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これからも楽しみ

 幼い頃、夏の日にノースリーブのドレスを着ていたらレイに注意された。

「クラリス、ちょっと露出多くない?」

「そう?」

 夏だからこれくらい、と思ったがレイは気に入らないようだった。薄手の上着を持って来るよう近くにいたメイドに指示すると部屋の温度を魔法で調節する。

「ダメ、もっと着て。ここはちゃんと温度調節できるんだから、そんな薄着で風邪を引いたらどうするの?」

「風邪引いちゃうの?」

「引くかもしれないことはあらかじめ避けないと」

「そっか。分かった」


 あの時は素直に頷いたものの、今思えば私が露出の低い服ばかりなのはレイが嫌がったからか。レイって本当に心配性。私の健康に私以上に気を配ってくれている。

 そのわりに結婚したら服を脱がされることが多かった。レイが休みの日は蜜月期の時みたいに寝室に閉じ込められたこともある。温かい毛布の中で部屋も温度調節していたけれど、昔は一体何だったのかしら。

 今は昔以上に厚着してと言われている。

 自室でレイが作ってくれたガレット・デ・ロワを食べ終えてその話をしたところ、レイは罰が悪そうな顔をした。クリスマスもなくて新年も祝わないのにこういうお菓子は存在する辺りがゲームの世界よね。

「……あれ本当は他人に君の肌を見せたくなかったからなんだ」

 他人?

「私家の中にいたわよ?」

「使用人に見られていたでしょ」

 あらまあ。

 あれ以降はそのドレスを着ることなく夏でも長袖だった。そういえば、リリーに伝えたら微妙な顔をされたわね。

「レイって嫉妬しない人いるの?」

「……君の両親には多分」

 多分? 私の両親で?

 リリーのことを許してくれたのって、どれだけ破格の待遇だったんだろう。最初ゲームのことをレイは知らなかった。かなりいやだと感じていたに違いないのに、私のお願いを叶えてくれたんだ。

 おまけに一緒に応援までしてくれた。ゲームなんて関係ないと突っぱねても不思議じゃないくらい嫉妬深いのに。

 それを告げてみたら

「そりゃあね。めっちゃくちゃ嫉妬したけど。クラリスの嫌がることはしたくないよ。君にはいつでも笑っていてほしいんだ」

 レイは自身をヤンデレだと言うけれど、いつでも私の意思を優先してくれる。両手を伸ばしてレイに抱きつけば柔らかく抱き返された。

「ありがとう、レイ。そういうところも大好きよ」

「受け入れるんだよね、やっぱり。感謝するのは僕のほうだよ。ありがとう、クラリス。愛してるよ」

「あ、でも子どもにまで嫉妬するのはちょっと困るかも」

 顔を上げてレイと目を合わせれば苦笑される。

「そこでちょっとと言うところが君のすごいところだよね。確かに、僕は息子にすら嫉妬するかもしれないと思っていたんだけどね。今は分かるよ、大丈夫」

 私のお腹を撫でる手は優しい。膨らみはまだほとんどない。

「むしろ君の血を分けている子を他人に見せたくないな」

「レイって娘ができたらその相手にすごく厳しそうね」

「……そこは僕も考えている。お義父様ってすごいね。君が3歳の頃から僕の独占を許していたなんて、僕には考えられないや。君は一人娘だし。せめて君に似ていなかったら…………関係ないな」

「じゃあ娘にはレイみたいな人が傍にいたら安心ということね」

 私がうんうん、と頷いているのにレイはむしろ顔を歪めた。

「僕……に? いやあ、どうだろう。自分で言うのも何だけどこんな人間は二人もいちゃいけないよ。娘がクラリスみたいに育たなければ大変だと思う」

「レイと私はお似合いってこと? 嬉しいわ」

 にこりと笑うとレイも笑顔になって頬を撫でられる。

「そういうところも大好きだよ、クラリス。僕は恵まれているね。ま、とりあえず娘が生まれて候補ができたら潰すかどうか考えることにするよ。今考えても怖いことしか浮かばないから」

 潰すかどうかの時点ですでに怖いんだけど、それは言わないほうがいいかな。

「大丈夫だと思うわ。だって私達の子どもだもの」

「クラリスに言われるとそう思うよ。そうだね、僕が怖くなってもクラリスが笑ってくれればなくなるから、お似合いの相手ができるよう祈るよ」

 お互いの額を合わせる。うん、この子が男の子でも女の子でもきっと大丈夫。

 レイはお父様のことを言っていたが、独占を許していたのはお義父様の息子だから、というのが大きい。

 ということは。リリーかディーンの息子だったらいいかしら?

