57話 姫さまの歌は……
「わぁ、ここがカラオケなんですね」
駅前にあるカラオケ店にやってきた。
部屋に入ると、天宮は目をキラキラと輝かせる。
「カラオケ、来たことない?」
「はい、初めてです」
「ちょっと意外だな」
「そうですか?」
「色々な友達がいるだろう? だから、カラオケも何度も行っているんじゃないか、って」
「その……実は私、あまり歌が得意じゃなくて」
そう言う天宮は恥ずかしそうだった。
「なので、カラオケは避けていたところが……」
「それなら、どうして今日は?」
「その……歌うのは苦手なんですけど、でも、進藤君と一緒なら行ってみたいな、って思っていて……とてもデートっぽくありません?」
デートらしいのか、それはよくわからない。
オススメの場所とか、そういう知識も仕入れていかないとダメだな。
ただ……
「俺は、天宮と一緒ならどこでもいいよ」
「ただの散歩でも?」
「手を繋いでのんびり話をしよう」
「お昼寝は?」
「天宮と一緒なら、良い夢を見ることができそうだ」
「……私も、進藤君と一緒ならどこでもいいですよ。場所というよりは、一緒にいる相手がとても重要なんです」
一緒に笑う。
それがとても大事だ。
「えっと……どうすればいいんでしょうか?」
「このタブレットで曲を選べばいいんだ」
「……???」
タブレット端末を渡すものの、天宮は不思議そうにするだけ。
どうしていいかわからない様子で、あわあわと混乱しだしてしまう。
「どうすればいいんでしょうか?」
「ここは……」
タッチパネルの操作を説明すると、天宮は納得した様子で頷いた。
これ、さほど迷うことなく、直感で操作できると思うのだけど……
こういうの苦手なのだろうか?
「じゃあ、曲を入れますね」
「どうぞ」
ぎこちない手付きで天宮は選曲する。
なにを歌うのだろう?
流行りのJPOP?
あるいは、意外なところで洋楽とか?
楽しみにしつつ待っていると……
「がんばれがんばれ~みんなの希望だ~光の巫女~シャイニープリンセス~♪」
まさかのアニソンだった。
しかも、女児向けアニメ。
魔法少女だけど、魔法を使わずに拳で戦う物語。
国民的アニメだから俺も知っていたのだけど、さすがに歌詞は知らない。
しかし、天宮は完璧だ。
「負けないで~負けないで~♪ みんなの笑顔を守ろうよ~♪」
画面を見ていないけど……もしかして、歌詞を完璧に暗記している?
それだけじゃない。
完璧に歌いきっているだけじゃなくて、振り付けも完璧だ。
アニメが好きな人でも、ここまで完璧に歌うことはできないだろう。
「……ふぅ」
ほどなくして歌い終わり、天宮はにっこりと笑う。
「ど、どうでした?」
「うん、すごく良かったと思う」
アニソンなのは驚いたけど……
本人が楽しいのなら、それが一番だ。
「それにしても、どこでその歌を?」
「親戚に小さい子がいて、たまに一緒に見ているんですよ」
「なるほど」
「はい、次は進藤君の番ですよ」
タブレットを渡されるものの……
もっと天宮の歌を聞いていたいな、と思うのは贅沢だろうか?
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