56話 レベルアップ
昼休み。
今日は天宮が作ってくれた弁当だ。
静かに食べたいので、二人で中庭へ移動する。
「「いただきます」」
ほうれん草を巻いた卵焼き。
じゃがいもと人参の煮物。
そしてメインは、アスパラガスの豚肉巻き。
俺が好きな濃い目にしてくれていて、ごはんが進む味だ。
「どうですか?」
「うん、おいしいよ。文句なし」
「そうですか? でも、せっかくのお弁当だから、ハンバーグとかエビフライとか、もっと派手なものの方が……」
「それ、冷凍じゃないと大変だろう? 冷凍食品が悪いってわけじゃないけど、でも、それよりは天宮の手作り料理が食べたいかな」
冷凍食品は日々進化していて、おいしい。
おいしいのだけど、やはり天宮の手料理には敵わない。
「それに、こういうおかずも好きだよ。なんていうか、温かみを感じられる」
「そうですか……ふふ、良かったです」
天宮はにっこりと笑いつつ、煮物を口に運ぶ。
自分でも満足いく出来だったらしく、うんうんと頷いていた。
その横顔はとても綺麗だ。
ずっと見ていたい。
「進藤君?」
と、こちらの視線に気がついた天宮が不思議そうな顔に。
「私の顔になにか?」
「ごめん。見惚れていただけ」
「そ、そうですか……」
「そうやって、照れるところもかわいい」
「うぅ……嬉しいですけど、でも恥ずかしいです」
天宮は頬を染めつつ、
「でも……こうやって、進藤君の視線を独り占めできるのは、とても嬉しいです」
と、そんなカウンターを繰り出してくるのだった。
「進藤君?」
「……いや、なんていうか」
「もしかして……照れています?」
「……はい」
「ふふ、一緒ですね」
そこで嬉しそうにするのは反則だと思う。
「あ」
弁当を食べ終えたところで、天宮が思い出したようにこちらを見る。
「あの、進藤君。少しお願いがあるのですが……」
「うん?」
「その……今度、デートがしたいのですが……」
「もちろん」
断る理由なんてない。
ただ、天宮がちょっと真面目な顔をしているのが気になった。
「デートはいいんだけど、なんでそんな真面目そうな顔に?」
「えっと、神神楽さん対策と言いますか……」
天宮曰く……
神神楽というライバルが現れた以上、今まで以上にがんばらないといけない。
日々をのんびり過ごすなんてダメ。
俺の心をがっちりと掴まないといけない。
そして今まで以上に見てもらう。
「なので、デートをしたいんです!」
「反対なんてしないし、歓迎だけど……そこまで意気込まなくてもいいのでは?」
「いいえ、甘えは許されません。しっかりがんばらないとダメです。恋人として、レベルアップしないといけないんです」
「うーん」
そこまで真面目に考えなくてもいいと思うのだけど……
でも、なにもしないでのんびりする、っていうわけにはいかないか。
俺も、天宮のことが好きな人が現れたら落ち着いていることは難しい。
「了解。じゃあ、がんばろうか」
「はい、がんばりましょう」
天宮はにっこりと太陽のように笑う。
「うーん」
「どうしたんですか?」
「いや。この笑顔があれば、俺、ずっと天宮のことを好きでいられる自信があるんだけど」
「はぅ」
赤くなった。
「い、いきなり恥ずかしいです……」
「ごめん。でも、本音だから」
「ま、またそういうことを……うー、進藤君はずるいです」
「そうやって拗ねるところも可愛い」
「あぅ……」
さらに耳まで赤くなる。
可愛いだけじゃなくて、なんだか、見ていて楽しい。
「ところで、デートの希望はある?」
「えっと……」
人差し指を唇に当てて、んーと上を見て考える。
その仕草は普通に可愛い。
「カラオケがいいです!」
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