32話 猫カフェ
たこ焼きを食べたものの、やっぱりというか、少し量が足りない。
なので、続けて店に立ち寄ることにした。
チョイスした店は……
「ふわぁ……か、かわいいです」
店の中に入り、あちらこちらをうろついている猫を見て、天宮が目をキラキラと輝かせた。
猫喫茶を選んでみたのだけど、正解だ。
天宮は喜んでくれているらしく、今日一番の笑顔を浮かべている。
店員に案内された後、俺達は軽食とドリンクを注文する。
ほどなくして注文したメニューが運ばれてきた。
俺はカレーとアイスコーヒー。
天宮はスコーンとジャムのセットに、ミルクティーだ。
「おっ、意外とおいしいな」
「はい、そうですね。でも、なんといってもやっぱり……」
天宮の顔が横に向いた。
その視線の先には、店内を自由に歩き回り、くつろぐ猫の姿が。
伸びをしたり、あくびをしたり。
キャットタワーにジャンプで乗ったり、尻尾をゆらゆらと揺らしつつじっとしたり。
「はぁあああ……かわいいです。猫、かわいいです。かわいい」
天宮の語彙力がちょっと崩壊していた。
確かに、そうなってしまうくらい猫がかわいい。
気持ちはわかる。
たぶん、俺も頬をだらしなく緩めているだろう。
「猫のかわいさって、反則だよな」
「はい、そうなんですよ。気ままにしつつ、寂しいことがあったりした時とかは寄り添ってくれたりして、とても優しいんです。かわいいだけじゃなくて、優しいんです」
「そういえば、天宮は猫を飼っているんだよな」
「はい、ウチの猫も、この店に負けず劣らず、すごくかわいいですよ? ちょっと人見知りするんですけど、家族に対しては甘えん坊で、私に特に懐いてくれているんです。家に帰ると玄関で迎えてくれて、にゃー、って鳴きながらスリスリしてくるんです。あと、あまり構わないでいると、何度も鳴いたりして拗ねたりして……はっ!?」
猫好きトークを連射していたことに気がついたらしく、天宮が恥ずかしそうな顔に。
「す、すみません……私ったら、一人でペラペラと……」
「いや、構わない。好きなものを語る天宮は、かわいいと思う」
「かわっ……!?」
さらに天宮が赤くなる。
シュウウウ、と放熱しているような感じだ。
漫画だとしたら、触れたら、アチッ、となるところだな。
「にゃーん」
ひたすらに照れる天宮を目で愛でていると、一匹の猫が近寄ってきた。
その視線は、天宮のスコーンに向けられている。
「ほしいのかな?」
「かもしれないです。猫って、人の食べるものによく興味を持つので」
「あげてみるか?」
「ダメですよ」
「もしかして、猫には毒になるとか?」
「そういうものもありますけど、スコーンなら大丈夫だと思います。ただ、けっこう甘いので、そういうものを勝手にあげると、食生活が不規則になって太ったりしちゃいます。ほら。お店の張り紙にも、勝手に食べ物をあげないでください、ってありますよね」
言われてみると、そのような張り紙がされていた。
もしも、しつこく狙ってくるようなら、店員を呼んでくださいともある。
「すいません」
「あ……」
店員さんが笑顔でやってきた。
代わりに、天宮が寂しそうな顔に。
「はい、なんでしょうか?」
「そこの子なんですけど、彼女のスコーンを狙っているみたいで……」
「ああ、なるほど。申しわけありません。ミルクは食いしん坊なので」
店員は頭を下げた後、猫を抱っこする。
「ミルクって言うんですね。もしかして、全部の猫に名前が?」
「はい、もちろんですよ。食べ物をあげなければ問題ないので、向こうから接してきた時は優しくしてあげてください。あと、餌をあげたい時は、猫ちゃん用のごはんもメニューにありますので、そちらをどうぞ」
「あ……あぁ……」
ミルクと名付けられた猫を連れて、店員さんは店の奥へ。
それを見た天宮は、絶望的な顔に。
「うぅ……あの子にあーん、ってやりたかったです」
「規則だから仕方ないさ。どうしてもやりたいなら、猫の餌を注文してみるか?」
「あ、はい。それもいいですね」
「その前に、まずは俺達の餌を食べてしまうか」
「ふふっ、そうですね」
俺はカレーを食べて、天宮はスコーンを食べる。
店員さんがすぐにやってきて、空になった食器を下げてくれた。
そのまま、天宮の猫談義を聞きつつ、のんびりと食後のコーヒーを楽しんでいると、
「にゃあ」
「お?」
ぴょん、とジャンプをして、猫が俺の膝の上に乗ってきた。
そのまま、膝の上で丸くなってしまう。
「えっと……」
こちらから無理に抱っこするのはダメだけど、向こうから近寄ってきた分には、特に問題はないんだよな?
店の規則を思い出しつつ、猫の頭から背中をそっと撫でてやる。
「にゃーん」
気持ちよさそうな顔をする猫に、俺の心は一瞬で奪われてしまう。
優しさを心がけつつ、猫の頭を撫でたり、顎の辺りを指先でくすぐる。
「にゃん」
「ははっ、お前、かわいいな」
なんて猫と遊んでいたら、
「むううう……」
天宮が不機嫌そうに唸る。
「どうしたんだ?」
「……別に、なんでもありませんよー。猫ちゃんはかわいいですからね。進藤くんがデレデレしちゃうのも無理はないですけどね。そうですよね、猫ちゃんはかわいいですからねー」
「えっと……もしかして、猫に嫉妬しているのか?」
「あぅ!?」
図星だったらしく、天宮は視線をあちらこちらに泳がせた。
「うぅ……だって、せっかくのデートなのに、進藤くんが猫ばかり……」
「ごめん。天宮をないがしろにするつもりはなかったんだ」
「わかっています。私も、さっきは猫のことを語っちゃいましたし……でも、その……どうしてもモヤモヤしちゃって……うぅ、めんどくさい女でごめんなさい」
「めんどくさいなんてことはない。むしろ、うれしい」
「え?」
「ヤキモチを妬いてくれるっていうことは、それだけ気にしてくれている、っていう証拠だろう? だから、うれしいよ」
「……進藤くん……」
天宮はうれしそうな顔に。
それから、唇に指先を当てて、考えるような仕草をとり、
「にゃ、にゃあ」
なぜか、猫の鳴き真似をした。
「どうしたんだ……?」
「えっと、その……私が猫になって、進藤くんにかわいがってもらえたら、それで全部解決なのかなー……なんてことを思いまして」
「それは……」
「か、かわいがってくださいにゃん♪」
両手の平を頭に当てて、猫耳っぽくして、そう鳴いた。
ついつい、猫になりきっている天宮を甘やかす光景を想像してしまい……
天宮と同じくらい、俺は顔を熱くするのだった。
「まだ続きを読みたい」「むしろ2部を読みたい」
など思って頂けたのなら、☆の評価などで応援していただけると、モチベーションに繋がります。
続きを書くかどうか、迷っているところもあり……
評価、感想、応援をいただければとてもうれしく思います。
よろしくお願いします。




