6話 悩み
納得のいく料理を作り、おいしいと言ってもらいたい。
そうすることで、真にお礼をしたことになる。
そんなことを言われてしまい、天宮さんは連日、俺の部屋に通うことに。
もう十分だ、と断ればいいのだけど……
断ろうとしたら、雨に濡れた子犬のような顔をするんだよな。
そのため、突き放すことができず……
天宮さんの気が済むまで、好きにさせることにした。
そして……3日が経過した。
「ど、どうでしょうか!?」
天宮さんは真剣な顔をして、丼を差し出してきた。
初日と同じく、牛丼を作り続けている。
「えっと……うん、うまいと思う」
「本当ですか……? 本当においしいと思いますか……?」
「あ、ああ……」
「……」
じーっと見つめられる。
その圧に負けるように、軽く目を逸らした。
瞬間、天宮さんが全てを悟り、ため息をこぼす。
「やっぱり、ダメなんですね……うぅ、たくさん練習をしているんですけど、どうしてダメなんでしょうか……」
「でも、少しずつ上達はしていると思うぞ」
「それは、その……うれしいです。進藤くんにそう言ってもらえるの……えへへ」
にっこりと笑う天宮さん。
その笑顔は反則だと思う。
「でも、もっとがんばりたいです。その……進藤くんに、おいしい、って言ってもらいたいですから」
微笑みとともに、そんな台詞が。
そういう仕草、台詞も反則だと思う。
天宮さんは、俺を萌え殺す気だろうか?
真司はよく、漫画やアニメのキャラクターに萌えると言っているが……
ここ最近の天宮さんとの時間で、俺は、現実の女の子にも萌えられるということを知った。
俺のために、四苦八苦して料理を作る女の子。
苦手だとしても、一生懸命にがんばるところ。
かわいくないわけがない。
「……」
ふと気がつけば、天宮さんの視線が明後日の方向に向いていた。
どこか憂鬱そうな顔をして、はぁ、と吐息をこぼしている。
なにかイヤなことでも思い出したのだろうか?
「どうかしたのか? なんか、元気ないけど」
「あ……す、すみません。進藤くんと一緒にいるのに、私、こんな顔をして……」
よくよく思い返してみれば、今日は元気がない気がした。
今みたいに、ため息をこぼす回数が多い。
天宮さんが困っているとして、俺なんかが力になれるのだろうか?
迷うものの……
でも、なにかしらできるだろうと、意を決して声をかける。
「あのさ……なにか悩み事?」
「え?」
「よかったら、話してくれないか? 内容によっては、力になれるかもしれない」
「えっと……でも、以前助けてもらったばかりなのに……」
「そんなこと気にしないでいいさ。天宮さんの力になりたいんだ」
「……進藤くん……」
天宮さんは、じっとこちらを見つめる。
「やっぱり、優しいんですね」
「そんなことは……ないと思う」
ただ単に、気になるだけだ。
それと……憂鬱な顔をしているよりは、笑顔の方が何倍もいい。
そう思っているだけのこと。
「その、ですね……今日、告白をされまして……」
「告白……ですか」
予想外の話に、なぜか丁寧語で返してしまう。
そんな俺のアホな対応は気にせず、天宮さんは話を続ける。
「付き合ってほしいと言われまして……その人は他のクラスで、きちんと話したことはなくて、断ったんですけど……」
「なにか問題が?」
「えっと……なぜか、今日と昨日と一昨日と、毎日、告白されまして……」
「毎日? それはすごいな……」
さすが、姫というべきか。
転校して三日で、学校のアイドルの地位を確立したのではないか?
まあ、それも納得だ。
「天宮さん、すごくかわいいからな」
「ふぇ?」
……しまった。
ついつい言葉にしてしまった。
「かっ、かかか……きゃわわわっ!?」
天宮さんは瞬間的に赤くなり、言語がバグる。
一昨日、手当をしてもらった時にちらりと聞いているが……
本当に、こういうことは苦手らしい。
「えと、ごめん。つい、本音がぽろりと」
「ほ、本音なんですかっ!?」
「まあ。だって、かわいいし」
「ま、またかわいいって!?」
「俺個人の主観だから」
「あううう、その進藤くんに言われると、ものすごくドキドキしてしまうから大問題なんですよぅ……あうあう」
照れる天宮さんは、もっとかわいい。
……なんてことを口にしたら、さらにバグってしまいそうなので、さすがに今度は自重しておいた。
「ごめん、話を逸らしてしまったな。それで、どうしたんだ?」
「あ、はい……その、贅沢な悩みって思われるかもしれないんですけど、告白されるのが悩みの種なんです。私、付き合うとかよくわからなくて……それに、まだ誰かと付き合うつもりもなくて……それなのに、たくさんの人に告白されて、どうすればいいか……」
「なるほど。告白を断るのも大変だからな」
「そうなんです……なるべく傷つけないようにと、毎回頭を悩ませることに……」
「俺のこと優しいって言うけど、そういう天宮さんこそ優しいよな」
「ふぇ?」
「それって、相手のことをきちんと考えている、ってことだろ? 見ず知らずの相手に、そこまで頭を悩ませるなんて、なかなかできることじゃない。少なくとも、俺には無理だ。だから、優しいと思う」
「……っ!?!?!?」
どかーん、と爆発するような感じで、天宮さんが再び真っ赤になる。
ちょっとおもしろい。
「もう……もうもうもうっ、進藤くんは、私のこと……悶え死にさせるつもりですか」
「そんなつもりはないが……」
「ずるいです……ぷぅ」
私は怒っていますよ、とアピールするような感じで、天宮さんは頬を膨らませた。
だがしかし。
ただただかわいいだけの仕草であり、迫力なんてまるでない。
むしろ和んでしまう。
「えっと……要するに、告白されることで悩んでいると?」
話を元に戻して、先に進める。
「はい……私、どうしたらいいんでしょう?」
「うーん」
恋愛絡みの問題は苦手だ。
なにしろ、俺は恋愛経験がゼロだからな。
ただ、困っているのならば、できる限り力になりたいと思う。
一般的な解答ではあるが……
「彼氏を作れば、告白されることもなくなるんじゃないか?」
「彼氏、と言われても……」
「まあ……難しいか」
「はい……今は、そういうつもりは……あ、でも」
なにか閃いた様子で、天宮さんは目を大きくした。
あごに手をやり考える仕草をとり、思考を巡らせる。
「あの……お願いがあるんですけど、いいですか?」
「うん? なに?」
「私の……かっ、かかか……彼氏になってくれませんか!?」
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