59話 にひひ
真司と七塚を呼んで……
結局、夜まで歌って食べて、楽しい時間を過ごした。
そして家に帰るのだけど……
「こんばんは。お兄さん、お姉さん」
「なっ!?」」
家の前に神神楽がいた。
偶然……ということはないだろう。
彼女の表情を見れば、確信犯であることは明らかだ。
「どうして、神神楽がここに?」
「もちろん、お兄さんに会いに来たからですよ♪」
「そういうことを聞きたいわけじゃなくて……」
「わかってます。どうやってお兄さんの家を突き止めたのか、ですね? 簡単です」
神神楽はにっこりと笑い、その手口を明かす。
「お兄さんの従姉妹っていう設定で、お兄さんの学校に電話をしたんですよ。で、お兄さんの家について聞いたんです。相手が私みたいな小学生の女の子だから、油断したんでしょうね。わりと簡単に教えてくれましたよ? あと、お兄さんについて、あれこれと話したのも良かったんでしょうね。こちらも、簡単に身内と信じてくれました」
「あー……なんていうか、もう」
頭が痛い。
子供だけど、神神楽のやっていることは犯罪に近い。
まあ、確信犯なんだろう。
子供だから許されると、それも全部計算づく。
小悪魔だ。
「ところで……もしかして、お兄さんとお姉さんはこれからお楽しみでしたか?」
にひひ、と子供らしからぬ笑みを浮かべる神神楽。
お楽しみ? と首を傾げて……
「……ひぁ!?」
その言葉の意味を理解して、天宮は耳まで赤くした。
たぶん、俺も似たように赤くなっていると思う。
「ち、違う! そういうわけじゃない!」
「そうなんですか? でも、こんな時間に家に来るなんて、そういうことをするのかな、って」
最近の小学生、全員、こんな感じなのか?
マセすぎてやいないか?
「……ただ単に、夕食を作ってもらうだけだ」
帰りにスーパーに寄っておいてよかった。
心底そう思いつつ、スーパーの袋を持ち上げてみせた。
しかし……
この口ぶりからすると、神神楽は俺と天宮の同棲に気づいていないみたいだ。
もしも気づいていたら、もっと騒いで……
いや、騒ぐのだろうか?
むしろニヤニヤして、私も混ぜてください、とか言ってきそうだ。
ダメだ。
小悪魔の考えを予想することは難しい。
「で、神神楽はなにをしにここへ?」
「夜這いです♪」
「ごほっ」
予想外のワードが飛び出してきたため、ついつい咳き込んでしまう。
「……するんですか?」
「しないから」
天宮が拗ねた様子でこちらにジト目を送る。
俺、ロリコンと思われているのだろうか……?
「冗談です。なのでお姉さん、そんな目でお兄さんを見ないであげてください」
「誰のせいだと思っているんだ……」
「神神楽さんのことは嫌いではありませんけど、進藤君はあげませんよ? 私のものです。ずっとずっと、私のものです」
「ちょっとくらい、いいじゃないですか」
「ダメです。小指の爪の欠片もあげません」
「ケチー」
神神楽は唇を尖らせて、拗ねるように足元の小石を蹴飛ばした。
こうして見ると可愛らしいのだけど……
でも、中身は小悪魔なんだよな。
「それで?」
「?」
「家に来た理由だよ」
「あ、そうです。お兄さんお姉さんの反応が面白いので、忘れてしまいました」
大悪魔か?
「実のところ、大して理由はないんですよね。ここに来ればお兄さんに会えるかな、と思って」
「……それだけ?」
「はい、それだけです。お兄さんの顔が見たい、と思ったので」
冗談を言っている様子には見えない。
たぶん、本心なのだろう。
「女の子は、時々、好きな人にものすごく会いたくなるんですよ? そこに理屈なんてありません」
「わかります!」
天宮が食いつき気味に同意した。
「わかりますか!?」
「はい! 私も、進藤君に会いたいと常々思います。違うクラスなので」
「それは辛いですね……学校は同じ。でも、クラスは別。酷い運命ですね。私なら、神様にパンチしますよ」
「そ、それは過激では……?」
「いいえ、大丈夫です。なによりもまず、乙女の情熱が優先されるんです!」
「そういうものですか……」
「そういうものですよ、にひ」
やっぱりこの二人、仲が良い。
長年の友達みたいだ。
恋のライバルのはずなのだけど……
歳が離れているから、こうして仲良くできるのだろうか?
それとも、二人だからこそ、なのか?
「はぁ……とにかく、送っていくから帰れ」
「えー、帰れとか酷くないですか? せっかく会いに来たのに」
「もう夜だ。小学生は家に帰らないと」
「むう、それを言われると辛いですね」
そこで、神神楽は寂しそうな顔をする。
「でも……家に帰っても誰もいませんし」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたのなら、
【ブックマーク】や【評価】をしていただけると、すごく嬉しいです。
評価はページの下の「☆☆☆☆☆」から行うことができます。
反響をいただけると、「がんばろう」「もっと書いてみよう」と
モチベーションが上がるので、もしもよろしければお願いいたします。
次話も読んでいただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします!




