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隠しルートには行かないで  作者: アオイ
三章 ハッピーエンドへ向かって
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パーティーの招待状

 耳の後ろ。他の人にはあまり見えない場所。最近気付くとそこを触っていることが多い。首の回りは隠しているから触れない。

 結婚したら、これが全身に。想像するとかっかと赤くなる。だってつまり、レイの唇が、ってことよね。うわ、うわっ。体の体温が上がる。使用人の皆にはすでにお馴染みの光景となってしまった。

 緊張するのに、全然いやだと思わないどころか私期待しちゃってる。早く、って。ああ、はしたない。レイはいやらしい私をどう思うだろう。絶対私もつけるんだから。どうやって練習すればいいのかな。レイはどうやったのかしら。


 あれから、レイはまた忙しい。

「殿下の怠慢のせいでまた少し忙しくなるかも」

 と言っていた。会わせないようにしているから不調で仕事をしていないとか? さすがにそれは問題になるから違うと信じたい。原因がリリーだと噂になったら恐ろしい。心配したもののレイ曰く違うらしいので良かった。

「リリー・シーウェル関連で翻弄されているのは合っているね。何せ魔術師団団長、宰相、主治医、騎士団団長と身近な人物が反対派なんだもの。その対応でてんやわんやなんじゃない? ふふ、そのまま大切なことは何もできずに過ごすといいさ」

 よく分からないがとても楽しそうな顔でくつくつと笑っていた。


 それでも私には毎日会いに来てくれるから嬉しい。

「クラリスに会ってパワーがもらえたら百人力だからね。ああ、今日も幸せ」

 私をぎゅっと抱きしめて頬ずりしてくる。お疲れ様、の意味を込めて頬にキスを送ればレイからはキスの雨が降ってきた。

「レイ、ちゃんと休めてる?」

「心配してくれてありがとう。大丈夫だよ。僕には今までクラリスを独占してきた実績があるからね、対応なんて簡単なものさ。敵はすぐ見つけられる」

 私の独占と王子の怠慢って何か関係があるの? 敵って誰? 王子じゃなくて?

「リオンに関しては僕が何かする必要がないくらいだし。人気がある人って助けるのが非常に楽だよ」

 そしてリオン? 助ける、って何だろう。

 レイのお仕事関連で私にできることなんて何もないからどうすることもできない。微妙な気持ちでいるとレイは私の頭を撫でてきた。

「何もない、なんてことないよ。そもそもほとんどはクラリスの功績だ。君は今のままでいいんだよ。もう、無自覚にお助けしているんだから。そういうところも本当に大好き」

 うーん、レイが話せば話すほど頭の中のはてなマークが増えていく。レイはそもそも今の段階で全部を説明する気がないのよね。詳しくは聞かないでおこう。私のためなのは間違いがないのだから。

「卒業した僕にはどうしようもないけど学園内ならハミルトン先生に任せられる。殿下には何もさせない」

 ほらやっぱり。リリーと王子のことで何かしてくれているんだわ。

「ありがとう、レイ。私にできることがあったら何でも言ってね」

「今まさにパワーをもらっているよ。いつも通り僕を受け入れて、癒して」

 レイの顔が近付いてくる。いつも通り目を瞑って応えた。




 *   *   *




 それからしばらくは平穏が続いた。バリアを張る以外は王子の選択肢が出る前みたいだ。王子もブラッドリーもクラスで私に話しかけてこないし、魔具の授業でも王子はリリーのほうをちらちらと見ているものの会話する気配はない。私にはよく分からないけど、きっとレイのおかげよね。

 だから、ある日家に届いたパーティーの招待状。

 私宛てなど珍しい、と何も考えず中を見て思わず落としてしまった。使用人達に心配されたが中の手紙を見たら察してくれたようで慰めるように頭を撫でられ、レイに伝えに行ってもくれた。

 招待されたのは王子の誕生祭。

 この日は、王子ルートのエンディングの日だ。

 ご丁寧にも王子自ら、私に参加するようにと一筆添えられている。まず間違いなく、リリーにも同じ内容の手紙が送られていると見ていいだろう。

 国王陛下ならともかく王子の誕生パーティーは強制参加ではない。そもそも、大々的に国内外に発表されるから招待状などわざわざ書かない。去年私はすぐ帰ったし、リリーはパーティーに参加しなかったらしい。

 ヒロインが出なかったのはゲームも一緒。ゲームではどうして来なかった、という王子に領へ行っていたことを話す。王子の誕生日は夏休みの七月だからだ。リオンに嫉妬する王子のシナリオである。迷ったせいで招待状を送るのが遅れた王子の失態で、届いた時にはヒロインはもう領にいた。それでも成人の誕生日だから派手に喧嘩していた。

 それとは違い二年時はその少し前に両想いであることを確認するシナリオがある。招待状などなく、王子自らヒロインに共に出てくれるよう素直にお願いする。パーティーで王子はヒロインとともに現れ、反対しそうな貴族を牽制した後二人きりになったらプロポーズをした。

 会わせなかったから招待状を送ってきたということよね。直接なら断れるが、招待状は強制に近い。

 もしかしたらハーレムルートだからじゃなく、ここに合わせるためにあんなに早くシナリオが飛んだのかもしれない。個別ルートとハーレムルートが混じっているのかしら。しかしどちらにしてもリリーに会わせないようにしているからシナリオをほとんど消化していない。リリーはともかく、王子の好感度って上がってるの?

