44話 布団
学校が終わり、帰宅。
しばらくすると業者がやってきて、天宮の残りの荷物を運んでくれた。
布団などの大きな荷物がメインだ。
といっても数はさほどないので、部屋を大きく圧迫することはない。
「よし」
荷物の整理が終わる。
押し入れはまだ余裕があったため、基本的にそちらへ詰め込んだ。
「これでいいな。だいぶ余裕があってよかった」
「そうですね。それなりに荷物があったので、部屋がいっぱいになっちゃうのでは? と少し心配でした」
「ここ、収納は多いからな」
その上、立地も良くて家賃も安い。
良い物件だ。
両親と大家が友達らしく、この物件を紹介してくれた。
感謝しかない。
「これで夜はちゃんと眠れるな」
「眠れなかったんですか?」
「……あ……」
しまった、余計なことを口にしてしまったかもしれない。
「進藤君、寝不足だったんですか? そういえば、何度かあくびをしていたような……」
「えっと……」
「大丈夫ですか? もしかして、体調が悪いとか……」
天宮に心配をかけてしまう。
こうなることが予想できていたから、ちゃんと隠さないといけなかったのだけど……失敗だ。
「少し寝付きが悪かっただけだから」
「そうなんですか?」
「たまたまだから、心配しなくていいよ。大丈夫」
「でも……」
天宮は納得していない様子だ。
できれば、本当の理由は隠しておきたかったのだけど……
心配をかけている以上、そういうわけにもいかないか。
「……たんだ」
「え?」
「つまり……天宮と一緒に寝ただろう? あれ、本当はすごく意識してて……だから、なかなか寝ることができなかったんだ」
「ぁ」
理由を察したらしく、天宮の頬が朱色に染まる。
やや視線を落として、両手の指先を意味もなく絡ませた。
「そ、そういうことだったんですね……」
「……そういうことだ」
恥ずかしい。
意識しすぎて眠れないとか、彼女に伝える話じゃないだろう。
欲望に満ち溢れている、とか思われたらどうしよう?
「……」
軽蔑されることも怯えられることもなくて、天宮は、ただただ恥ずかしそうにする。
ちょっと意外な反応だ。
困った顔をするか、気にしないでくださいと言うか、そんな展開を予想していたのだけど……
その予想は外れて、天宮は耳を赤くしていた。
今の話で、どうして天宮が照れるのだろう?
「……あの」
ややためらいがちに天宮が言う。
「実は、私も眠れませんでした」
「え?」
「進藤君と一緒のお布団で寝ていると思うと、なんていうか、その……すごくドキドキしてしまって」
その時のことを思い返しているのか、天宮の顔は真っ赤だ。
「進藤君はもう寝たのかな? まだ起きているのかな? ちょっとお話をしてみたいな。顔を見てみたいな……などなど、あれこれ考えていました」
「そう……だったのか?」
てっきり、天宮はぐっすり寝たと思っていたんだけど。
そっか。
天宮も同じだったのか。
「私も……ドキドキしていましたよ?」
「なら、仲間だな」
「はい。ドキドキ仲間です」
「言葉だけ聞くと、なんのことかさっぱりわからないな」
「私達だけがわかっていれば、それでいいと思いますよ」
天宮はにっこりと笑う。
秘密を共有している者同士……というような感じで、ちょっと大げさではあるものの、それはいたずらっぽい笑みだ。
「でも……ちょっと寂しいですね」
天宮がしゅんとなる。
「どうしたんだ?」
「今日から、別々のお布団ですよね?」
「そうだな」
「それが、ちょっと寂しくて……もう少し、進藤君と一緒に寝たかったです」
「……勘弁してくれ」
そんなことになったら、俺は、毎日寝不足になってしまう。
いや。
それ以前に我慢できなくなるかもしれない。
「天宮は、俺が男だっていうことを忘れていないか?」
「そんなことはありません。ちゃんと覚えていますよ」
「なら、迂闊な発言は謹んでくれ」
「迂闊ではありませんよ?」
そう言う天宮は、どこか小悪魔のようだった。
「進藤君なら酷いことはしないって、確信しているので」
「それは、まあ……」
天宮を泣かせるようなこと。
傷つけるようなことは絶対にしたくない。
したくないのだけど……
好きな女の子と一緒の布団で寝ていたら、どうなるかわからないだろう?
どれだけ無茶はしないと考えていても、我慢できなくなる時が来るかもしれない。
「それに……」
天宮は頬を染めつつ、いたずらっぽい調子で言う。
「そういうことになったら、それはそれで、私は構いませんよ?」
「なっ」
普段、散々恥ずかしがらされていることを根に持っていた様子だ。
天宮は、ぺろっと舌を出す。
「ふふ、また仕返しをしちゃいました」
「……まいった」
将来、天宮はとんでもない大悪魔に育つかもしれない。
その時を想像して、俺は、思わずため息をこぼしてしまうのだった。
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