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隠しルートには行かないで  作者: アオイ
三章 ハッピーエンドへ向かって
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蜜月期

「僕以外を褒めるなんて……ブラッドリーに興味を持たれたらどうするのさ」

 ええ? 何それ? 声を褒めただけで好きになるって、ブラッドリーは惚れやすい人なの?

 彼のルートは小さなことの積み重ねで進んでいくのだから、一つのことで好かれるとは思えない。私はヒロインじゃない。

「ブラッドリーってそんな単純な人なの?」

「違うけど……。もうあまり近付かないでね」

 頷く。というか、今日はただの偶然よね。結局何がしたかったのかしら。変な人。

「他には? どこか触られた? 消毒しないと」

 そんなばい菌みたいな。レイ、ひどい。接触はしなかったと告げたらほっと息をついていた。


 ブラッドリーとの会話を一部始終話す。

「それでね、今度はその他大勢にモテても意味がないって言ったの。リリーのことかしら? どうしようレイ、彼までリリーが好きだったら」

「どうしてリリー・シーウェルに……ああ、彼も攻略キャラだっけ。…………彼が好きな人は違うから大丈夫じゃないかな」

「レイ、ブラッドリーの好きな人知ってるの? リリーじゃないの?」

「まあね。――疑問を持っていたけど確信したよ」

 ぼそりと言った後半の言葉は私には聞こえなかった。リリーじゃないと肯定されたことに安心する。

「そうなんだ。良かったあ~」

「誰なのか気にならないの?」

 首を横に振る。リリーじゃないならいいわ。でも彼は王子の味方だろうし、レイの言う通り近付かないのが一番ね。

 それよりも。レイが笑顔になったら驚かれたことを思い出す。

「レイって王城でうまくやれてるの? 大丈夫?」

「心配してくれるのは嬉しいけど大丈夫だよ」

「レイの周り萎縮してない?」

「別に笑顔で仕事したら効率が上がるわけでもないし。それくらいの奴はいらないなあ」

 うわあ、厳しい。うーん、そういうレイも見たいけど私が王城に行くのは嫌がるわよね。残念だわ。


 聞きたいことはもう一つある。

「それと、どうして図書室に来たの? 何か緊急の用事?」

 いつもなら話したいことがあっても私の家で待っていた。待つこともできないほどなんて一体何だろう。レイは軽く頷く。

「ああうん、僕達の結婚式の後の蜜月期間の話をしたくて。二週間もらうことになったよ」

 わ、そんなに。

 蜜月。日本ではハネムーン。旅行が一般的なのだろうが、この世界ではあまりしない。することと言えば一つ。跡継ぎを作ることだ。分からなかったらそのままでいてください。私は最近分かった。

 といってもただ仕事を休んで家でゆっくりする期間、とも言われている。

「ねえ、もし時間があったらリリーのところへ遊びに行ってもいい?」

「……時間があったらね」

 あ、この時リリーはまだ王都にいるかな? それともワイズ領? どっちだろう。

 考えているとレイは少し拗ねたように口を尖らせた。

「本当は一か月の予定だったのに短縮された。卒業直後だからって言ったけど、じゃあ籍だけ入れて蜜月期を後にすれば一か月もらえるのかと聞いたら一年後くらいならってさ。ふざけているよね、他の奴らは一か月ちゃんとあるっていうのに。優秀なのも考え物だよ」

 普通は一か月ってこと? 普段そうそう休めるものじゃないからたっぷりあるのね。

 レイは私の頬を撫でてくる。

「ずっと二人でいようね。ワイズ領の時と違って魔法を使う必要はないよ。僕が朝から晩まで全部お世話して料理も僕が全て食べさせてあげる。とことん甘やかすからクラリスはずっと僕の腕の中にいて」

 レイ、すごく嬉しそう。二週間誰にも邪魔されずレイと二人きりというのは魅力的である。本当にとことん甘やかされそうだ。

「寝室でゆっくりしようね」

 きゃあ。唇が耳に近付き、囁かれた。わ、分かってるわよ。夫婦になったらすることは分かっているけど。

「あの、もしかしてメイドさん達は……」

「いらないでしょ? さすがに料理は運ばせるけど寝室には入らせないよ。スイーツは僕が作るし、ああ、お風呂も一緒に入ろうね」

「え!?」

 私がびっくりしたのにレイのほうが目を見開いた。

「え、嘘。まさか一緒にお風呂ダメなの!?」

 そんなに驚くこと? レイは私を強く抱きしめる。

「そんな。ずっと楽しみにしていたのに。なんでわざわざ別々で入るのさ。僕が髪も体も洗うから。これも譲らないよ」

 “も”って、レイは譲れないことが多いのね。は、裸よね、もちろん。

 そうよね、二十四時間一緒にいたいって言っていた。それならお風呂も、なんだ。

 他には何があるのかしら。したいことリストが知りたくなってきたわ。心の準備をする時間をちょうだい。

「可愛い。体の隅々まで僕が洗ってあげるからね」

 …………け、結婚って大変ね。


 ん? 魔法を使う必要がない?

