45話 一緒に料理
のんびりテレビを見ていると、キッチンの方から、包丁でリズミカルにまな板を叩く音が聞こえてきた。
トントントン、と見ていなくても手慣れていることがわかる。
料理は天宮の担当。
担当なのだけど……
「……天宮、なにか手伝えることはないか?」
彼女一人に任せるのもどうかと思い、そう声をかけた。
「気持ちは嬉しいんですけど……」
天宮は困った顔でキッチンを見る。
ワンルームなので、キッチンも相応のサイズだ。
シンクの上にまな板を乗せないと作業スペースを確保できず、狭い。
二人、並んで料理をすることは難しいだろう。
「えっと……あ、そうだ」
なにか閃いた様子で、天宮はボウルをこちらに持ってきた。
「これ、しっかりと練ってくれませんか? それなら、そっちでもできると思うので」
「了解」
「お願いします」
天宮からボウルを受け取り、さっそく作業に取り掛かる。
ボウルの中は、豚肉のミンチ。
刻んだキャベツとニラ。
それとすりおろした生姜などが入っていて……
「今日は餃子?」
「正解です♪」
「中華も作れるなんて、すごいな」
「本格的なものではありませんから。レシピもあるので、進藤君も作れると思いますよ?」
「そうかな?」
「はい。一緒に作りましょう」
「がんばるよ」
天宮の期待に応えたい。
しっかりと力を入れて、餃子の餡を練る。
一方で、天宮は鍋と向き合っていた。
細かく刻んだ野菜などを入れて、なにやら調味料を追加していた。
なんだろう?
彼女の作る料理はどれもおいしいので、今から期待してしまう。
「よし、こんなところですね」
大体の仕込みが終わったらしい。
天宮はコンロの火を止めると、ステンレスのトレイを手にこちらにやってきた。
「餡はどうですか?」
「けっこう練ったつもりだけど……」
「えっと……はい、とても良い感じですね。じゃあ、皮に包んでいきましょうか」
餡が入ったボウルの隣にトレイが置かれた。
そこに餃子の丸い皮がある。
「俺、餃子を包んだことなんてないんだけど……」
「私が教えますよ。それに、失敗とか気にしないでいいですよ。料理の基本は楽しく作ること、です」
天宮に見てもらいつつ、一緒に餃子を包んでいく。
まずは、スプーンで餡をすくう。
餡を皮の中心に乗せて、小麦粉と混ぜた水を周囲に塗る。
そして半分に畳んで、波打つように包んで……
「む」
包んで……いけない。
ちぐはぐな感じになってしまい、不格好な餃子ができてしまう。
「これ、意外と難しいな」
「焦らないで、ゆっくりやるといいですよ。こんな風に」
天宮は慣れた様子で餡を包んでいく。
速く丁寧な作業で、あっという間に終わる。
とても綺麗な形で、店で売られているものと同じだ。
「すごいな」
「慣れてますから」
「もう一個、作ってみてくれないか? 天宮のを見て、やり方を覚えたい」
「わかりました」
天宮は皮を取り、その中に餡を落とした。
それを綺麗な指で包んでいって……
「えっと……」
「どうしたんだ?」
「そんなに見られると、少し照れてしまいます……」
「ごめん。でも、天宮の指は綺麗だから、つい」
「ふぁ」
予想外の台詞だったらしく、天宮は妙な声をあげて顔を赤くした。
「あ、ありがとうございます」
「本当に綺麗な指だよな。だから、ちゃんと包めるのかもしれない」
「えっと……」
「包み方にも性格が現れているよな。天宮の優しさがにじみ出ているよ」
「あの……」
「天宮が包んでくれて、餃子も幸せかもしれないな」
「……ごめんなさい。もうその辺で……」
ものすごく照れている様子で、天宮はゆでダコのようになっていた。
「どうして、そんなに照れているんだ?」
「うぅ……進藤君、そういうところは天然ですよね」
「そう……なのか?」
「そんなに褒められると恥ずかしいです」
「でも、本心だ」
「そ、そういうところです!」
どういうところだろう?
「でも……こうして一緒に餃子を作るのって、楽しいな」
こうした共同作業をしていると、一緒に暮らしている、という実感が湧いてくる。
それだけじゃなくて、楽しくて心地よくて……
天宮六花という女の子に、さらに心惹かれていく自分がいた。
驚きだ。
彼女に対する気持ちはストップすることなくて、どこまでも上がり続けていく。
これ、終わりはあるのだろうか?
「あの、ですから……そういうところが、その……」
「……俺、言葉に出していたか?」
「はい」
「……ごめん」
「……いいえ」
さすがに俺も恥ずかしくなり……
天宮と一緒になって、相手を見ていることができず、視線を逸らしてしまうのだった。
まあ、それはそれとして。
その後、無事に餃子は完成。
天宮の特製スープと一緒においしくいただくのだった。
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