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隠しルートには行かないで  作者: アオイ
三章 ハッピーエンドへ向かって
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もっとして

「ゲームでクラリスルートって本当にないんだよね? 僕以外にあんな顔しないでよ」

 どんな顔だったのかしら。話し合いが終わって、今リリーはオーウェンと話している。リリーが敬語でオーウェンが敬語を使わないことに最初レイ達は驚いていたが「師匠」という言葉で納得したらしい。それでも

「何の師匠だ? マナーか? 姿勢?」

 とディーンは不思議そうだった。確か姿勢もオーウェンのおかげで良くなった、とリリーが言っていたからそれに肯定しておく。友人とはいえよその屋敷の執事がマナーの講師、とディーンはさらに怪訝な顔をしていた。


 周りに聞こえないようにレイは小声で話しかけてくる。耳に近すぎて時折唇が当たるのだけど、それ勘弁して。

「んっ、ないわ。リリーが魅力的なのはいつものことだから、そんなに妬かないで」

「いつもリリー・シーウェルにときめいているの? 僕より?」

 ときめく回数ならもちろんレイのほうが多いに決まっているじゃない。それを告げたらレイの機嫌が直り「てめえ、チョロいな」と呆れるディーンの言葉にも笑顔で返事をする。素敵な笑顔だったのにディーンは怖がった。


「はい、クラリス。あーん」

 話し合いが終わったからいいと思ったのか切り分けられたカステラを差し出される。私もいいか、と思い素直に口を開けた。あ、この前食べたお店の物より美味しい。

「ありがとうレイ、とても美味しいわ」

「ふふ、良かった。今度はクッキーにする?」

「うん。レイもどうぞ」

 食べさせ合いっこしているとディーンが「オレ、帰っていいか?」と憔悴した顔で呟く。

「いいよ。というかいつまでクラリスの屋敷にいるつもり?」

「来いっつったのはてめえだろうが! あーあーまったく、バカップルは疲れるぜ」

 ディーンは立ち上がるとリリーをちらりと見た。オーウェンとの話が盛り上がっているから、別れの挨拶をするかどうか迷っているのかしら。私がリリーに伝える前にレイが口を開く。

「ディーン、当日はよろしくね。くれぐれもリリー・シーウェルを殿下や周りから守ってよ。彼女には好きな人がいるからさ、他の男となんて可哀想だろ?」

 …………? ん? 何かレイの声色に違和感を覚えたけど気のせい?

 ディーンはレイを一瞥すると髪をかき上げながら息を吐く。

「はいよ。ったく、欠席にすりゃあ良かったぜ」

 言うなり手を振って出て行ってしまった。オーウェンじゃない別の執事が玄関先まで案内してくれるそうだ。

 オーウェンが視線で指示を送ったことでリリーが自分も帰ったほうがいいかと慌てていたが思う存分オーウェンと語り合ってほしい。ディーンがいなくなったならハミルトン先生の話もできるものね。

 リリーはほっとしたように笑ってオーウェンとの話を続ける。オーウェンはリリーのために紅茶を淹れ直してくれて、私達もご相伴にあずかった。うん、美味しいわ。

「お嬢様……私はイシャーウッド家の執事ですよ」

 何故かオーウェンに当然のことを言われた。




 *   *   *




 リリーが帰った後は私の部屋に移動する。レイは夕飯も食べていくらしい。

 部屋に入ったら待っていたかのようにレイに口づけられた。

「ぁ……」

「またパワーをちょうだい」

 最近のレイが頻繁に用いる言い回しだ。何度も唇にキスされる間、レイの両手が髪を撫でたり背中を撫でたり、耳を摩ったり移動していく。な、何、何。背筋がぞわぞわして力が抜けてしまいそう。

 首へ移動しようとしたレイに待ったをかけた。

「あの、パーティーが近くなったらキスマークはやめて。パーティードレスはハイネックじゃないの」

 レイが毎日のようにつけるせいで結局何日後に消えるのかよく分からないままだ。

「っ……そうだった。くそっ、殿下め」

 そして近頃は殿下への恨み言ばかりな気が。大きな舌打ちをされるとソファーに移動した。また唇が降りてきて、今度は首を撫でられる。恥ずかしいと思うのに同時に気持ちがいいと感じてしまう。訳が分からなくてやめてほしいような、もっとしてほしいような。のぼせたようなこの気分は何なのだろう。