 今更ゲームのことを考えても意味がない可能性が高いが、ここを回避することは重要だと思う。


 王城から来てくれたレイは私の話と王子からの招待状を見てゆっくり腕を組んだ。

「ふーん。……ここで動くか」

 レイ怒ってる。一応聞いてみると、レイにも招待状が来ていたとのこと。私達を強制参加させたいのね。レイは去年も私を公の場に出すことを嫌がっていたのに、今年も我慢させてしまう。

「ごめんなさい」

「ん? どうしてクラリスが謝るの? クラリスに怒るわけないじゃん。何も悪いことしていないでしょ? 悪いことしていてもクラリスに怒ったりしないよ」

 後半はおかしい。甘すぎる。しかし今気にすべきはそちらじゃない。レイは私の頭を撫でつつ私宛ての招待状をじっと見つめている。

「ふざけたことをしてくれるね。クラリスが行くならリリー・シーウェルも来るかもしれないからか。リリー・シーウェルのために僕のクラリスを利用するなんて、世継ぎの王子じゃなければ今頃ぶっとばしているよ」

「レイ、その冗談笑えないから」

「ん? 僕冗談好きじゃないよ?」

「冗談でいてほしかったのだけれど」

 本音です、と言わんばかりに真面目な顔をしている。確認だけど潰すのはルートだけでいいのよ。王子自身じゃないわ。

「分かってるよ。それにしても、参加資格があるのは伯爵以上の貴族だからハミルトン先生は来られないか。殿下め、やってくれるな」

 いや、王子は知らないからそれは関係ないと思う。人数が多くならないよう毎年そうだったはず。去年と違うのは。

「これ、男女ペアってなってるんだけど」

 私は当然レイとして、何故こんなことを? リリーのパートナーになるつもり? ということはまた話しかけてくる? ああ、どうしよう。リリーからも手紙が来た。招待状をすごく気にしている。

「クラリスにこんな顔させるなんて……殿下……」

 だんだん怖くなるレイの顔を見ていると反対に心は穏やかになっていく。ふふ、と笑ってしまった。

「クラリス?」

「レイが私のかわりに怒ってくれてるんだもの。嬉しくなっちゃうわ」

 不安なだけではダメよね、対策を考えないと。レイのおかげで冷静になれた。感謝の意を込めて唇を合わせればレイがぎゅっと抱きしめてくる。

「可愛い。好き」

 ちゅ、と嬉しそうにキスされて頬ずりされる。

「僕もクラリスのおかげで冷静になれたよ。一緒に考えよう」

「ありがとう。殿下から誘われる前に決めたほうがいいわよね。リリーの相手は……義弟のリオンだと怖いわ」

 女性からの嫉妬が半端ないだろう。ある意味王子より怖い。かといって他の男性貴族というと……。

「ディーンにお願いしよう。今日の内にテレパシーで交渉する」

 ディーン? 確かに時折お昼が一緒だったからリリーも了承してくれるかも。でも彼も攻略キャラだ。レイは安心させるように笑ってくれた。

「釘は刺すよ。公爵家だから周りは文句を言えないし、僕が選んだ人選だと分かる。婚約者のいないあいつにとってもいい話だ。それに万が一僕達から離れることがあっても何とかできる実力者だよ」

 早速とテレパシーで交渉してくれた。レイの言う通りペア必須だと聞いた彼からは反対に感謝されたそうだ。卒業式でかなり苦労していたものね。


 リリーには返事の手紙を出すとして、レイはぎゅうぎゅうと私を抱きしめる力を強くする。

「それよりクラリスを大人数の目の中に入れるなんて……ああ、いやだ。その日王城爆破されないかな」

「レイ……」

 冗談好きじゃないからこれも本音なのよね。うーん、お父様みたく冗談かどうか分からず怖いのとどっちがマシかな。でもお父様の場合きっと「王城爆破しようかな」だからやっぱりお父様のほうが怖い。例え冗談でもどういう方法を使ってどこに仕掛けるかとか詳細に計画するから怖いのよね。お母様かお義父様に怒られるとやめるんだけど。

「クラリスは僕の傍から離れないでね」

 もちろんよ、と頷いた。

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