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本命チョコとは?

 もうすぐバレンタインになるからレイと一緒にチョコレートを買いに行くことになった。

 この時期になると西エリアにチョコだけを売っているスペースができる。

 店構えからしてどれもこれも華やかで見ているだけでも楽しい。

 人が多いのではぐれないように手を繋いだ。

 両親も一緒に来たけれどお母様がお父様にあげる物は毎年決まっているお店の商品だから早々に買っていた。「決めたら教えて」と現在はカフェにいる。レイの両親はお仕事だ。

 店員さんもお客さんも女の人ばかりだからレイもあまり不機嫌じゃない。ついてきてくれている護衛の人も女性。

 むしろこの時期はご機嫌だ。時々鼻歌を口ずさんでいる。

「クラリスが僕のためにチョコを選んでくれるんだもの。いい日だよね!」

 よく分からないけど、レイが幸せそうなら私も幸せ。

「ふふ、二人きり。嬉しい! クラリス、いっぱい悩んでね!」

 いっぱい悩むの? この時期のレイが言うことは理解できないことが多い。


 有名店ばかりが出店しているし、この時期限定のチョコもある。美味しそう。幸いにも試食できるので気になった物は食べながら見ていく。

 どうしようかな。隣にいるレイを見るとレイは何故かお店のチョコでなく私を見ていた。話したいことがあるのかとじっと見ていてもレイはにこにこ笑ったまま。

「レイは食べたいのない?」

 私が質問したらレイは改めてお店のチョコを見回す。

「んーと、できるだけ大きいのがいいかな」

「レイはチョコが好きなのね」

「チョコ……というか、そのほうが本命っぽいかな、と」

 大きいと本命っぽいの?

「分かった、レイのは一番大きいのにする」

「いいの?」

 レイの瞳が輝く。レイはチョコが大好きらしい。

「お店のだと小さい? もっと大きいほうがいい?」

「本命? 本命?」

 私の質問に答えてくれないままレイが質問してくる。どうしたんだろう。

「毎年本命よ」

「え、じゃ、じゃあ……!」

「お父様とお母様へも同じのにする! 本命だもの!」

「…………そ、そう」

 あれ? レイの勢いが弱まっていく。私と反対の方向を見て手を顎に当てた。

「両親と同じくらいか……うーん、どうなんだこれ」

 聞こえない。何を考えているのかしら。


 それにしても、大きい物、かあ。

 お店の物って、小さいチョコを複数が多いのよね。大きいチョコはあまりない。箱を大きくすればいいかな。両親へも同じ物にする予定だから飽きないようにいろいろな種類が入っているのにしよう。

 レイに相談したら快諾してくれたので最終的に私が今一番好きなお店のチョコを選んだ。

 出すお金は私のおこづかいからにしてと頼んでいるが、払ってくれるのはお父様。一度カフェまで行ってお父様達を迎えに行くと「私達はそこまで大きくなくていいよ」と言われたためレイのより小さい箱にした。

「クラリスはこのお店のチョコの味が好きなんだね。なるほど」

 会計中、レイはまた考える仕草をしながらぼそぼそ呟く。その後はすごく幸せそうな笑顔で大事そうに箱が入った袋を持っていた。

 うん、レイは本当にチョコレートが好きなんだわ。


 一か月後のホワイトデー、レイはいつも通り赤いチューリップを持って屋敷に遊びに来てくれた。チューリップが好きなのかしら?

「クラリス、どうぞ」

「ありがとう」

 赤い花は私も好き。私がレイの瞳の色が好きなことを知っているおかげでそれに近い物を選んでくれている。そして毎年本数が増えている。私の年齢だ。

「赤い色に囲まれているクラリス……ふふふふふ」

 レイも笑ってくれている。後ろにいる使用人達は顔が引き攣っていたけれど何故?

「本当にありがとう。大切にする」

「うん」

 レイが穏やかな表情で私を見つめている。その顔を見ると私の心も温かくなる。

 来年はもっとたくさんのチョコにしようと今から考えることにした。




 *   *   *




 恋人になってから初めてのバレンタイン。

「デートしよう!」

 とハイテンションのレイに言われて買い物に来た。もちろん手を繋ぐ。

 レイが成人したため両親なしで二人きりだ。だからデートなのかな?

 同じことをしているのに、去年までのはデートじゃないのね。

「ううん、僕はデートだと思っていたよ」

 ……? やっぱりこの時期のレイが言っていることは分かりづらい。デートって何なのかしら。

 今年はどんなのがいいか聞いてみるとレイは感動したように打ち震えていた。

「クラリスが僕に本命を……ああ、幸せだ」

「……? 毎年本命だったわよ?」

「両親と一緒のでしょ? 僕は恋人として本命が良かったんだよ」

 拗ねたように頬を膨らませる。

「両親と一緒のじゃダメなの?」

「もちろんいいよ。クラリスの気持ちの問題かな」

 ……? よく分からない。レイと両親を一緒に考えたことはないのに。

「それはつまりクラリスはずっと前から僕のことを……? いつから好きだったんだ? あああ、僕としたことがチャンスを逃し続けていたなんて」

 そしてこの時期はレイの独り言が多い。考えているところ悪いけれど、質問していいかな。

 恋人として本命のチョコとはどういうチョコなのか。私の質問にレイは俯いていた顔をぱっと上げる。集中していたはずなのにいつでも私を優先してくれる。うん、こういうところも好き。

「そうだね、例えばクラリスの僕への気持ちの大きさと同じくらいがいいかな」

 私のレイへの気持ちと同じ大きさ?