「却下」

「……私まだ何も言ってないわ」

「確かにディーンは公爵家だけどあいつの家系は天才、完璧を求めるから面倒だし、ワイズ家に嫁いでしまったら滅多に会えなくなるんだよ、ダメ!」

 まだ生まれてもいないのに判定が厳しい。

 私達が相手を決めることではないわね。この子が好きになった子と両想いになれることを願うわ。

「僕に似ませんように。僕に似ませんように。僕に似ませんように」

 どうしたの、レイ?




 *   *   *




 リリーと手紙のやり取りはよくしているが、今回の内容には驚いた。ワイズ領と王都を行き来しやすくする魔具を開発中だなんて。まだ構想の段階らしいけど、オーウェンは知っていたのかしら?

 リリーからの手紙を読み終え笑顔のまま隣で一緒に見ていたレイを見上げた。

「すごいわ、リリー。ね?」

「あの女……僕とクラリスの邪魔をする気か」

 レイは笑っていなかった。暗い顔で何やらぶつぶつ呟いている。レイ、それは被害妄想というものよ。

 手紙をテーブルに置き、彼の首に手を回して頬にキスを送る。

「リリーががんばっているのはワイズ領のためでしょ。私はここにいるんだから、怒らないで」

「うー……ねえ、僕の知らないところで会わないでね」

 ゆっくり腕を回されて額にキスされる。

「というか会えないわよね? この屋敷の魔法で」

 屋敷に入れる人は限定されている。イシャーウッド家もそうだった、泥棒対策だ。それさえなければ幼い頃から毎日会いに行ったのに、と悔しそうに語っていたのはレイである。

 手紙が届いた時は皆玄関を出てから受け取っている。

 クラリスは外に出たらダメ、と言われた。庭は許可されているけど夕方以降に出てはいけない。理由は暗くなって足元が危ないから。歩く時すら気を付けてね、と心配性に拍車がかかっている。

「今は無理よね。リリーも知っているから家には来ないと思うわ。というより、あれってワイズ領に来る方達用でしょ? 男爵夫人のリリーがすぐこっちに来たら別の目的だと邪推されてしまうかも」

「すぐ無理なのは分かっているよ。でも今後必ずあるって確定していることだから」

 ぷくり、と膨らましたレイの頬をつついてみればすぐ苦笑いに変わった。

「レイと一緒なら会っていいのよね? レイ、私貴方を妬かせる気はないわ。他人が嫌がることをしないのは当然のことでしょう?」

「だって僕のいやな範囲広すぎるし。……クラリスはいやじゃない範囲が広すぎると思うけど」

「だってじゃないの。レイがいやだって言うなら私はしない、それだけ」

「ああもう、本当に大好き。僕最高に幸せだよ」

 愛し気にお腹を撫でてくる。もう習慣になってしまったみたい。まだまだ先の話なのに。


「リリーだって来るならハミルトン先生……今はワイズ男爵ね、と一緒でしょうから、四人でいろいろ話せるかしら。あ、その時はオーウェンも一緒がいいわ」

「どんどん人が増える……後でちゃんと僕と二人きりの時間取ってね」

 頬ずりされる。レイって本当独占欲強いのね。公爵家じゃなかったら使用人解雇とかあり得そう。

「まさか。クラリスが嫌がることはしないよ」

「ありがとう。大好き」

「可愛い。君の笑顔が見られるならいくらでも」

 ちゅ、と額にキスされて私もし返せばレイが笑顔に変わる。うん、レイが幸せそうなら私も幸せよ。

「あ。もし行き来しやすくなればレイが言っていた問題は解決……」

「却下」

 レイは真顔になっていた。

「男の子でも女の子でも子どもがどうしてもと言うなら考えるよ。けれど僕達の子どもがクラリスが一目惚れしたあの女の子どもと一緒になるなんて、僕はできる限り反対するからね!」

 こっちのほうが本音っぽい。

 レイって、大変ね。どうしてもなら我慢するんだ。絶対じゃなくてできる限りなんだ。私が言うのも何だけど、弱そう。

 ふふ、と笑えば私の考えが分かったのか少しだけ拗ねた顔をする。こういう時私からキスをすると結構簡単に機嫌が直ってくれる。キスのパワーはすごい。

 私がお腹に手を当てればレイがその上にかぶせてきた。額を合わせて笑い合う。

 この子の将来がどうなるか分からないけど、とにかく、どうなろうと楽しみだわ。

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