47話 試される忍耐力
「進藤君、聞こえていますか?」
「ああ、聞こえているよ」
「よかったです。じゃあ、お風呂に入りますね」
わざわざ報告はしないでほしい。
その、なんていうか……
想像してしまうじゃないか。
「……んぅ」
パシャリと水音が響いた。
それと同時に、天宮の小さな声。
たぶん、かけ湯をしたんだろうけど……
なんていうか、状況を理解しているせいで色々な妄想をしてしまいそうになる。
落ち着け、俺。
天宮は彼女だけど、でも、なにをしてもいいっていうわけじゃない。
彼女を傷つけるなんてもっての他。
ゆらぎのない水面のような心で……
「ひゃっ」
「……」
「シャワーに残っていた水滴が垂れて、つい……あ、私は大丈夫です」
「……そっか」
わざとなのだろうか?
天宮は、もしかして俺を試しているのだろうか?
そんなことを思うくらい、色々と大変だった。
「えっと……」
風呂に入りながら話をする。
そんな状況は初めてだろうから、会話に困っている様子だ。
俺からなにか話を振った方がいいだろうか?
なにがいいか考えていると、
「進藤君は、お風呂で最初にどこから洗いますか?」
「ごほっ」
とんでもない質問が飛んできて、ついついむせてしまう。
「進藤君?」
「あ、いや……大丈夫。大丈夫だから」
「そうですか? それで……進藤君は、最初にどこを洗いますか?」
その質問にドキドキしてしまうのは、俺の心が汚れている証拠なのだろうか?
なによりもまず、俺の心を最初に洗った方がいいのだろうか?
「えっと……腕かな」
「あ、私も腕から洗いますよ。えへへ、仲間ですね♪」
「そこ、喜ぶポイントなのか?」
「喜ぶポイントですよ。私、できる限り進藤君と一緒でいたいので。だから、価値観とかも共有していきたいというか、同じになりたいです」
気持ちはわからないでもない。
俺も、今言われたようなことを考える時がある。
「でも、洗う場所とか、そこはさすがにどうでもよくないか?」
「よくないです。私、進藤君の全部を知りたいんですから。そして、一緒の気持ちを共有していきたいです」
「……」
「進藤君?」
「いや、なんでもない」
ものすごく照れてしまい、ついつい言葉を失ってしまっていた。
……なんて、そんなことを言うのは妙に恥ずかしいため、適当にごまかしてしまう。
「でも、なんだか不思議な気持ちですね。お風呂に入っているのに、こうして進藤君とお話をしているなんて」
「一緒に暮らしているからこそ、ある意味、できるようなものだな」
「そうですね。ワンルームに感謝です」
にっこりと笑う天宮が想像できた。
ワンルームの生活で不便させているのではないかと、心配をしていたのだけど……
今のところ、そこまで嫌に思ってはいない様子だ。
これからもそれが続くように、どうにかこうにか努力していかないとな。
「ふぅ」
体を洗い、湯船に浸かったのだろう。
水音とほんわかとした声が聞こえてきた。
「お風呂、気持ちいいですね」
「明日、交換しておくから、ちゃんと入れるようにするよ」
「それはそれで、ちょっと寂しいかもですね。こうしてお話しながらのお風呂、けっこう楽しいです」
すっかり慣れた様子で、天宮は楽しそうに言う。
そんな彼女の声を聞いていると、ちょっとしたいたずら心が湧いてきた。
「電灯を変えてからも、話をしつつ風呂に入る方法があるけど」
「え? どういうことですか?」
「一緒に入ればいいんじゃないか?」
「ふぁ!?」
ばしゃん! と派手に水音が聞こえてきた。
湯船の中でひっくり返ったのかもしれない。
「天宮?」
「そ、そそそ、それは……その、えっと、あの……!?」
ものすごく慌てているみたいだ。
ちょっといたずらが過ぎたかもしれない。
「ごめんごめん、ただの……」
「……いいですよ」
冗談、と言おうとしたところで、天宮の甘い声が聞こえてくる。
「一緒でも……い、いいですよ?」
「え?」
「ですから、その……一緒にお風呂」
「いや、でも……」
「私は、えっと……そ、そういうことも考えて……あ、やっぱり今のなしです! なしです!?」
我に返った様子で、慌てる天宮。
そんな声を聞いていると、こちらの緊張もほぐれてくる。
はぁ……心臓に悪い。
いたずらをしたら、それ以上のいたずらが返ってきて……
藪を突いたら蛇って、こういう状況なのか?
ちょっと違うか。
「うぅ、私、なんてことを……」
天宮は恥ずかしそうな声をこぼしていて……
「色々ときつい……」
俺も、ぐるぐるとなりそうな心を必死に落ち着けていた。
たぶん、俺と天宮は、二人共顔を真っ赤にしていただろう。
幸いなのは、それを誰にも見られていない、ということだ。
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