33話 デートの終わり
猫カフェの後は適当にふらふらして、気になるところを見て回る。
一緒に小物を見たり、本を見たり、大したことはしていない。
それでも、天宮と一緒だと、世界が広がるような経験をすることができて、楽しく新鮮な時間を過ごすことができた。
大げさだろうか?
でも、これは本心だ。
「そろそろ日が暮れちゃいますね……」
夕焼けを見る天宮は、どこか寂しそうだ。
「そういえば、天宮の家は門限とかあるのか? まだ大丈夫なら、夕食も一緒したいが……」
「すみません。門限にはまだ余裕はあるんですけど、ウチ、夕飯は家族で一緒に食べるというルールがあって……なにかしら理由があれば問題ないんですけど、今日は、特になにも説明していないので……」
「そっか」
「ごめんなさい……」
「謝ることじゃないだろう? 家族との時間も大事だ」
本音を言えば残念ではあるが、強引に引き止めることはできない。
学生である俺達としては、この辺りで終わりにするのが良い頃合いだろう。
「進藤くん」
「うん?」
「今日は、ありがとうございます!」
ぐいぐいっと迫ってきた。
気圧されつつ、首を傾げる。
「え? なにが?」
「その、あの……デートに付き合ってくれて。すごくうれしかったです。一生の思い出です」
「それは大げさじゃないか?」
「大げさなんかじゃありません! 進藤くんと一日デート……すごく幸せな時間で楽しくて、もう、ずっとずっと思い出の中にしまっておきたいくらいです」
にへら、と笑いつつ、天宮がうれしそうに言う。
ちょっとだらしのない笑み。
かわいいというわけではないし綺麗でもないし、どちらかというと、子供っぽい。
でも、そんな笑顔も、天宮の魅力ではないだろうか?
「進藤くん、今、なにを考えていたんですか?」
「え?」
「笑顔でした。貴重な進藤くんの笑顔です、レアですね」
「笑っていたのか、俺?」
「はい」
「そっか」
天宮と一緒にいると、俺、笑うことができるのか……
なんだか、とても新鮮な気分だ。
自然に笑うことができるなんて、いつ以来だろう?
「天宮のことを考えていた」
「え?」
「天宮の笑顔が魅力的だな、と」
「そ、そうですか……えへへ、そう言ってもらえると、すごくうれしいです」
ちょいと、天宮は俺の耳にそっと顔を寄せる。
そのまま、小さな声で甘くささやいた。
「……私の笑顔は、進藤くん専用ですよ」
「っ」
吐息が触れて、思わずゾクゾクっとなってしまう。
しかも、今の台詞。
なんていう男殺し。
将来、天宮は魔性の女性になるかもしれない。
「じゃあ、そろそろ」
「あ、はい。そうですね」
一歩、後ろに下がる。
天宮も後ろに下がる。
「……」
「……」
あとは、さようなら、とか、またね、なんて口にして別れるだけ。
でも、最後の一言が出てこない。
「……」
「……」
天宮も言葉にできない様子で、じっとこちらを見つめていた。
「……その、なんていうか」
「ああ」
「やっぱり、もう少し一緒にいたいですね」
「そうだな」
「うぅ……きちんとお父さんとお母さんに連絡しておくべきでした。もっともっと、進藤くんと一緒にいたいです。ごはんを食べて、夜の街でデートをして、それから……」
天宮の顔がみるみるうちに赤くなる。
なにを想像したのか?
なんとなく予想はできたものの、さすがに口にはしないでおいた。
「うぅ、一日が四十八時間あればいいのに。そうすれば、もっともっとたくさん、進藤くんとデートできるんですけど」
「そうか?」
「そうですよ! 四十八時間あれば、今の二倍は遊ぶことができて……いえ、やっぱり四十八時間じゃ足りません。七十二時間……いえ、九十六時間は欲しいです!」
「それ、際限なく増えていくヤツだろう」
「そうかもしれません。でも、それくらい……えっと、その……なんていうか、ですね、あの……進藤くんのことが、好きなんです」
両手の指先を絡めて、照れた様子でそんなことを言う。
不意打ちだ。
天宮の仕草と台詞に心を撃ち抜かれてしまう。
「そ、そっか」
「進藤くんは……どうですか?」
「どう、というと?」
「私のこと……す、好きですか?」
「えっと……」
「わくわく」
ぐいぐいと天宮が来る。
その瞳は、期待の色でいっぱいになっていた。
「天宮のことは大事に想っている」
「うー……それじゃあ足りません。ダメです。減点です」
「ダメか」
「進藤くんは、いじわるなんですか?」
そんな顔をされたら、抗うことなんてできない。
具体的にどんな顔をしたのか……
それは、俺の中だけの秘密として、独占することにしよう。
「……俺も好きだ」
「……」
「天宮?」
「はっ!? す、すみません。幸せすぎて、ちょっと気絶していました」
「そっか」
「えへ……えへへ。進藤くんに好き、って……うぅ、幸せです。幸せすぎます。進藤くん! もう一度言ってください。できれば、今度は映画のワンシーンみたいに、甘くとろけるような感じで!」
「無茶な要求をしないでくれ。というか、一回だけで勘弁してくれ」
「もう一回くらい、いいじゃないですか。たった、二文字を口にするだけですよ? 私なら、いつでもどこでも何度でも言えますよ?」
「その割に照れていなかったか?」
「そ、それは……やっぱり、恥ずかしいですし。でもでも、進藤くんが好きという気持ちは私の胸の中にいっぱいあって、いつでも口にしたいというか、伝えてわかってほしいというか……あれ? 私、なにを言っているんでしょう?」
不思議そうにする天宮を見て、笑みがこぼれた。
こんな時間がいつまでも続けばいい。
俺は、そう願うのだった。
ひとまず、これにてアフターは終わりとなります。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
また機会があれば、さらに2部なんかを書ければ、と思っていますが……
それはどうなるかわからず、未定です><




