61話 家にあがってやることは?
「おー、ここがお兄さんの家」
なにが楽しいのか、神神楽は目をキラキラとさせている。
家にあげただけなのに、なにがそこまで楽しいのやら。
「じゃあ、私はごはんの準備をしますね」
天宮はキッチンに移動した。
それを見て、神神楽は不思議そうに小首を傾げる。
「お姉さん、なんだかやけに慣れていますね」
「えっと……」
一緒に暮らしていて、毎日作ってもらっているから。
なんてことは言えない。
「お姉さんのこと、ちょくちょく家に招いているんですか?」
「まあ……そんなところ」
「やだー、お兄さん、えっちですね!」
なぜ嬉しそうなんだ?
いや、楽しそう?
「言っておくが、神神楽が想像しているようなことは、まだしていないからな」
「え、そうなんですか?」
よほど意外だったらしく、神神楽は目を大きくして驚いていた。
「お兄さんとお姉さん、高校生ですよね? それならもう、毎日が超電磁合体なのでは?」
「なんだ、それ」
「ストレートに言葉にするのは恥ずかしい乙女心です」
「ある意味、ストレートよりも強烈だと思うが……とにかく、なにもしていない」
「どうして? お兄さん、興味ないんですか?」
「あるよ」
ない、とか言うヤツはいないだろう。
中にはいるかもしれないが、そういう人は恋人を作らないと思う。
「大事にしたいとか、そういう感じ?」
「それもあるけど……なんだろうな。今は今で満足しているから、そこから無理に進まなくてもいい気がするんだ」
「……」
「する時はするだろうし、しない時はしない。流れに任せるというか……特に意識したことはないんだよな」
「妙な悟りを開いてますね……でも、それでこそ私が好きなお兄さんです」
なぜか、神神楽の好感度を稼いでしまったみたいだ。
「さてさて」
話題が切り替わる。
神神楽は目をキラキラとさせて、小さな部屋を見回した。
「ベッドはないんですね……となると、家具の裏でしょうか? ふむ、違いますね……なら、本棚にこっそり紛れ込ませているとか?」
「おい。どうしていきなり家探しをしているんだ?」
「えっちな本を探しています」
がたんっ! という音がキッチンから聞こえてきた。
「天宮、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です……ちょっと動揺してしまいました」
そんなものを持っているんですか? と、拗ねるような視線が飛んでくる。
首を横に振る。
「妙な誤解をしないでほしいが、神神楽が期待しているようなものは持っていないぞ」
「なるほど、今はデジタルの時代ですからね。そこのノートパソコンに秘密が?」
「あ、こら」
神神楽は素早い動きでノートパソコンを取り、起動してしまう。
「む、パスワードが……お兄さん、パスワード教えてくれません?」
「素直に教えるわけないだろう」
「むう……お兄さんの誕生日でしょうか? あ、違いますね」
「なんで知っている?」
この子、ちょっと怖い。
「本当になにも持っていない」
ノートパソコンを取り返して、電源を落とした。
「本当に?」
「本当に」
「だとしたら、お兄さん、その歳で枯れていませんか?」
「枯れているわけじゃない」
ちゃんと……と言うのはおかしな話かもしれないが、そういうことに興味はある。
以前は持っていたこともある。
でも、天宮と付き合うようになってから全部捨てた。
彼女のことを一番に考えたい。
性欲を向ける対象も彼女だけにしたい。
そうしないと、天宮にきちんと向き合っていないような気がしたのだ。
まあ……
あまりにも赤裸々すぎる話なので、こんなこと絶対に口にできない。
こんな話をしたら、神神楽はとても楽しそうにしそうで……
天宮はパニックに陥りそうな気がするからな。
あと、単純に俺が恥ずかしい。
「なるほど」
なにも言っていないのだけど、神神楽はある程度を察した様子だ。
ニヤリと笑う。
それから、キッチンに立つ天宮に呼びかける。
「お姉さん、愛されてますね」
「え? えっと……はい、ありがとうございます?」
事情をさっぱり理解していない様子で、天宮は小首を傾げるのだった。




