55話 小悪魔、襲来
「やっほー、お兄さん♪」
翌朝。
いつものように登校しようとすると、神神楽と出会う。
どこでどう知ったのかわからないが、俺の登校ルートを把握していたらしい。
「おはようございます」
「……」
「ダメですよ、お兄さん。私が敵だとしても、ちゃんと挨拶はしないと」
「……おはよう」
「はい、おはようございます♪」
神神楽はにっこりと笑う。
元気いっぱいの愛らしい笑顔だ。
こんな妹がいたら日々が楽しいと思うのだけど……
あいにく、俺の恋人になることを望んでいるんだよな。
本当、どうして俺のことを好きになったのやら。
「というか、敵って自認するんだな」
「まあ、彼女がいる男性にアタックしているわけですからね。どう考えても敵じゃないですか。これで、私はあなたの味方です、なんて言ったら胡散臭すぎますよ」
「神神楽は、本当に小学生か?」
「ですよ」
ニヤリと笑う。
そんな彼女の背中に、小悪魔の羽と尻尾が見えた……ような気がした。
「進藤君、おまたせ……しまし、た……?」
遅れて天宮がやってきた。
一緒に暮らしていることを隠すため、別々に家を出て、こうして途中で合流するようにしている。
「あ、お姉さんがお兄さんの彼女さんですね」
「えっと……?」
「はじめまして。神神楽結、っていいます」
「あ、丁寧にどうも。天宮六花です」
律儀に挨拶をする天宮。
らしいと言えばらしいが……緊張感がまったくないな。
「私のこと、お兄さんから話は聞いていますか?」
「はい、聞いていますよ」
「では……改めて宣戦布告といきます」
神神楽は薄く笑いつつ、しかし、瞳は真面目に。
まっすぐ天宮を見つつ言う。
「私、お兄さんのことが好きです」
「……」
「お兄さんの彼女の座、お姉さんから奪い取るつもりです」
「……わかりました。でも、そう簡単に明け渡すつもりはありません」
二人の視線が交差する。
これは、修羅場というヤツか……?
「私も、進藤君のことが好きです。大好きです。どれくらい好きかというと、いつも進藤君のことを考えて、ついつい寝不足になってしまうくらい好きです」
「それを言うなら、私も好きですよ? お兄さんのことばかり考えているせいで、最近、勉強が手につかないんですよね。気がつけば、ノートにお兄さんに対する想いをつづったりしていました」
やめてくれ。
そんなに好きと連呼されると、ものすごく恥ずかしい。
「あ。それ、ちょっとわかります」
「わかってくれますか!? この話を友達にすると、えー、っていう感じで引かれちゃうんですよ」
「私はわかりますよ。似たようなことをしたことがありますからね」
「おー、お姉さん、やりますね」
「好きな人に対する想いがあふれるのは、よくあることですからね。いつでもどこでも考えてしまう、のは普通のことだと思います。その想いが表に出て、そういう結果になっただけですよ」
「ですよね、ですよね!? お姉さん、話がわかりますね」
「神神楽さんも」
あれ?
なんだか仲良くなっている?
「んー、お姉さん、思っていたよりも素敵な人ですね」
「神神楽さんも、とても可愛らしいです」
「むむ、強敵です。でも、私は諦めませんよ? お兄さんのハートをゲットしてみせます」
「私だって、進藤君の心を手放すつもりはありません」
「なら……勝負ですね」
「はい、勝負ですね」
神神楽が笑う。
天宮も笑う。
不敵な笑みとか、そういうものではなくて……
スポーツ選手が互いの健闘を称えるような、そんな感じだ。
「じゃあ、私はこれで失礼しますね」
「意外とあっさり引き下がるんだな」
「本当は、もっとお兄さんとお話をして、私を売り込んでおきたいですよ? でも、学校は正反対の方向なので、そろそろ移動しないと遅刻してしまいます」
そういえば、小学校は高校と真逆の方向にある。
「では……お兄さん、お姉さん、また!」
「あ、神神楽さん」
立ち去ろうとした神神楽を天宮が呼び止める。
「はい?」
「いってらっしゃい」
「……」
さすがに、その挨拶は想定外だったのだろう。
神神楽は、ぽかーんと目を大きくして驚いて、
「はい、いってきます!」
とても嬉しそうな顔をして、道路を駆けていくのだった。
残った俺達は彼女についての話をする。
「意外だけど、仲が良さそうだな。正直、もっと荒れるかと思っていた」
「神神楽さんが小学生だから、というのもあるかもしれないですが……なんだか、憎めない子です」
「だな」
色々な意味で厄介な子なのだけど、でも、その場にいるだけで周囲を明るくするような元気な子で……
俺達は、ついつい笑みを浮かべてしまうのだった。
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