9話 手を繋いで
「それじゃあ、遅れたけど学校に行こうか」
「時間、大丈夫でしょうか?」
携帯で時間を確認……
「……」
しようとして、天宮とのツーショットをついついじっと見てしまう。
こうして見ると、本当に恋人みたいだな……
フリを成立させるためなのだから、そう見えることは喜ばしいことなのだけど。
でも、実は偽物で……
なんともいえない複雑な気分になる。
「進藤くん?」
「あ、いや……うん、時間は大丈夫みたいだ」
思考を元に戻して、時間を確認した。
余裕があるというわけではないが、切羽詰まっているわけでもない。
普通に歩けば問題ないだろう。
「行こうか」
「はいっ」
学校への道を並んで歩く。
「……」
「……」
恋人のフリをすることになり、初日。
互いに緊張しているみたいで、なかなか言葉が出てこない。
でも、不思議と悪い感じはしなくて……
これはこれでアリかな? なんてことを思う俺だった。
「……っと」
少し歩いたところで、若干距離が開いていることに気づき、ペースを落とす。
急いでいるつもりはないが……
歩幅が違うから、普通に歩いても天宮が遅れてしまうことがあるんだよな。
「……進藤くん、優しいですね」
「え? いきなりどうしたの?」
「今、私のために歩くペースを落としてくれましたよね? そういうところです」
「あー……まあ」
妙に照れくさくなり、視線を逸らしてしまう。
そんな俺を見ているのか、天宮の視線を感じる。
「私、進藤くんのそういうところ、好きです」
「え?」
「え?」
「……」
「……」
沈黙。
そして、
「あっ!? い、いえっ、今のはそのなんていうか!? 人としてという意味で、その、恋愛的な意味ではなくてですね!? つまりなんていうか、あうううっ」
「そ、そうだよな! 変な意味じゃないよな!?」
二人共に、テンパってしまうのだった。
なんていうか……
天宮は、ちょっと無防備なところがあるな。
普段から、こんなことを口にしているのだろうか?
だとしたら、告白されても仕方ないような気がする。
「……」
「……」
再び沈黙の中を歩く。
今度は、ちょっと気まずい。
コツコツと二人分の足音が響く。
「……えっと……」
天宮の小さな声。
何事かと視線を移すと、ちらちらと見られていた。
なぜか、天宮は俺の手を見ている。
俺の手を見て……
それから、自分の手を見て……
それを何度か繰り返していた。
「どうかした?」
「ふぇっ!? い、いえ、その……えっとぉ……」
もじもじとして、
「……手……」
「手?」
「手を……繋ぎたいなあ、と思いまして……」
ついついという感じで、天宮がそんなことを言う。
その直後、ハッと我に返った様子で、慌てた様子でぶんぶんと手を横に振る。
「あっ、その、えと!? やっぱり、恋人といえば手を繋ぐことだと思うんです。だから、その……私たちも……ダメ、でしょうか?」
雨に濡れた子犬のような目で見なくても、断るなんてことはない。
「えっと……どうぞ」
「あっ」
手を差し出すと、天宮はぱあっと顔を明るくした。
さっきまで不安定な曇りだったけれど、今は雲ひとつない快晴……そんな感じだ。
「それじゃあ、し、失礼します……!」
緊張した様子で、天宮は手を繋ぐ。
俺も緊張してしまう。
「んっ」
柔らかい感触。
繋いだ手を通じて、天宮の体温が流れ込んでくるみたいだ。
それはほのかに温かくて……
とても心地よくて……
いつまでも浸っていたいような、甘い感情。
「……」
「……」
俺も天宮も、なにも言うことができない。
互いに軽くうつむいて、相手から顔を逸らして……
っていうか、こんな状態で相手の顔を見るとか無理ゲーだから。
「……行こうか」
「……はい」
俺と天宮はひたすらに照れつつ、でも、心地いいものを感じつつ。
ゆっくりと学校に向かうのだった。
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