67話 料理研究会
「部活?」
部活動のことを考えている時に、天宮が部活動の話をする。
偶然なのか。
それとも……
「料理研究会を起ち上げたいんです。それで、その……ぜひ進藤君も一緒に!」
「どうして料理……というか、部活を?」
「その……実は、前々から興味があったんです」
天宮曰く……
前々から部活動に興味があったらしい。
ただ、天宮は『姫さま』。
周囲が妙な遠慮をしたり距離をとったり、そんな反応が当たり前。
普通に部活動をしようとしても、天宮が望むものは得られないだろう。
だから、自分の居場所は自分で作ることにした。
まだこの学校にはない料理研究会を起ち上げようと考えたらしい。
「お料理は好きですし、それなりに得意ですし……七塚さんに相談をしたら、料理研究会がいいのでは? というお話になりまして」
「なるほど。でも、なんで俺?」
「進藤君は、どこにも所属していないみたいなので……あと、その……誰よりも信頼できるというのと、一緒にいたいから……です」
恥ずかしくなってきたらしく、最後の方は顔を赤くして言う。
可愛いか。
「それで、進藤君をその気にさせるために、こうしてプレゼンしているわけです」
「そのプレゼンは抜群の効果だよ」
「それじゃあ……!」
「俺でよければ、もちろん」
「ありがとうございます!」
天宮は満面の笑みを浮かべて、俺の手を掴んで喜ぶ。
「……はっ!?」
ややあって、自分の行動を理解したらしく、顔を赤くして離れてしまう。
「そんなに照れなくても」
「そ、その……無意識の行動だったので、自分で自分に驚いてしまいました。あ、その、嫌とかではなくて、本当に驚いただけで……!」
「わかっているよ」
天宮は、ホント、小動物みたいだな。
でも、そんなところが魅力的でもあるのだろう。
一緒にいるだけで優しい気持ちになって、心を癒やしてくれる。
そんな存在だ。
「今更照れなくても、とは思うけど」
「うぅ、ですよね。ごめんなさい。私、進藤君の彼女なのに……どうにも、突発的な出来事には弱く……」
「まあ、いいんじゃないか? そういうところがないと天宮らしくないし……」
「私、どういう認識をされているんですか……?」
「照れる天宮は可愛いからな。ずっと見ていたい」
「そ、そういうことを言われてしまうと、ずっと改善できなさそうです……」
「それはよかった。ずっと天宮の照れ顔を見ることができる」
「というか、ずっと、というのは……はぅ」
天宮の反応を見て、俺も、わりと大胆なことを口にしていたことに気づいた。
顔が熱くなる。
ただ……
その場の雰囲気に流されたとか、冗談とか、そういうつもりはない。
本心からの言葉だ。
まだ学生だから、軽い言葉になっているかもしれないけど……
でも、いつかはしっかりとした重みのある言葉にしたい。
「えっと……話を戻すけど、料理研究会ってことは、その名前の通りの活動って考えていいんだよな?」
「はい。色々な料理を学び、作り、自主性と創造性、将来に向けた生活力を鍛えていくための部活です」
「やたら仰々しいな」
「これくらい言わないと、部活を新しく起ち上げるのは難しそうなので」
「それもそうか。メンバーは?」
「私と進藤君。それと、七塚さんと今井君です。お二人は掛け持ちになりますが」
「四人か……正式な部にするには、あと一人足りないな」
「しばらくは同好会でがんばろうと思います」
「天宮が声をかければ、いくらでも集まると思うけど」
「えっと……」
天宮が困った顔に。
「それは嬉しいことなんですけど、その……」
「まあ……そうだよな。無理に知らない人を集めるよりは、信頼できる人の方がいいからな」
「はい……わがままな話なんですけど」
「いいんじゃないか? 俺も、気心しれた相手の方がいいし……それに、しばらくは天宮と二人でいたい」
「あぅ……」
耳まで赤くなる。
こうして照れるところは何度も見ているのだけど、未だにドキドキさせられてしまう。
どうして、こんなにも彼女は魅力的なのだろう?
一つ一つの仕草に視線が吸い寄せられてしまい、離れることができない。
「七塚さんと今井君を忘れてませんか……?」
「二人は掛け持ちだから、あまり顔を出せないだろう? 実質、俺達二人だけのようなものだ」
「そうですね……」
「嫌?」
「……正直言うと、嬉しいです。えへへ」
にっこりと笑う。
子供のように純粋で、柔らかく温かい笑み。
その笑顔は本当に綺麗で、何度でも心を奪われてしまう。
「申請はまだだよな?」
「はい。ただ、ほぼほぼ準備は終わっています」
そう言うと、天宮は部活動設立の申請書を取り出した。
部活動の活動内容や目的。
メンバーなどなど、全ての項目が埋められていた。
「じゃあ、俺の名前を書いて……これでよし。あとは、どうするんだっけ? 顧問になってくれる先生を探さないといけないのか?」
「それは、私のクラスの先生が引き受けてくれることになっています。こちらも兼任ですけどね」
それでも、わざわざ同好会の顧問を引き受けてくれることはありがたい。
「あとは申請書を出すだけですね。七塚さんとも相談したんですが、ほぼほぼ通るかと思います」
「なら、今から行こうか」
「はい!」
教室を出て、天宮と一緒に職員室へ向かう。
その最中、ぼーっと考える。
「……」
俺が部活……か。
今までだったら乗り気になることはない。
なんだかんだ適当な言い訳をつけて断っていただろう。
でも、今は違う。
天宮がいるから、というわかりやすい理由なのだけど、楽しみだ。
真司と七塚もいるから、今度こそうまくやっていけると思う。
「……がんばらないとな」
「なにか言いましたか?」
「いや、なんでもない」