「あの……着替えは? 旅行の時と同じく魔法を使わないの? もしかしてレイ、後二年で勉強して手伝うつもり?」

 それは負担になるから断ろうと思ったけど、レイの回答は私の想像の斜め上だった。

「服いる?」

「いるわよ!」

 な、何を言っているの。私の発言にレイはまた驚いている。どうして、さっきから驚くのは私のほうじゃないの?

「レイっていつも夜は裸なの?」

「違うけど。蜜月期に服なんていらなくない?」

「何をどうすればいらないという結論になるのか分からないわ」

「えー? 着てもいいけど僕すぐに脱がすからね」

 はい? ……まさか一緒にいるだけじゃなく朝も昼もってこと? 嘘でしょ? 夜にすることじゃないの? そんなにしないと子どもってできないの?

「に、二週間もあるのよ?」

「二週間だけの間違いだよ」

 即答されて二の句が継げない。わ、私が想像していた覚悟より数段上だわこれ。うう、頑張る。リリーのところに遊びに行ける時間なんてレイの頭の中にあるのかしら。……なさそう。

「み、蜜月期ってそういうものなの?」

「そこは夫婦によるんじゃないかな」

 そ、そうなのか。レイがうかがうように顔を見てくる。

「…………ダメ?」

 レイがしたいことリストにあるのよね、それ。だったら私一緒にしましょうって言ったもの。結婚したらもう我慢してほしくない。私の恥ずかしさなんてどうでもいいわ。

 了承の合図としてレイに口づけた。離れた私をレイが追いかけてくる。

「んっ……」

 下唇を甘噛みされて、いつも通り耳の後ろに移動する。

「………………」

「……? レイ……?」

 あれ、いつもは跡を付けたらすぐ確認するように顔が離れるのに。名前を呼んでみても返事はない。

「……ごめんクラリス、もうちょっとだけ」

「え?」

 唇が首に移動していく。ちゅ、とキスされたかと思うと耳と同じように吸い付かれた。しかも一つだけで終わらない。位置を変えてまた唇が当たる。

「クラリス、好きだよ。大好き。愛してる」

 合間に吐息とともに囁かれる愛の言葉。ちくり、と痛みが広がる度に体が火照っていく。たまらず肩を叩いた。

「っ~~……レ、レイ……キス、して。口が寂しいの」

 言い終わるや否や唇が塞がれる。最初から舌が絡まって激しい。火照りが収まるかと思ったのにむしろ悪化してくる。でもやめてほしいとは思わない。

「クラリス……」

 長いキスが終わると強い力で抱きしめられた。少々痛いくらいだ。息を整えながら目を瞑る。

 大丈夫。燻ぶった熱を解放してくれるのもレイだって分かってる。レイが傍にいてくれれば大丈夫。


 お互いに落ち着いた頃、そういえば、と鏡を見てみれば私の首に赤い跡が多数あった。耳なら髪で隠れるけど、首って……。レイが帰ったら使用人にすぐ見つかるわよね。

「レ、レイ? あの、キスマーク残しすぎな……気が……」

 スカーフが必要だ。いや、夏になるのだから首まであるハイネックのドレスにするか。これってどのくらい残るんだろう? レイはすごく嬉しそうな顔をして頷いている。

「ああうん、いいよね僕がつけた跡がたくさんあるのって。結婚したらもっとするから」

 あ、決定事項なんだ。も、もっとってどのくらい?

「そういう可愛い顔するともっとしたくなる。結婚したら全身につけたいなあ」

「――!?!」

 し、舌なめずりしながら言わないで。って、え!? 全身!? …………え?

 ひとまずスカーフで首を隠しながらレイの首を見つめる。当然ながら何もない。

「あの。私もレイにつけたいのだけど……」

 そうすれば不公平じゃない。レイみたいに上手くつけられるかどうか分からないが言ってみたら微妙な顔をされた。

「それは結婚するまで待って」

 どうして? レイも喜んでくれると思ったのに。

「僕の理性が飛ぶよ」

「飛んだらダメなの?」

「……結婚するまではダメ、だね」

 そうなのか。残念だけど首を縦に振った。

「分かった、我慢する」

「……我慢しているの僕なんだけど」

「結婚したら楽しみがまた一つ増えたわね」

「…………本当にね。ああもう、なんで二週間だけしかないんだ。全然足りない」

 嘘。

レイは結婚したら蜜月期後にめっちゃくちゃご機嫌になってイシャーウッド公爵に似てきたと恐れられるんでしょうね。

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