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34話 憂鬱

ひとまずの終了から1年近く。

ちょくちょく応援の声をいただいていたので、また書いてみることにしました。

現代ラブコメは楽しいですね。

 6月。

 梅雨の季節に入り、毎日雨が降り続いている。


「……はぁ」


 隣を歩く天宮は、空模様と同じような顔をしていた。

 今日、何度目のため息だろうか?


「天宮」

「……」

「天宮?」

「……」

「どうしたんだ、天宮?」

「ひゃい!?」


 ぽん、と肩を叩くと、びくんと震えた。


 ものすごく驚いているみたいだけど……

 どうやら、俺の声が聞こえないほど深く考え事をしていたらしい。


「えっと……進藤くん? ど、どうしたんですか?」

「それ、俺の台詞。天宮、なんだか様子がおかしいけど……」


 思えば、少し前から様子がおかしい。

 次第にため息が多くなり、元気がなくなり……

 そして今に至る。


「ご、ごめんなさい……私、こんな顔で……うぅ、陰鬱な気分にさせちゃいましたよね。ごめんなさい」

「いや。憂鬱そうな天宮もかわいいと思うが」

「ひゃ!?」


 相変わらず、こういう褒め言葉に慣れないらしく、天宮は照れていた。


「ただ、なにか悩み事でもあるのか?」

「それは……」

「よかったら話してくれないか? 天宮が悩んでいるのなら、なにができるかわからないけど力になりたいし……それに、えっと……俺は彼氏だろう?」

「……進藤くん……」


 天宮の頬が朱色に染まる。 

 どことなく潤んだ瞳でこちらを見る。


 それから、ふにゃりと笑う。


「えへへ……私、幸せ者ですね。こんなに優しくて頼もしい彼氏がいるなんて、世界一の幸せ者です」

「それを言うなら、俺も幸せ者だよ。こんなに可愛い世界一の彼女がいるんだから」

「はぅあぅ……」


 こういう流れになるとわかっているのだから、言わなければいいのに。

 でもまあ、これもまた、彼女の可愛いところだ。


「あの……放課後、お時間をもらってもいいですか? 相談したいことが……」

「ああ、もちろん」

「ありがとうございます」


 天宮は天使のような笑みを浮かべた。


 それから再び顔を赤くして、ちらちらと俺の手を見る。


「そ、それと……手を繋いでもいいですか?」

「今更、断りを入れることじゃないけど……でも、雨だから繋ぎにくくないか?」

「でも、えっと……雨だからこそ、といいますか。雨で冷たくなった手を、進藤くんの手で温めてほしいです……」


 とても照れている様子で、蚊が鳴くような声で言う。


「あ」


 なにも言わず、天宮の手を取る。

 優しく、ガラス細工を扱うように握る。


「ふふ」

「どうして笑うんだ?」

「嬉しいからです。嬉し笑い、というやつですね」

「そんなものがあるのか」

「はい、あるんですよ。進藤くんにだけ向ける、私の特別な笑みです」


 にっこりと笑う天宮は、その呼び名の通り姫のようだった。


 そんな天宮が、なにか悩みを抱えている。

 俺はまだ子供で、できることは少ない。

 それでも、全力で彼女の力になろうと決めた。




――――――――――




「引っ越し!?」


 放課後。

 天宮を家に招いて事情を聞いてみると、予想外の話を聞かされた。


 天宮の父親の海外赴任が決定したらしい。

 栄転で喜ぶべきことなのだけど、しかし、父親が一人というのは心配らしく、母親は一緒に海外へ行くことにしたという。


 ただ、それを天宮に強制するつもりはない。

 とはいえ、なにかと物騒な時制だ。

 一人暮らしをするとなると、それはそれで心配だ。


 どこか信頼のおけるところに預けたいものの、なかなか見つからず……

 海外赴任の日が近づくばかりで、問題は解決していないという。


「もしかしたら、このままだと私も海外へ行くことになるかもしれず……もちろん、そんなことは嫌です。海外が不安とか言葉がわからないとか、そういうのはどうでもいいんです。ただただ、進藤くんと離れるのが嫌で……本当に、嫌なんです。進藤くんが隣にいない生活なんて、考えられません」

「そう……だな。うん、俺も同じ気持ちだ」


 今の時代、遠く離れていてもコミュニケーションを取る方法はいくらでもある。

 電話を始め、ネットを使ったビデオ通話もある。


 でも、温もりを感じることはできない。

 手を繋いで、天宮が隣にいるということを感じ取れない。


 それは、とても寂しいことのような気がした。


「お父さんとお母さんの心配もわかるんです。でも、私は……」

「……そっか」


 まいったな。

 思っていた以上に問題が大きい。

 俺ができる範囲を超えている。


「……」

「……」


 気まずい雰囲気が流れた。


 どうにかしたい。

 でも、どうすることもできない。


 早く大人になりたいとか、そういうことを思うことはなかったものの……

 今は違う。

 彼女を守るだけの力が欲しかった。


「あー……いっそのこと、俺のところに来るか?」


 とにかく、まずは、この重い空気をなんとかしたい。

 そう思い、冗談を口にしてみると……


「それです!!!」

「え?」


 天宮はものすごい勢いで食いついてきた。

※34話から再開しました

 本日1回目の更新です。


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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[良い点] ここから、再度物語が動いたんですね。 さて、ここで妄想の時間となりました。この光景をあのキャラ達がみていたら・・・。 カナデ「うにゃ〜・・・私とレインもアツアツになってやるにゃー!」 イリ…
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