53話 本当に予想外のこと
正直なところ、告白されるなんて予想外だった。
イメチェンをしたものの、だからといってアイドル並みに輝くようになったわけじゃない。
微妙からマシになっただけ。
そんな俺に告白をするなんて、相当な変わり者だろうと思っていた。
どんな女の子なのだろう?
色々な想像をしていたのだけど……
「はじめまして、お兄さん」
にっこりと笑う女の子は、俺の腰くらいまでしか背がない。
健康的な体型をしているところを見ると、発育が極端に遅れているということはないだろう。
これが彼女にとっての普通なのだ。
なぜなら……
「えっと……」
「あ、自己紹介からしないとダメですね。私、神神楽結っていいます」
「かみかぐら……?」
変わった名前だ。
「えっと……俺は、進藤歩」
「はい、知っています」
「そっか。それで……質問、いいかな?」
「はい」
「君が、あのメッセージの相手?」
「君じゃなくて、結って呼んでほしいです♪」
「……せめて、神神楽で」
「むぅ、仕方ないですね。はい、そうですよ。私が、お兄さんにラブレター……ラブメール? を送りました」
「本当に?」
「なんで疑うんですか?」
「……その前に、質問を一ついい?」
「はい、どうぞ」
「その……背中のランドセルは本物?」
そう。
神神楽はランドセルを背負っているのだ。
「はい、本物ですよ」
「……本当に?」
「こんな嘘を吐いてどうするんですか? 女性が年齢を鯖読むことは、まあまあ、あることと思いますが、さすがに小学生を名乗ることはしないかと」
「……だよな」
神神楽は本物の小学生。
そして……
俺は、その小学生に告白をされた。
「どうしたんですか、お兄さん? ふらふらしていますが」
「いや……なんていうか、本当に予想外のことが起きると、人間、ショックを受けるものなんだな……って」
「むぅ、私の告白がショックとか、ひどいです」
「あ、いや。すまない、そういうわけじゃないんだ。なんていうか、こう……」
「ふふ、わかっていますよ」
神神楽はニヤリと笑う。
「私みたいな小学生に告白されたことに驚いているんですよね?」
「まあ……そうなる」
高校生と小学生。
そこで恋愛関係が成立するとは、普通、思わないだろう。
「ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったんですけど、でも、どうしても我慢できなくて……」
「それ、疑問なんだけど」
「はい?」
「どうして……俺に?」
神神楽とは今日が初対面だ。
もしかしたら俺が忘れているだけで、どこかで話をしているのかもしれない。
でも、忘れてしまうくらいのもの。
俺に恋心を抱くなんて、そんなことはないと思うのだけど……
「それは……」
「それは?」
「……秘密です♪」
神神楽は人差し指を唇に当てて、いたずらっぽく笑う。
コントのようにコケてしまいそうになる。
「あ、あのな……」
「ふふ、乙女はちょっとくらい秘密がある方がミステリアスでいいんですよ? そうそう簡単に教えたりなんかしてあげません」
「……わかった」
色々と気になるところは多いものの、神神楽はこちらの疑問に全て答えてくれない様子だ。
なら、その疑問は無視するしかない。
その上で、きちんと話をしよう。
相手は小学生。
恋に恋をしているだけかもしれない。
だとしても告白だ。
きちんと返事をしないといけない。
「告白のことだけど、俺は……」
「あ、返事はしなくて大丈夫です」
「え?」
あっさりと言われてしまう。
「どういうことだ?」
「どうもこうも、私、本気です」
神神楽は、とてもまっすぐな目でこちらを見た。
彼女の中にある熱が伝わってくるかのようだ。
「私、神神楽結は、進藤歩さんのことが好きです」
「……っ……」
「私は小学生ですが、でも、本気であなたの恋人になりたいと思っています。だから、今は返事はいらないです」
なんとなくだけど彼女の考えていることを察した。
だとしたら……
これは、とんでもなく厄介だ。
「お兄さんに彼女がいることは知っています。天宮六花さん。お姫さまと呼ばれているくらい完璧な人で、いきなり私が告白してもお兄さんの気持ちが揺らぐことはありません。それくらいわかります。でも……」
神神楽はニヤリと笑う。
その笑みは、まさに小悪魔だった。
「お兄さんには、これから私のことを知ってもらいます。それはもう、色々な方法で私の全部を知ってもらいます。その時、返事を聞かせてくださいね?」
つまり……
これは、ある意味で、神神楽からの宣戦布告だ。
絶対に私のことを好きにさせてみせるから覚悟してくださいね、という。
「まいったな……これは、本当に予想外すぎる」
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