35話 姫さまと呼ばれている彼女とワンルームで始める新生活
「不束者ですが、今日からよろしくお願いします」
天宮は、きちんと三指をついて頭を下げた。
その隣に、ダンボール三箱分の荷物。
彼女の着替えや私物、色々なものが詰まっているのだろう。
どうしてこうなった?
「えっと……ここまできておいてなんだけど、本気か?」
「はい、もちろんです」
即答だった。
迷いは欠片もない。
あれから……
俺の冗談を真に受けた天宮は、普段の姿からは想像もできない行動力を見せた。
まずは、自分の両親を説得。
その後、俺の両親に電話で挨拶。
それから荷物の準備をして……今に至る。
「まさか、本当に天宮がやってくるなんて……」
「その……迷惑、でしたか?」
「そんなことはない。そんなことはないけど……」
好きな女の子と一つ屋根の下で暮らす。
そんなことが本当に実現してしまうなんて、普通、思わないだろう?
ましてや、俺はまだ高校生だ。
しかも、部屋はワンルーム。
色々な問題が降りかかりそうで……というか、降りかかってくることは確定で、どんな気持ちでいればいいのやら。
「……まあ、いいか」
気持ちを切り替えよう。
色々と問題はあるかもしれないが……
でも、天宮と別れなくて済む。
それを、まずは喜ぶことにしよう。
「でも、どうして俺の家なんだ? 情けない言い方になるが、俺が天宮の家に行ってもいいんじゃないか?」
「二人だけで、となると、あの家は色々と大変なので……固定資産税もありますし。両親が海外赴任中は、誰かに貸すことにしたんです」
「なるほど」
それで俺の家、というわけか。
とはいえ……
見ての通り、ワンルームだからな。
脱衣所もない。
幸いというべきか、キッチンと部屋を区切る戸はついているが……
それだけ。
問題……多いよな。
「その……ごめんなさい」
「天宮?」
「私、絶対に進藤くんと離れたくなくて、それで、強引だとはわかっていたんですけど、つい……」
「いいさ」
「ふぁ」
天宮の頭に手をやる。
そのまま、犬や猫にするように撫でた。
「俺も、天宮と離れたくないから」
「は、はい……嬉しいです」
「大変なことはあるかもしれないけど、二人でがんばろう」
「はい、がんばります!」
「だから、気にしないでくれ。俺も、天宮と離れたくない。ずっと一緒にいたいから」
「ふぁ!? ずっと!?」
ぼんっ、と天宮の顔が赤くなる。
「進藤くんと、ずっと一緒……ずっと、ずっと……」
「天宮?」
「……ふへ」
いや、待て。
なにを想像しているか、前後の言動でだいたい理解できるのだが……
今、年頃の乙女にあるまじき顔をしているぞ?
「はっ!?」
鏡で見なくても、自分がどういう顔をしているか、俺の反応を見てなんとなく理解したのだろう。
天宮は我に返り、今度は羞恥で耳まで赤くする。
「うぅ……恥ずかしいです」
「気にしなくていいよ」
「でも……進藤くんは、こんな私に幻滅していませんか?」
「まさか」
もう一回、天宮を撫でる。
「どんな天宮だろうと、なんでも可愛いと思う」
「はぅ」
「そして、いつまでも好きだ」
「あぅ」
天宮は顔を赤くしつつ、とろけるような表情に。
この表情は、恋する乙女らしいと言えるのだけど……
外では見せてほしくないな。
俺だけのものにしてしまいたい。
無性に天宮を抱きしめたい衝動に駆られるが……いや、待て。
まだ手を繋いだことしかない。
それなのに抱きしめるなんて、急すぎるのでは?
そもそも、天宮に嫌がられるかもしれない。
なんだかんだ、彼女は恥ずかしがり屋なのだ。
「……とりあえず、荷物を整理するか」
理性で欲望を封印して、そう言った。
――――――――――
「このようなところでしょうか?」
部屋の一角を天宮用のスペースに開けておいて……
そこにホームセンターで売られている収納ボックスなどを使い、天宮の荷物を置いた。
最低限の私物しか持ってきていないらしく、一時間ほどで作業が終わる。
「……」
天宮の私物が部屋にある。
それを見ると、本当に天宮と一緒に暮らすことになったんだな……という実感が湧いてきた。
一方で、やはりこれは夢では? という感覚もある。
矛盾しているのだけど、でも、最愛の彼女と一緒に暮らすなんてこと、あまりに現実感がなさすぎる。
「ふふ」
「どうしたんだ?」
「いえ、その……これから、家でも学校でも進藤くんと一緒なんだなあ……って思うと、嬉しくなって」
「……」
「私、夢だったんです。進藤くんに、おかえりなさい、って言うの」
「……」
「もうすぐ、その夢が叶いそうで……えへへ、すごく嬉しいです」
あー……なんていうか、もう。
なんだ、この可愛すぎる生き物は?
俺を悶え殺すつもりか?
というか……
「……これから、これが毎日か」
色々な意味で、俺は大丈夫なのだろうか?
※34話から再開しました
本日2回目の更新です。
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