42話 どうして?
「「いただきます」」
家に帰り、天宮が作ってくれたごはんをいただく。
今日のメニューは、メインがとんかつ。
キャベツの千切りと、トマトとハムのサラダ。
ほうれん草のおひたしに、豆腐の味噌汁。
どれも最高においしくて箸が止まらない。
「ところで……」
こちらを見る天宮は少し頬が赤い。
まだ俺のイメチェンに慣れていないみたいだ。
まあ、それも仕方ないか。
俺も、天宮がイメチェンをしたら、一週間は照れてしまうと思う。
「進藤くんの、それ……」
「それ?」
「その……服とか髪とか」
「ああ、イメチェンのことか」
「どうして、急にそんなことを?」
「あー……」
本当の理由を話したら天宮は気にするかもしれない。
ただ、無理して隠すようなことでもない。
恋人だからといってなんでも話せるわけじゃないし、隠しておきたいことは出てくるだろう。
でも、これくらいの悩みは共有するべきだろう。
そうして色々なことを分け合うことが良いと思う。
「……俺と天宮が釣り合っていないんじゃないか、って」
「え?」
「天宮は才色兼備で、一方の俺は平凡そのもので……そういう噂が流れているみたいなんだ」
「……」
「ただ、俺は負けず嫌いだからさ。そう言われているのなら見返してやろう、釣り合うようになってやろう……って。それで、まずは身だしなみから、って考えたんだよ」
「……っ……」
天宮は据わった目をして、とんかつに箸を突き立てた。
「あ……天宮さん?」
「進藤くんにそんなことを言うなんて……許せません」
「いや、まあ……ただの噂だから」
「それでも、許せないものは許せないです! どこの誰か知りませんが、進藤くんの魅力をちゃんと知っているとは思えません。いえ、まあ、進藤くんの魅力を知っているのは私だけでいいんですけど……」
「ありがとう」
普段は穏やかな天宮が俺のために怒ってくれている。
それは、すごく嬉しいことだった。
「だって、私は進藤くんのことが大好きだから……好きな人をバカにされたら、誰だって怒ります」
「そうやって、誰かのために怒れるところは天宮の良いところだよな。その対象が俺で嬉しいよ」
「だって、私……進藤くんの彼女……ですし」
そこで照れてしまい、口ごもってしまうのは天宮らしい。
「ただ、俺はもう気にしていないから。というか、感謝しているくらいだ」
「そのような噂に?」
「実際、そういう噂が出てきても仕方ないと思うんだ」
天宮は自分を磨いてきた。
その輝きが衰えることのないように、今もずっと努力を続けている。
それに比べて俺はどうだ?
柄じゃないと言い訳をして、なにもしようとしない。
それじゃあ、釣り合わないと言われても当然だ。
「後ろめたいとか卑屈になっているわけじゃなくて……ちゃんと、天宮の隣に立ちたいんだ。釣り合うように、がんばりたいと思う」
「進藤くんは、その……今のままでも、十分に……」
「天宮はそう評価してくれるけど、全員がそう甘いわけじゃないからさ。がんばりたい、って思うんだ。天宮にふさわしい男であるため、恥をかかせないため。まあ……つまらない男のプライドだよな」
「進藤くん……わかりました。なら、私も協力させてください」
「天宮が?」
「男性のおしゃれは、よくわかりませんが……でも、色々と通じるところはあると思うので。一緒に勉強していきましょう」
「ああ、そうだな。よろしく頼む」
天宮の優しさに甘えてばかりなんてダメだ。
俺も、もっともっとがんばらないといけない。
「ただ……」
天宮は恥ずかしそうにしつつ、小さな声で言う。
「その……ほどほどに、と言いますか、段階を踏んで少しずつにしてほしいです」
「どうして?」
「えっと……」
視線を逸らす。
その耳は赤くなっていた。
「これ以上、進藤くんがかっこよくなったら、私……なんていうか、色々と大変なので」
「でも、天宮の可愛さにはぜんぜん及ばないぞ?」
「はぅ」
「でも、なんとなくわかるかも……天宮がこれ以上おしゃれになって、どんどん綺麗になったら、一日中見ているかもしれない」
「あぅ」
「そういう感じなのかな?」
「あ、えと、その……はぃ」
ものすごく恥ずかしそうにしつつ、天宮は小さく頷いた。
「進藤くん」
「うん?」
「……たらしですか?」
「よくわからないけど……天宮専用のたらしになれれば、とは思う」
「そ、そういうところが……もうっ、もうっ」
「いて」
なぜか、ぽかぽかと叩かれてしまうのだった。
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