51話 新しい刺客?
「はぁ……」
登校して、教室の近くまでやってきたところで、隣の天宮が憂鬱そうな顔に。
「どうしたんだ? ため息なんてこぼして」
「どうして、私と進藤君は違うクラスなのでしょうか? いつもいつもここでお別れで……うぅ」
とても落ち込んでいる様子だ。
大げさな、と笑うことはない。
だって、俺も同じだから。
「まあ、こればかりは仕方ないさ。任意でクラスを決めることはできないからな」
「進藤君は寂しくないんですか?」
天宮は拗ねるように唇を尖らせた。
「寂しいよ」
「っ」
「天宮と一緒のクラスだったら、って毎日思っている。授業の度、天宮の姿を探して教室を見回したり、その声を聞きたくて電話をかけようとしたり、そんなことばかりだ」
「そ、そうですか……」
「最近は、よく天宮のことを考えるよ。そのせいで授業に集中できない時もあるけど、でも、それじゃあダメだからな。なんとか考えないようにして、でも、難しくて……」
「そ、それでくらいでお願いします……もう、私が保ちません……」
なぜか天宮が真っ赤になっていた。
なんだろう?
「でも、違うクラスでも良いことはあると思う」
「そうですか?」
「例えば、俺が教室で授業を受けている時、グラウンドで体育の授業を受けている天宮を見ることがある」
「そういえば……」
「そうやって、離れていても繋がっていることを実感できる時があるというか……そういう瞬間も大事だと思うんだ。ちょっともどかしいけどな」
「そうですね……はい。進藤君の言うこと、わかるような気がします」
「よかった」
天宮と同じ想いを共有できている。
そのことがなによりも嬉しい。
その上で、これからもその気持ちを続けて……
そして、新しいものを見つけていくことができたらと思う。
二人で一緒に。
「じゃあ、昼休みに」
「はい、昼休みに」
天宮と別れて自分の教室へ。
その気になれば休み時間毎に会えるのだけど……
そうすると、自分のクラスをないがしろにすることになる。
それはよくないと、なにもない限り、会うのは昼休みだけにしているのだ。
……スマホでメッセージなどのやりとりはしているけどな。
「おはよう」
「よっす」
「やっほー」
俺の席に真司が座っていて、その隣に七塚がいた。
この二人は時間やタイミングを気にすることはない。
一緒にいたい時に一緒に過ごして、そうでない時はそれぞれマイペースに過ごしている。
「席、借りてるぞ」
「借りてるぞ、じゃない。どいてくれ」
「頼む。俺のところ、他の女子に占領されてさ」
見ると、真司の席の辺りに多数の女子がいた。
おしゃべりに夢中になっている様子だ。
「……同情はするけど、なら、俺はどこに座ればいいんだ?」
「机の上」
「お前だろ、それ」
真司をどかして席に座る。
真司はぶつくさと文句を言いつつ、俺の机の上に座った。
「真司がごめんねー、進藤君。今度、ちゃんと躾けておくから」
「俺は犬か」
「似たようなものでしょ? ほら、お手」
「わんっ」
「いい子いい子ー」
「わふー」
この二人、本当に仲が良いな。
俺と天宮も、いつかこんな風になれるだろうか?
いや。
犬のマネをするかどうかは別として、だけど。
「ところで進藤君」
七塚がなにか思い出した様子で声をかけてきた。
「進藤君のメッセージのID、友達に教えてもいい?」
「いきなりなんだ?」
意味がわからない。
「いやー、進藤君イメチェンしたでしょ? そうしたら、お近づきになりたい、っていう子がたくさん現れてねー」
「俺、彼女がいるんだけど」
「それとこれとは別、みたいな? 女の子はイケメンで目の保養をしたいものなのさ、ふっ」
そんなかっこよさげに言われても……
「友達も、なにも本気で進藤君を狙っているわけじゃないから。イケメン保養がしたいのと、噂の姫さまと付き合っている人はどんな人? っていう好奇心だよ」
「俺、天然記念物じゃないんだけどな……珍獣扱いは、正直勘弁してほしい」
「だよねー。おっけ。じゃあ、断っておくね」
七塚はあっさりと引き下がる。
元から断るつもりだったのかもしれない。
でも、なんだかんだ、七塚は義理堅い。
断るにしても、最低限、相手に是非を尋ねなければいけない、と思っていたのだろう。
「あー……メッセージのIDなんだよな?」
「そだよ?」
「わかった、それくらいならいいよ」
「え、マジで?」
「歩、お前まさか、二股を狙ってぐはぁ!?」
余計なことを口にしようとした真司は、七塚の鉄拳制裁を受けていた。
この二人は、女性の方が圧倒的に上なのだ。
物理的な意味で。
「イメチェンでは、七塚にお世話になったから。その礼っていうのも変だけど、多少は……な」
「ありがと! これで、あたしの顔も立つよ。あ、でもでも、面倒なことになりそうだったら、ソッコーでブロックしてもいいからね? 後のことは知らないし」
「了解」
そんな感じで話がまとまるものの……
事態は予想外の方向に進行して、面倒なことになってしまうのだった。
数日後。
見知らぬ人から、
『好きです。放課後、中庭で待っています』
というメッセージが届くのだった。
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