 気付けば離れていこうとしたレイの服を握りしめていた。

「や、やだ。もっとして」

 まだ離れたくない。やめてほしいは嘘なの。レイが何かを我慢するように眉間にしわを寄せる。

「っ……キス好き?」

「うん、レイとのキスすごく好き。気持ちがいいの」

「もう、本当に大好き」

 お願い通り唇が塞がれた。なのに足りないと思ってしまう。もっと。いっぱい。触ってほしい。

 私の想いとは裏腹に時間が経てばレイが離れていってしまう。

「あっ……。レイ」

 催促したがレイは私の頬に手を当てると苦笑いする。

「ごめんね、これ以上は僕の理性が限界だよ。卒業後にね」

 頬にある手を包んで頬ずりする。本当は、いやだけど。

「……うん。卒業したら、いっぱいして」

 そう言って微笑むと、レイは胸元を掴んですごく苦しんでいた。

「ああ、早く時間が過ぎないかと思ってしまう。待つって決めたのに。クラリスエロすぎ」

 エロ、ってなあに? 聞く前にレイに「聞かないで」と言われる。息苦しそうな顔をしているけど、大丈夫? いつもレイは私より呼吸が上手なのに。

「後何か月だ……がんばれ僕」

 嘆くように呟いていた。……私がキスの催促したの、ダメだったかな。




 *   *   *




 そして来た夏休み。殿下の誕生日、である。

 パーティードレスなんて久しぶり。国王陛下の誕生祭に出かけた時以来だ。その時も去年の王子のも挨拶が終わったらすぐ退出した。そもそも私はパーティー自体あまり参加しない。両親は何も言わないけどメイド達は「お嬢様を着飾らせる機会が少ない」と嘆いていたこともあった。

 だから今日みたいな日は朝から張り切っている。

「他人が近付けなくなるようにするんですよね! それはもうお綺麗にしますね! 腕が鳴りますね! お嬢様は元々お綺麗ですから素敵です!」

 皆テンションが高い。褒めてくれるのは嬉しいが、うちの使用人は私に甘すぎである。……あれ、私に厳しい人って誰?

 お母様は厳しいというより正しい人だし、家庭教師の方々も皆厳しくはなかったような……あれえ?

 クリーム色のドレスで髪はサイドに流し、アクセサリーは赤い物を選ぶ。ネックレスと指輪は絶対だ。

 完成した姿に皆満足している。お母様にも絶賛された。


 そして約束した時間より少し前にレイは私を迎えに来てくれた。

 真っ黒なスーツと、私に合わせて胸元に赤い小物。

「レイかっこいい」

「ありがとう。クラリス、とても綺麗だよ。本当に、他人に見せたくないくらいに。クラリスの可愛い項が丸見えだなんて……皆欠席しないかな」

「レイ……」

 まだ言ってるの? じーっと首を見られる。このドレスを着るからとここ最近、キスマークはつけないようにお願いしたので拗ねている。それでもネックレスと指輪を見れば少し機嫌が直ってくれた。

「ごめんね。今日一日お願い」

 抱きしめると抱きしめ返される。どちらからともなく口づけを交わした。

「私ずっとレイの傍にいるから。レイも離れないでね」

「言われなくても。クラリスはずっと僕の腕の中にいて。僕ががんばれるのは君のためだよ」

 王城に行く前にリリー達と合流しようと提案したのはレイに止められてしまった。

「二人きりになりたいというのももちろんあるけど、きちんと考えがあって言ってるよ。だからクラリス、ちょっと耳を貸して」

 抱きしめているんだからひそひそ話は必要ないと思う。それでも素直に耳を傾けレイに告げられた言葉に目をぱちくりとさせた。

 ……? 何それ? それって王城でしないといけないことなの? 言われなくてもリリーに会ったら思わずしてしまうと思う。

「もちろん。これもお助けだよ。リリー・シーウェルはクラリスの親友。学園に在学している人は知っているけれど王都内ではまだそれほど有名じゃない。パーティーに来る連中にまず知らせないとね、彼女に危害を加えるということはイシャーウッド家とロングハースト家を敵に回すことだって」

 わあ、いい笑顔。私の周りは頼もしい人達ばかりで嬉しいわ。

 レイは私の手を取り指輪にキスをして、そしてネックレスにもキスをしてきた。指はともかく首はびっくりした。

「と……本当はもう少しいちゃいちゃしたいけど約束の時間に遅れたらディーンに怒られるや。行こうか、クラリス」

 少しだけ体を離すと恭しく手を差し出してくれる。はい、と返事をしながら手を重ねた。

クラリスが受けてきた教育自体は厳しいものですが、本人が素直な上比較対象がさらに厳しい教育を受けているレイだけのため分かっていません。

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