63話 大好きですよ?
「はぁー、美味しかったです。本当に美味しいです」
夜の道。
神神楽はとても満足した様子で、満面の笑みを浮かべていた。
そんな彼女の隣をゆっくりと歩く。
「喜んでもらえたのならなによりだ。天宮も喜ぶと思う」
「そのお姉さんですけど、送らなくていいんですか? 私だけ送るつもりですか?」
「……さっきも言っただろう? 天宮の家は正反対の方向だから、一人一人、別々に送った方が効率がいいんだ」
「ふーん、そうですか」
苦しい言い訳だっただろうか?
神神楽はあまり納得していない様子だ。
ただ、それ以上、追求してくることはない。
「にひひ」
突然、神神楽がニヤリと笑う。
「どうしたんだ?」
「今は、私がお兄さんを独り占めしているんですね。そう考えたら、なんだか嬉しくなって」
「それは……でも、今の笑い方はいかがなものか」
「乙女らしくないですか?」
「まあ、無理にらしくあろうとしなくてもいいと思うけど、さすがになあ……」
「わかっていますよ。これも、ギャップを見せるための作戦なんです。この後、とても可愛らしいところを見せれば、お兄さんはイチコロですね」
「それは困るな」
「むぅ、信じてませんね?」
「なら、愛らしいところを見せてくれ」
「わかりました」
ちょっとからかうつもりでそう言うと、神神楽は真面目な顔に。
愛らしいというよりは凛々しいのだけど、果たして……?
「お兄さん、私のことを好きになってください。魅了されてください」
「命令? そんなことを言われても……」
「でないと、これを使います」
「待て待て待て待て」
神神楽が防犯ブザーを取り出したものだから、思い切り慌ててしまう。
夜。
小学生と二人きり。
そんなものを使われたら、高校生だろうとなんだろうと一発でアウトだ。
「私を好きになりましたか?」
「それは脅迫って言うんだ」
「にひひ」
やっぱり、神神楽は小悪魔だ。
「まあ、冗談はここまでにして」
「本当に冗談なんだろうな?」
「お兄さんに使いませんよ。襲われたとしても大丈夫です」
「襲わない。というか、期待に満ちた目を向けるな」
本当に小学生なのだろうか?
最近の小学生は、こんなにもマセているのか?
「お兄さんの認識を正しておかないといけませんね」
「認識?」
「私の好きを、簡単なものと考えていませんか?」
「……」
その通りだった。
いくら好きと言っても、まだ小学生。
簡単な気持ちかもしれないと、気楽に考えていたところがある。
「まったく……」
「……ごめん」
完全に俺が悪い。
言い訳のしようがない。
「頭を上げてください、お兄さん。別に、私は謝罪が欲しいわけじゃありませんからね」
神神楽はにっこりと笑う。
本当に気にしていないらしく、曇のない笑みだ。
「ただ、お兄さんがそう考えるのも仕方ないと思うんですよ。私、小学生ですからね。私も幼稚園児に告白されたら、軽く流しちゃうと思うんですよ」
例えがものすごい正確だ。
こうなる展開をあらかじめ想定していたのかもしれない。
「なので、気にしないでください」
「そう言われても……」
「なら一つ、お願いを聞いてくれますか?」
「できることなら」
「大丈夫です。少しかがんでくれるだけでいいので」
「こうか?」
言われるまま神神楽と視線を合わせた。
ちゃんと目を見て話したい、ということだろうか?
「じゃあ、私の気持ち、ちゃんと知ってくださいね?」
「え?」
神神楽はいつものようにニヤリと笑い……
「……ん……」
頬に触れる柔らかい感触。
それと、目の前に見える神神楽の顔。
普段は小さな顔だけど、今はとても大きく見える。
って……
「!?」
「ふふ、すごい反応ですね」
慌てて下がると、神神楽はニヤリと笑う。
「安心してください、頬ですよ」




