48話 おやすみなさい
ちょっとしたハプニングがありつつも、風呂タイムは終わり……
あくびがこぼれるような時間に。
時計を見ると、日付が変わろうとしていた。
「そろそろ寝ようか」
「そうですね……でも、ちょっと残念です」
一緒にゲームをしていたのだけど、思いの外楽しんでいた。
無人島を開拓していく、というゲームものだ。
こういうスローライフ系はあまりやらないのだけど、天宮と一緒ならとても楽しい。
布団を並べて敷いた。
横になって明かりを消す。
「……」
「……」
ちょっとした無言。
それから、俺と天宮はくすりと笑う。
「なんだか……」
「不思議な感じですね」
昨日、一つの布団で一緒に寝たのだけど……
その時以上に緊張していた。
こうして横に並んで寝ていると、不思議と一緒に寝ていた時以上に天宮の存在を感じる。
距離が近すぎるとドキドキするしかないのだけど……
適度に離れているから、妙に相手のことが気になる。
「ふふ」
ふと、天宮が小さく笑う。
「どうしたんだ?」
「また一つ、夢が叶いました」
「それはどんな夢?」
「進藤君とこうして一緒に寝ることです」
「昨日は?」
「あれは……ちょっといきなり過ぎて近すぎたので、ノーカンです」
賛成だ。
あれはちょっと心臓に悪い。
ドキドキしすぎて、本当にどうにかなってしまうかと思った。
「でも……あまり実感がないですね」
「一緒に暮らしていること?」
「わっ、どうしてわかったんですか?」
「天宮のことだから」
「あぅ」
照れたらしい。
「むぅ……」
今度は拗ねるような声。
「私は、進藤君のことでわからないことがたくさんあるのに……なんだか不公平です」
「俺だってそうだよ」
「本当ですか?」
「本当」
天宮のことが好きで、なんでも知りたいと思う。
それこそ、プラス要素だけではなくてマイナス要素のことにも触れたいと思う。
でも、そんなことはできない。
気軽に触れていいことではないし……
もっともっと時間をかけて、信頼を得ていかないとダメだろう。
天宮の全部を知るのはずっと先だ。
「私、進藤君のことをもっと知りたいです。教えてくれますか?」
「もちろん」
ふと、疑問に思う。
「例えば、どんなことを知りたいんだ?」
「えっと……好きな食べ物、好きな趣味、好きな色、好きな動物、好きな女の子のタイプ……色々です」
「多いな」
「進藤君の好きをたくさん知って、それを私も共有したいんです。そうやって、一緒に好きを楽しめることができたらな、って」
いじらしいことを言われてしまい、なんかもう、たまらなくなってしまう。
しかし、我慢だ。
ここで手を出しても、天宮は受け入れてくれると思う。
でも、そんな勢いに任せたくはない。
天宮のことが好きだから。
天宮のことが大事だから。
もっともっと、きちんと手順を踏んでいきたい。
「天宮は俺のことをたらしって言うけどさ」
「はい」
「天宮も、かなりのたらしだよな」
「えっ?」
「こうして話をしているだけで、どんどん天宮に対する『好き』が強く深くなっていくよ」
「え、えっと……ありがとうございます……」
ものすごく照れているような声だった。
ちらりと横を見ると、耳が赤くなっているのが見える。
「ただ、全部を教えるとなると大変そうだな」
「そうですね。すごく時間がかかってしまうと思います」
「なら、ゆっくりでいいか」
「ゆっくり……ですか?」
「少しずつ知っていけばいいと思う。それくらい、一緒にいるつもりだから」
「あ……はい!」
天宮はこちらを見て、にっこりと笑う。
その笑顔は俺が一番好きなものだ。
「とりあえず、今一番好きなものを教えておくと……」
「はい?」
「天宮の笑顔かな」
「っ……!?」
びくっと天宮が震えて、反対側を向いてしまう。
「天宮?」
「……そういうところが、すごくすごくずるいです」
「ずるい、って言われても……思ったことを口にしただけなのに?」
「うぅ……ですから、そういうところです!」
天宮はそう言うのだけど、そうやって照れるところも、俺からしたらずるい。
「天宮」
「……なんですか?」
また甘いことを言われるのではないかと、天宮は警戒している様子だ。
そんな彼女に、俺はのんびりと言う。
「おやすみ」
「……はい、おやすみなさい」
今夜は良い夢が見れそうだ。
そんなことを思いつつ、俺はゆっくりと目を閉じた。
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