40話 変身
「そんなわけで、やってきましたショッピングモール!」
満面の笑みを浮かべる七塚は、とても元気に言う。
くるくると回転して、ばっ! と身振り手振りをプラスするなど、やたらテンションが高い。
「元気だな……」
「そりゃもう! 進藤くんからコーディネートをお願いします、なんてお願いをされるとは思ってなかったからねー。腕の見せ所ってものだよ」
「まあ……よろしく頼む」
「任せて!」
頼られることが嬉しいのか、本当に七塚はテンションが高い。
少し不安になるが……
でも、こう見えて彼女のセンスは抜群だ。
そして、常に流行を追いかけている。
任せても大丈夫だろう。
……たぶん。
「ところで、天宮さんには内緒なんだよね?」
「ああ。できれば、びっくりさせたい」
「ふんふん、なるほど……なら、とびきり変身したところを見せてやりましょうか!」
七塚に連れて行かれたのは、リーズナブルな値段のショップだ。
誰もが知っている、アレ。
「こういうところでいいのか?」
「逆に、どういうところだと思ってた?」
「それは……よく知らないけど、ブランド物とか?」
「ブランド物ってデザイン性がものすごく高いから、着こなすのはレベル高いんだよねー。というか、そもそも高いから、あたし達学生には無理」
「確かに」
「だから、こういうところで十分なの。っていうか、良いものはたくさんあるからね。それをちゃんと組み合わせればよし」
勉強になるな。
最初にあった不安は消えて、今は、七塚のことがものすごく頼りになる。
「そんなわけで、まずはコレを着てみよう」
ささっと選んだワンセットを渡された。
「選ぶの早いな」
「わりと考えてるよ? 真司のも見繕ったりしてるから、なんとなく慣れてるんだよねー」
「そういえば、今日、真司は? てっきり、一緒だと思っていたんだけど」
「置いてきた」
「置いてきた、って……」
「いや。あいつ、センスが壊滅的だから。そのくせ、ああした方がいいこうした方がいいって、口出してくるんだもん。邪魔になるの確定だから、置いてきた」
友人の雑な扱いに泣けてきた。
まあ、真司ならいいか。
「それじゃあ、まずはそれで」
「了解」
試着室に入り、渡されたものを着る。
レギュラーカラーのシャツを基本としたコーディネートで、落ち着いた感じだ。
「どうだろう?」
「んー……悪くはないけど、ちょっと落ち着きすぎているかな? なんか、お父さん、って感じが出てる」
「それは……」
微妙な感想だ。
「大丈夫、大丈夫。これで、なんとなくの方向性は掴めたから。これをベースにして、色々と調整していくよ」
七塚はどんどん服を積み重ねていく。
「え……それ、全部試着するのか?」
「そうだけど?」
「……おしゃれって、大変なんだな」
「ふふん、今気づいたの?」
すでに、俺は若干うんざりとしていたのだけど……
七塚は、俺を着せ替え人形にするのが楽しいらしく、満面の笑みだった。
――――――――――
2時間ほどかけて服を購入した。
リーズナブルなショップとはいえ、まとめて数着を買ったため、出費は大きい。
その後、美容室へ。
「服だけじゃなくて、ちゃんと髪も整えないとダメ。むしろ、こっちが本番かな」
七塚は、あらかじめ予約を入れておいたらしい。
なんていうか、行動力がすごい。
脱帽だ。
そうして、美容室で髪を整えてもらい……
その後、買った服を購入して……
「おーっ! いやいや、元々素材は良いと思っていたけど、まさか、これほどとは……」
変身の終わった俺を見て、七塚が満足そうに頷いている。
一方の俺は、彼女の反応を理解することができない。
内緒♪ と七塚にいたずら気味に言われて、まだ鏡を見ていないのだ。
服は見ることができるけど、さすがに自分の顔は無理だ。
珍妙な髪型にされていたらどうしよう?
さすがに、そんないたずらは……いや、七塚ならありえる?
「店員さんが教えてくれていたけど、髪のセットの仕方は覚えた? わかる?」
「まあ、なんとなくは」
「じゃあ、明日からずっとそれで。髪を変えるだけでも、かなり印象が変わるからねー。特に、進藤くんは今まで適当すぎたから。手を加えると、びっくりするくらい変身するよ」
「はぁ……」
そんなことを言われても実感がない。
「よし、ミッションコンプリートだね」
「本当に大丈夫なのか……?」
「大丈夫、大丈夫! じゃあ、お披露目といこうか。天宮さんを呼んでくれる?」
「あ、ああ……」
言われるまま天宮にメッセージを送った。
そして、待つこと10分……
「お、おまたせしましたー!」
マジか。
もうやってくるなんて……
家にいたら、駅前まで30分はかかるはずなのに。
「どうしたのですか、進藤くん? 突然、駅前に来て……ほしい、なんて……」
俺の顔を見たところで、天宮は言葉をなくした。
目を大きくして驚いて、そのまま硬直する。
どういう反応なんだ、これは?
良いものなのか悪いものなのか……
どうしていいかわからず様子を見ていると、
「ふぁ」
天宮は奇妙な声をあげて、ぼんっ、と突然顔を赤くするのだった。
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