 お店のチョコを見なくても分かる。小さい。

 そもそも私の気持ちはお店よりも大きいわ。いえ、国どころか世界の大きさにも負ける気はない。

 そんなチョコがどこにあるのかしら。あったとしても食べられないのでは?

 困ってレイを見つめる。

「私の気持ちを大きさに表そうとしたら、この世の中にあるチョコじゃ小さすぎて無理ね。大きすぎて食べ切る前にチョコの期限が切れちゃうかも。ごめんなさい、レイが一人で食べられる大きさにしてもいい?」

「ああ、もうその言葉だけでお腹いっぱいだよ。もう一度言って、記録魔法使うから」

 レイは何故か満足そうに喜色を浮かべる。言葉だけでいいの? レイの幸せの基準って低いのね。私、もっとレイを幸せにするために頑張らないと。レイはもっと欲張りになっていいと思う。


「小さくてもいいよ。毎年クラリスが心を込めてくれるって決まっているからね。幸せ」

 ご機嫌なレイは良かったと思うが衝撃的な言葉が聞こえた。

 小さくても、いい? 大きさにこだわっていたのでは?

「レイ、チョコ好きじゃなかったの!?」

「僕が好きなのはクラリスだよ」

 即答されて私が顔を真っ赤にすると「可愛い」と呟かれる。繋いでないほうの手で頭を撫でられた。

「え、えっと、今までは私があげたチョコレート一人で全部食べてたわよね?」

「そりゃあもちろんクラリスにもらった物だもの、誰にもあげない! ……あ、もしかしてクラリス食べたかった? うわ、ごめん。僕一人で食べちゃってた」

 誤解されて慌てて否定する。私はレイにあげることを考えて選んだ。食べたいと思ったことはない。

 伝えるとレイが安心したように目を細めてくれた。

「ありがとう。チョコも好きだよ。確かに大きいのがいいって言ったけど、物理的な大きさにこだわる必要はないかな。君の気持ちがたくさん入っているチョコがいい」

 これ市販品よね? どうやって入れればいいの?

「ふふ、だからいっぱい悩んで。僕のことを考えながらこれが一番いい、レイにあげたい、って思ってくれる物が欲しいんだ」

 それはやっぱり今までとどう違うのかしら。

「恋人としての本命って難しいのね」

「クラリスがいつから僕のことを好きだったかのほうが難しいよ」

 ……? それ今関係ある?




 *   *   *




 私が学園に入ってからはお店に行くことなく、レイと一緒に作ることになった。もちろんリリーも一緒。

 一年目と同じくレイといちゃいちゃしながらもチョコケーキを作り、当日はほとんど私が食べてしまった。

 これを本命と言えるのかしら。

「もちろん本命だよ。クラリスからの愛情も僕からの愛情もたっぷり入っているからね、最高の本命だよ」

 聞いてみればちゅ、と頬にキスしてくる。確かに、レイのことを考えて作ったのだから市販品よりも心を込めた、というのは正しいはず。

「レイはこれからも手作りがいい?」

「もちろん! 僕達の味覚に合わせて作れるし作る時はともかく食べる時は二人きりだし。もうお店に行ってクラリスを周りの視線にさらすこともなくなる。いいことずくめだ」

 去年は両親の分を買っていたけど今年はクッキーを作ってプレゼントした。

 女性ばかりだったのに、レイ嫉妬していたの? レイは本当に大変だわ。


「チョコっていいよね、口の中で溶けることを利用していっぱいキスできるから」

 機嫌良く鼻歌を歌っている。それは普通の食べ方ではないと思う。

 そういえば、手作りになった途端レイは私に食べさせるようになったのよね。何故か聞いてみた。

「そりゃあやっぱり手作りだからクラリスにも食べてほしくて。君と一緒に食べるほうが美味しいって気付いたからね。後……まあ、いちゃいちゃするための口実として便利だから……」

 んん? 口実?

「口実がないといちゃいちゃしてくれないの?」

 それは寂しいわ。

 でも今までそうだったかしら? 違うと思うのに。バレンタイン以外にもチョコの口移しはあったし、スイーツを食べてなくてもいちゃいちゃしていたはず。

 私は口実がなくてもいつだってレイといちゃいちゃしたいわ。

 それをレイに伝えよう。

 そう思うと同時に抱きしめられた。

 レイがわなわなと震えている。

「レイ?」

「あああ、可愛い。後一年、がんばれ僕」

 ちゅ、ちゅと顔にキスされて頬ずりされた。

「結婚したら一日中いちゃいちゃしようね。おじいさんおばあさんになってもいちゃいちゃしようね。来世でももちろんいちゃいちゃしようね!」

 同意したいけど、一つ訂正を。

「私は今いちゃいちゃしたいわ」

「…………そっか、これクラリスの中では誘惑じゃないんだ」

 またふるふると揺れ動く。誘惑って、確かしないでと言われていたわね。ということは。

「これ誘惑なの? もう言わないほうがいい?」

「誘惑じゃないと思う。だからいつでも言って」

 いいの?

「大丈夫、僕が我慢してがんばればいいだけだから。うん、後一年。大丈夫、がんばれる」

 レイは頑張ることが多いのね。私が少しでも癒してあげられたら、と頬にキスをする。レイからの口づけは唇に返ってきた。ん、チョコの味がする。


 今年のホワイトデーも私から花と手紙を贈ろう。

 本命チョコが何かは未だに分からないけど、私の本命がレイなのは確かだわ。

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