8話 待ち受け
翌朝。
目を覚ました俺はベッドから抜け出して、パンを焼く。
とある事情により一人暮らしをしているため、食事の用意などは、全て自分でしなければならない。
適当に焼いたパンを、適当にジャムを塗り食べる。
それから制服に着替えて、準備をした後、出発。
我が家は2階建てのアパートの2階、一番奥だ。
鍵をしっかりと閉めた後、トントントンと階段を降りる。
学校までは歩いて30分ほど。
やや遠いかもしれないが、部活に所属していないため、良い運動になる。
「あれ?」
10分ほど歩いたところで、天宮を見つけた。
交差点にある電柱に寄りかかり、そわそわとした様子だ。
時折、左右をキョロキョロと見る。
「あっ♪」
視線が合う。
すると、とてもうれしそうな顔をして、小走りでこちらに駆けてきた。
「お、おはようございますっ、進藤くん」
「ああ。おはよう、天宮」
まずは朝の挨拶を交わす。
挨拶は基本的なことであり、とても大事だ。
「どうしたんだ、こんなところで? 偶然……っていうわけじゃないよな」
「はい、その……進藤くんを待っていました」
「俺を?」
「私たちは、その……彼氏彼女! ですから。一緒に登校した方がいいかと思って」
「なるほど……それもそうか」
というか……
俺、それくらい考えつけよ。
そのせいで、俺の通学路に待たせてしまうという、いらぬ手間を天宮に……あれ?
「そういえば、天宮、俺がここを通るってよく知っていたな?」
「えっ!?」
「家は教えているけど、通学路とか、教えていないと思うんだけど」
近道のため、少しばかり裏道を通る。
そのため、普通に家を知っているだけでは、この道はわからないと思うのだが……
「え、えっと、その……勘です!」
「勘?」
「は、はいっ、勘です! なんとなく、進藤くんならここを通りそうだなあ、って……そう思いました!」
「なるほど」
「え、納得しちゃうんですか?」
「うん? なにか違うのか?」
「いえいえ、勘で問題ありません!」
なぜかほっとした様子だ。
「……後をつけていた、なんて言えません……」
なんていうつぶやきが聞こえたような気がするが、気の所為だろう。
噂の姫がそんなことをするわけがない。
「それじゃあ……っと、その前に」
行こうか。
と言いかけて、思い直して携帯を取り出す。
「今まで忘れていたんだけど、番号とか交換していないよな? 不便だから、交換しておこうか」
「は、はいっ、交換しましゅっ!」
なんで今、緊張しているのだろう?
女の子のことはよくわからない。
天宮は慌てた様子で携帯を取り出した。
番号とメアド、メッセージツールのIDを交換する。
「えへへ……これで、いつでも進藤くんと連絡がとれますね。うれしいです。進藤くんがいつも隣にいるような、そんな幸せがあります」
ものすごくうれしそうな顔をされてしまう。
今は他に誰もいないから、そういう演技はしなくてもいいのだけど……
そういう反応は、色々な意味で毒なのでやめてほしい。
具体的に言うと、見惚れてしまいそうになる。
「あ、あの……夜とかにメッセージを送ってもいいですか?」
「いいよ」
「ね、寝る前のおやすみなさい、とかも……?」
「もちろん」
「……えへへ。寝る前に進藤くんの声を聞ければ、とてもいい夢が見れるような気がします」
本当にうれしそうにするものだから、勘違いしてしまいそうになる。
落ち着け、俺。
これはフリであって、本当に付き合っているわけじゃないんだ。
「えっと……それじゃあ、そろそろ行こうか」
「あっ、待ってください」
「うん?」
「えっと、その……私、考えたんですけど。携帯の待ち受けを変えた方がいいんじゃないかと」
「待ち受けを? どういうことだ?」
「彼氏彼女なら、一緒に撮った写真とか、あるいは相手の写真とか……そういうのを待ち受けにしててもおかしくないと思うんです。むしろ、そうしていないとおかしいような気がするんです」
「なるほど……俺たちもそうしよう、っていうわけか?」
「はいっ、その通りです!」
やけにグイグイと来るが……
でも、言っていることは正しいと思う。
それくらいはしておかないと、すぐにフリとバレてしまいそうだ。
「なら、写真を……」
「待ってください」
今日、何度目のストップだろう?
「あの、その……せっかくだから進藤くんと一緒の写真が欲しいです。じゃなくて! 一緒の写真の方が説得力があると思うんです!」
「まあ、確かに」
「だから、一緒に写真を撮りましょう?」
特に断る理由もなく、天宮の提案を受け入れる。
俺と天宮は肩を並べた。
それから、天宮が携帯を上にかざす。
写真を撮るのは天宮の役目らしい。
「あの……」
「うん? まだ撮らないのか?」
「も、もうちょっとくっついた方が、より恋人っぽくなると思うんです」
「そういうものか?」
「はい!」
やけに力強く頷かれてしまった。
そういうものかと、ひとまず納得をして、肩と肩が触れ合うくらいに近づいた。
「も、もっとです」
「え、これ以上?」
「は、はいっ」
これ以上となると……
「こ……こうか?」
肩が密着して、吐息が触れるほどに顔を近づける。
「……」
「天宮?」
「はぅ、幸せですぅ……私、このまま死んでしまうんでしょうか……?」
「天宮!?」
なぜか昇天しそうになっていた。
そんなことがありつつも、一緒の写真を撮ることに成功。
そのままデータを送ってもらい、二人共、待ち受けに設定した。
「……」
なぜか二人の写真をじっと見つめる天宮。
その目は、熱い熱を孕んでいる。
「これ……私の宝物にします……」
言葉通り、とても大切なものを扱うように、天宮はぎゅっと携帯を抱きしめるのだった。
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