもある。ヒロインがまさにそれだ。入学前から養子に選ばれるのだから、ヒロインの魔力はとても高い。まさにゲームのヒロインとして相応しい。

 ただゲームの中では何も描写はなかったけど、この世界を知っていると複雑だ。高い魔力は畏怖の対象でもあるし、習う前なら制御も上手くできないはず。貴族でもない者が家庭教師を雇うことはほぼないだろう。平民で魔力が高いということは、相当な苦労をしていると思う。私やレイは魔法を普段からさらっと使ってしまうが、それは高位貴族なら当然なことであって普通は違う。


 まずは共通ルートで攻略キャラ全員に会うはずだ。それが終わったら個別ルートに入る。一人に対してのエンドは二種類。ハッピーとグッドでバッドはない、初心者向けのゲームだ。恋愛だけじゃなくてテストとか魔法を使って遊ぶゲームでもある。音楽ゲームのように必要なボタンを押して遊ぶ。レイモンドルートではさっさと恋人になっていたし、他のルートでもそれはある。

 攻略キャラはレイを除いて五人。

 最初から選べるのは第一王子ノア・マグニフィカ、王子の側近ブラッドリー・トムソン、義理の弟リオン・シーウェル、そして先輩ディーンの四人で、全員をクリアするとレイと担任教師ハミルトン・ワイズが追加される。

 ちなみに全キャラの中で一番人気なのがこの担任教師のルートだ。ストーリー自体は短いものの、大人の魅力でヒロインを包み込み、年の差と身分差ゆえのもどかしい展開に多くのファンが悶えた。最初は敬語で、親しくなると言葉遣いが変わるところがいい。立ち姿もスチルもいいので絵師さんのお気に入りだと噂されていたはず。

 って、それは置いておこう。隠しルートはないんだから。誰も選ばなければノーマルエンドだし、隠しルートをクリアするとハーレムルートもできるようになる。隠しルートも何周かしないと出てこないのにハーレムはさすがにないわよね?


 お願い、ヒロイン。他のキャラならお助けキャラクターらしく思いきり手伝うから、レイだけはやめて。

 ううん、大丈夫。いやな考えを振り払うように頭を振る。

 レイは隠しルートなんだし、私を好きと言ってくれたもの。例えヒロインに告白されてもOKしないはず。

 ヒロインを手伝って、早く個別ルートに入ってしまおう。

「うん、そうよ。そうしよう」

「何を?」

「きゃあっ!」

 いきなり後ろから抱きしめられてびっくりする。

 考え事していたから、鏡が目の前にあるのに近づいてくるレイにまったく気づかなかった。

 ノックの音はなかったはず。顔パスを存分に使っている。

 三年生も始業式があるからいつもより遅い登校だけど、まさかうちに来るとは思わなかった。

「ごめんね、驚かせた?」

 頭を撫でられる。うーん、私も結構成長したと思うのに子ども扱いはそのままなのよね。

「何を不安がっているの?」

「……分かる?」

「そりゃあね。可愛い眉が下がってるもの」

 眉に可愛いか可愛くないかがあるの? ちょっと離れて後ろを振り返り、レイのきりっとした眉を見つめてみる。いいとは思うけど、かっこいいかどうかは分からないなあ。

 首を傾げているとレイがくすくすと楽しそうに笑いながら頬を人差し指でつついてきた。

「何を考えていたのか分からないけど、クラリスの不安がっている表情はあまり見ていたくないよ。笑って?」

 両手を使ってむに、と無理矢理笑顔にさせようと口角を上げる。レイ、それは反対に笑いにくいわ。

 やめさせようとする前に両頬を包むように変わった。

「ああでも、学園ではあまり笑わないほうがいいかも。クラリスの笑顔を見て他の男が君に惚れてしまったら、僕は許せないからね。学園になんか行かせたくないな」

「な、何言ってるのよ」

 欲目が激しい。

「何言ってるのはクラリスのほうだよ。クラリスは可愛いんだから。あんまり油断しちゃダメだよ」

 強い眼差しを向けられ、はいと言わない限り手を離してくれなかった。


「何が不安だったのかは教えてくれないつもり?」

 やっと離してもらえたところで、また頭を撫でられる。レイってスキンシップ本当に好きよね。

 でも、さすがにその質問は答えられない。隠しルートのレイモンドルートに行くのがいや、なんて言えるわけがない。というか言ったところで訳が分からないでしょう。前世とか転生とかゲームとか、頭がおかしいと思われるのがオチだ。レイにそんな風に思われたくない。

 俯いて黙っているとレイは安心させるように髪を梳いてくる。

「言いたくないなら今は聞かないよ。秘密にされるのは寂しいから、いつか教えてくれると嬉しいけど」

 いつか、か。レイに言える日なんて来るのだろうか。分からないけど、レイを寂しがらせたいわけではないのでこくりと頷いた。

「そう、良かった」

 と安心する声が聞こえたので答えは正解だったと思う。

「それに、どちらかというと不安なのは僕のほうだよ」

 軽い調子で言われて顔を上げると微妙な顔をしていた。

「なんで?」

「何でも何も、今まで僕以外と会わせないようにしていたのに学園には老若男女がうようよいるんだよ。僕が会えない間にクラリスが誰と何をしているのか分からないなんて恐怖だよ」

 心の底からいやそうな顔をする。私が大切にされているのが分かるかわりにレイの他人への拒絶反応がすごい。本当に心配性だなあ。

 私はヒロインじゃないんだから。誰からも好かれるなんて思っていないし、好かれる必要もない。

「誰と会おうと話そうと、私が好きなのはレイだけだし好かれたいのもレイだけよ」

「クラリス」

「それに、そういうことをいうなら私のほうが心配することが多いんだから」

 ゲームもそうだし学園での生活も王城での生活も、私が屋敷にいる間に知らないレイがたくさんいる。恐怖とまではいかないけど、レイへの想いを自覚してしまったら今レイは何をしているのかな、と思うことはある。うんうん、と頷いているとレイは怪訝な顔をする。

「僕? クラリスが心配することなんて何もないよ。僕が君以外なんてあり得ない」

「じゃあ私もあり得ないわ。信じてくれないの?」

「まさか」

 即答された。ぎゅっと抱きしめられたのでこちらも抱き返す。


「一年生ほどじゃないけど僕のところも今日は早く終わるから。終わったら会いに行くね」

「うん。待ってる」

 額を突き合わせて笑う。

「可愛い。やっぱり学園になんか行かせたくない」

 あれ? なんで振り出しに戻ったの?


 うーん、すっかりゲームでのラブラブカップルになってしまった。幸せだからいいけど。

 ヒロインはどんな子かしら。仲良くなれるといいな。

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