表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/69

69話 いただきます

「「「いただきます」」」


 いつもより一人多い食卓。

 ただ、不思議と違和感を覚えることはなくて、むしろこれが当たり前と思うようになっていた。


 昨日も一緒だったからか。

 それとも、神神楽との相性がいいのか、それはわからない。


「ふぁ」


 サクッという音を立てつつ、神神楽はとんかつを食べた。

 その瞬間、目を大きくする。


「……おいしいです……」

「本当ですか? 良かったです」

「衣はサクサクで、お肉は柔らかくて……とんかつがこんなにおいしいなんて。とても素敵です、あふぅ」


 神神楽は満面の笑みでとんかつを食べていく。

 その勢いは相当なもので、すでに三分の一を食べ終わっていた。


「不思議ですね……ちゃんとしたお店のとんかつもお持ち帰りで食べたことあるんですけど、その時よりも何倍もおいしい気がします」

「一緒に食べているからじゃないか?」

「え」


 神神楽がキョトンとした。

 そんな彼女にゆっくりと語りかける。


「一人で食べるごはんって、ちょっと味気ないだろう? 黙々とごはんを食べるだけで、こうしておしゃべりをすることはない」

「それは……でも、おしゃべりをしながらなんて、行儀が悪くありません?」

「気にし過ぎじゃないか?」


 昔はそう思う人もいた。

 でも、今ではそんな人はほとんどいないと思う。


 もしかしたら、神神楽はそういう礼儀作法を厳しく躾けられてきたのかもしれない。


「まあ、行儀が悪いとしても、俺はこうしておしゃべりをしながら食べたいな」

「それは……どうしてですか?」

「おいしく感じられるし、なによりも楽しいだろう?」

「……あ……」

「神神楽は楽しくないか?」

「……楽しいです」


 迷うような間を置いた後、神神楽は小さく言う。


 こちらから視線を逸している。

 でも、その頬が緩んでいることはすぐにわかった。


「だよな。ごはんは楽しい方がいいよな」

「はい……いいですね、こういうのも」


 小悪魔っぽいところはあるものの、なんだかんだ神神楽はいい子だ。

 ダメなことはしない。

 守るべきものはきっちりと守る。


 たぶん、学校では優等生として過ごしているのだろう。


 だからこそ、ずっといい子でいなくていいと思う。

 親に躾けられているかもしれないが、でも、食事中のおしゃべりくらいしてもいいだろう。

 それくらい気を抜いたって、なにも問題ないはずだ。


 子供らしく、もっとのびのびとしてほしい。


 まあ……

 俺もまだ親の庇護下にある子供だから偉そうなことは言えないのだけど。


「私も……」


 ぽつりと神神楽が言う。


「ごはんはおいしい方が……楽しい方がいいです」

「だよな」

「はい!」


 神神楽はにっこりと笑う。

 やっぱり、彼女は笑顔がよく似合う。

 太陽みたいで、周りにいる人の心を温かくしてくれる。


「むぅ」


 小動物のような声。

 見ると、天宮が若干、頬を膨らませていた。


「少しジェラシーが……でも、神神楽さんに優しくするからこそ進藤君らしいのであって……この感情、どうすれば?」


 なにやら妙なことになっていた。

 感情をコントロールできない様子で、目をぐるぐるさせている。


「ふふ」

「はは」

「な、なんですか、二人共? もう……」


 混乱する天宮を見て、俺と神神楽が笑う。

 そして天宮が拗ねて……


 楽しい時間だ。

 自然と笑顔があふれてくる。


 神神楽の告白は大きな問題だ。

 いずれ、なにかしらの形で決着をつけないといけないと思う。


 それだけじゃない。

 天宮と一緒に暮らしていることなど、他にも色々な問題がある。


 ただ……


 今は、それらは忘れることにした。

 みんなで食べる温かい食事を楽しむ。

 それだけでいい。


 その他のことは、また今度考えよう。

 時間だけはたくさんあるのだから。


「進藤君」


 ふと、天宮がまっすぐにこちらを見つめてきた。


「私、もっともっとがんばりますからね」

「なんの話だ?」

「進藤君の彼女として、がんばる、ということです」

「えっと……」


 すでに十分だと思うのだけど。

 これ以上?

 どんなことになってしまうのか。

 想像すらできない。


「そういうことなら、私もがんばりますよー。お兄さんに振り向いてもらわないといけませんからね」

「それはがんばらなくていいんだけど……」

「ダメです、がんばります」

「そうか」


 止める権利なんてないので、もう放置するしかない。


 神神楽のことだから、本当にぐいぐい来るだろう。

 防ぎきれる自信はあるのだけど、ただ、疲労が蓄積されていく未来は予想された。


 困った。

 困っているのだけど、でも、こんな時間も楽しい。


 願わくば……


「ずっと、こんな時間が続きますように」

ひとまずここで終わりです。

ただ完全な終わりではなくて、第二部完、みたいな感じでしょうか?

予想外のライバルが現れるものの、なんだかんだ二人は変わらない。

いつもの日常は変わらない、という感じで書いてみました。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。


こちらはここで休止。

また時間ができた時や機会が合えば続きを書いてみたいと思います。

いつになるかわかりませんが……こちらでまた会う日まで!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] せっかく部活を立ち上げようとしているのに、やめてしまうなんてもったいないです。 めっちゃ続きが気になります。
[一言] ああ!これから!というタイミングに感じましたが、温かくなるお話につい引き込まれましたのでのんびり続きをお待ちしております!
[気になる点] タイトル >いただきます え?二人いっぺんに? という妄想をしてしまいました [一言] 更新ありがとうございました 料理研究会ぃぃぃ は第三部のお楽しみですかぁ 気長にお待ちしており…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