31話 あつあつ
色々とぎこちないスタートではあったものの、俺達はカラオケを満喫した。
意外といえば意外なのだけど、天宮は歌がちょっと苦手だった。
音痴というわけではないのだけど、ところどころで音程を外したり、ちょこちょことミスをしてしまう。
しかし、一生懸命に楽しそうに歌う姿は、とても微笑ましい。
たまに二人で一緒に歌ったりして……
楽しい時間はあっという間に過ぎて、カラオケを後にした。
「そろそろお昼ですね。ごはんにしませんか?」
「そうするか。天宮は、なにが食べたい?」
「えっと、えっと……」
天宮はキョロキョロと周囲を見渡した。
駅前なので、飲食店はたくさんある。
「あっ、アレがいいです!」
「……たこ焼き?」
「はいっ」
「えっと……本当にたこ焼きでいいのか? パスタとかピザとかじゃなくて、たこ焼き? そもそも、メインで食べるようなものなのか、アレ?」
「女の子はパスタもピザも大好きですけど、たこ焼きも大好きなんですよ」
女の子……謎だ。
まあ、天宮が希望するのなら異論はない。
さっそく店に足を運んで、三人前とお茶を注文した。
昼なので、少し多めの方がいいだろうと判断してのことだ。
飲食スペースがあるので、そこに二人で並んで座る。
「わぁ……おいしそうです」
「シンプルなソースに、ちょっと変わっためんたいマヨ。あと、スープに浸して食べるスープタコ焼き。最近は、色々とあるんだな」
タコ焼き業界、恐るべし。
「「いただきます」」
さっそく食べる。
カリっとした皮を噛むと、中からとろとろの生地があふれてくる。
その中央にぷりっと新鮮なタコがあって、歯ごたえがと魚介の味がたまらない。
ソースもこだわっているみたいで、通常のものよりも甘い。
でも、その甘さが良い感じに旨味を引き出していた。
「おー、コレはうまいな。なあ、天宮?」
「あ、あふっ……ひゃっ、ふあああ、あふあふあふ……ひぅん」
たこ焼きの熱さに悶絶して、天宮は涙目になっていた。
何度も何度もはふはふとして……
ようやく、ごくんと飲み込む。
それから、慌てて冷たいお茶を飲む。
「はぁあああ……熱かったです。火傷しちゃうかと思いました……」
「くっ」
「あ! 進藤くん、笑いましたね? ひどいです、私、真剣に困っていたのに……」
「いや、その……悪い。天宮の反応が、リアクション芸人みたいで、つい……」
「えぇっ、そ、そんな風に思われていたんですか、私」
天宮はショックを受けたような顔に。
さすがに、リアクション芸人と一緒にするのはひどかっただろうか?
でも、ホントそっくりだったからなあ……
「むう」
私、怒っていますよ、というような感じで天宮が頬を膨らませた。
抗議をしているのだろうけど、残念ながら迫力は皆無だ。
むしろ、小動物のような微笑ましさを感じる。
「進藤くん、私、舌を火傷していませんか?」
そんなことを言いつつ、天宮は顔を近づけてくると、れろっと舌を差し出してきた。
「え?」
「熱いれす……見てくらひゃい?」
「いや、それは……」
天宮は舌を出した状態で、顔を差し出してくる。
ともすれば、とあるシーンを連想してしまいそうで……
「えっと……天宮?」
「なんれすか?」
「その……冷静になって、今の自分がどんなことをしているのか、考えた方がいいと思うわけだが」
「え?」
キョトンとして、次いで小首をコテンと傾げる。
未だしっくりこない様子だ。
なので、今の天宮を携帯のカメラで撮る。
それを見せてやると……
「……ーーーっ!?!?!?」
一気に赤くなった。
すぐに舌を引っ込めると、そのまま両手で顔を覆う。
そんな状態で、ぶんぶんぶんと顔を横に振る。
髪がふわりと揺れて、たなびいた。
「えっと……大丈夫か?」
「うぅ……」
「まあ、ちょっとはしたないかもしれないが、かわいいかもしれないし」
「あうあう……」
「あまり気にしなくていいさ」
「気にしますよぉ……」
天宮は泣きそうになっていた。
それくらいショックで恥ずかしいことだったのだろう。
まあ、確かに恥ずかしいよな。
無防備な顔をして、舌を差し出して……
ちょっとエロい。
「あっ、進藤くん、その写真消してください!」
「……消さないとダメか?」
「もちろんです!」
もったいない……
残念に思いつつ、素直にデータを消した。
残しておきたいという気持ちはあったものの、それをしたら、天宮は本気で怒るだろう。
……そういえば、天宮が怒ったところを見たことがないな。
見てみたいと思うものの、あえて彼女の機嫌を損ねるような真似はしたくない。
しても意味がない。
「残念だ」
「もう……私の変な顔を記録して、進藤くんはどうしたいんですか?」
「もちろん、眺める」
「え?」
「夜とか、天宮に会えない時とかに眺めるかな」
「ふぁ」
「そうすると、寂しくなくなりそうだから」
「あうあう……そ、そういうこと言われると、その、あの……すごく照れてしまいます」
「ちょっと狙ってた」
「うぅ……意地悪です」
ぽかぽかと叩かれる。
ネコパンチみたいなもので、大して痛くない。
天宮なりにじゃれているのだろう。
「……どうしても写真が欲しいのなら」
「欲しい」
「そ、即答なんですね」
「そりゃ、欲しいからな」
「うぅ……なら、その……私にも、進藤くんの写真をください」
「俺の? そんなもの、どうするんだ?」
「同じです。進藤くんに会えない夜とか、私も、写真を見て癒やされたいんです。あとはお守り代わりにしたり、携帯の待ち受けにしたり、たまにじっと眺めたり……色々です」
とても楽しそうな顔をしてそんなことを言われてしまうと、俺はどうしたらいいのだろうか?
天宮は、もう少し、自分の言葉や仕草に破壊力があることを自覚してほしい。
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