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隠しルートには行かないで  作者: アオイ
一章 ゲーム開始前~レイ×クラリス~
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作戦その③

 時折頭を撫でてくれる。確かに太ももは硬いけど私枕は軟らかいより硬いほうが好きだし、十分気持ちがいい。

 うーん、眠ってしまいそうだわ。

「眠ってもいいよ? 起こしてあげるから。今日持ってきたのはマドレーヌとかフィナンシェとかのバターケーキだからいつ食べてもいいし」

 うわあ、楽しみ。忙しいのに作ってくれてるのよね、本当にすごいなあ。

「ねえレイ、ちょっと聞いてもいい? どうすればいつもそんなに上手に作れるの? 私も作ってレイに食べさせようと思ったのに、失敗しちゃったわ」

「何を作ろうとしたの?」

「クッキーなんだけど、生焼けになったり黒焦げになったり……無事なところが本当に少なくて。歪な形になっちゃったし、無事なところはお父様にあげちゃった」


 バギッ


「……え?」

 何かが壊れた音がして顔を上げれば、レイが手に持っていたペンが折れていた。

「レ、レイ?」

 顔を見れば、にこやかに笑っている。というか止まっている? ……笑っているはずなのに怖いのはなぜだろう。

 しかしレイがふう、と息を吐き手を見つめる頃には怖い空気はなくなっていた。

「ああ、しまった。ごめんね、驚かせた? クラリスが初めて作ったものが僕じゃなくてお義父様の口に入ってしまったなんて、本当に残念だな。さすがにお義父様に嫉妬を向けるわけにはいかないし……」

 小さく舌打ちが聞こえる。それにはっとして急いでレイの手を掴みまじまじと見つめた。

「レイ……手、大丈夫?」

「大丈夫だよ。だけど慰めて」

「え?」

 怪我がないことにほっとしていたらぐいっと腕を引かれ抱きしめられた。な、なんかさらにスキンシップ増えてない? 頭を撫でながら口を尖らせる。

「あー、悔しいなあ。生焼けだろうが黒焦げだろうが喜んで食べたのに」

「何言ってるのよ。そんなの食べさせられるわけないじゃない。病気になったらどうするの」

「それでもいいけど」

「私がよくないわ!」

 レイをぎゅっと抱きしめる。何を言ってるの、もう。

「私のせいでレイが病気になるなんて絶対ダメ」

 そんなことになったら自分を許せない。でも、さすがにあの歪な形をレイにあげるのは恥ずかしかったし……。レイにあげるなら完璧なものにしたい。

「…………クラリス、ちょっとだけ苦しい、かな」

「あ、ごめんなさい」

 気づかないうちに力を込めてたみたい。離れようとした私を再度抱き寄せる。

「離れるのはダメ。まあ僕も似たようなものだから気持ちは分かるけどね。でも僕はちゃんと自分一人で食べたよ。――だから、これからは誰にもあげないでね?」

 あれ、また空気が怖い。なぜかひんやりしている。抱きしめられているのでレイの表情は分からないが、腕の中でこくこくと頷いた。

「ああ、でも料理は包丁を握って怪我したりやけどしたり危ないことも多いから、クラリスはもうしなくていいよ。僕が作ったものを食べてくれれば嬉しい」

 それにも首を縦に振る。そうすればだんだん空気が元に戻っていった。

 ううっ、嬉しがらせるどころかレイを怒らせちゃった。あまり心配させないようにしなくちゃ。

 もぞもぞと動いて彼の背中に腕を回して抱きしめ返す。うん、やっぱりスキンシップは恥ずかしいけど彼の温もりに包まれるのは結構好き。

「レイ、大好き」

 今ならいいわよね?

 レイがふっと笑う気配がして、頭に唇が落とされる。

「本当に、こうやって嫌がらずに受け入れてくれるだけで嬉しいんだよ」

「……? 今レイを嫌がるようなところあった?」

 顔を上げてレイを見つめればレイはとても満足そうに微笑む。

 分からない。まったく分からない。レイの嬉しがるポイントってどこ?

 大人になったら分かるものなの?

 私がはてなマークを浮かべていることは知っているはずなのにレイは相変わらず笑っている。

 うー、悔しい。

 これじゃいつまでたっても子どもじゃない。


 こうなったら。最後の作戦だ。

 首を伸ばして、レイの唇に顔を寄せた。ふに、と何かに当たったので、恥ずかしくなってすぐ離れる。

 私からキスしたのは初めてだ。

 ああ、レイを照れさせる作戦なのに私のほうが先に赤くなってどうするのよ。

 レイの笑みは消えてぽかんとした顔で私を見つめている。

「わ、私からはしたことがなかったから……」

 抱きしめるのはパニックになっていたとはいえ私からしてしまったし、さっきの膝枕のときに頭も撫でた。手は昔から繋いでいるし、後はこれくらいしか……。

 また困らせたかなあ。

 気落ちしそうになっていると、レイがにっこりと笑みを浮かべた。

「じゃあ、もう一回して」

「え?」

「さっきは一瞬だったし、びっくりしてあまり感触を覚えていないんだ。もったいないでしょ?」

 ほら、と目を瞑ってしまう。

 何これ、もしかして私がキスしないと終わらない感じ? でも、これは喜んでくれている? 成功、なの、かな?

 恥ずかしいけどレイが喜んでくれるのなら、と唇を押し当てる。前回より長めに、と気持ち頑張ってみる。結果がどうだったのかよく分からないけど離れた後で目を開けたレイは嬉しそうに表情を緩めていた。

 ぽんぽんと褒めるように頭を撫でられながら抱き込められる。

「ありがとう、クラリス」

 くすくすと楽しそうに笑う声が聞こえる。

「あーあ、なんで僕待つって言ったのかな? 自覚したらここまでヘビの生殺し状態になるとは思わなかったよ」

 ヘビの生殺しって苦しいときに言う言葉なのに、なんでこんなに嬉しそうなの?

 レイが壊れたのかと不安になる。

 それでもレイは相変わらずくすくす笑っていて、優しく抱きしめられる。

「早く大人になって、結婚しようね」

「……うん」

 レイの胸に頭を寄せる。心地いい心音にそっと目を閉じた。それなのにレイの言葉で目が覚める。


「ああ、それと。少し違うよ。クラリスからのキスは初めてじゃないよ。というより僕達のファーストキスは君からだった」

「…………え?」

「覚えてないよね。クラリスはまだ3歳の可愛いときだったし」

 もちろん今も可愛いけど、といういらない台詞をつけてくる。

 それよりも言われた言葉を理解するのにちょっと時間がかかった。

 さん、さい?

 き、記憶にないんだけど。

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