28話 彼女がグイグイと来る
後日談その2、です。
5話くらい書いてみようかな、と思います。
不定期更新です。
放課後。
いつものように天宮と帰り道を共にしていると、なにか言いたそうな顔でもじもじと。
気になり、問いかけてみると……
「デートがしたいです!」
そんなことを大きな声で言われてしまう。
「あ……ひゃあ、わ、私、こんなところで大胆なことを……」
すぐに自分の発言と周囲に人がいることを思い返して、天宮が赤くなる。
一方で、道行くおばちゃん達は、とても微笑ましそうな顔をしていた。
私にもあんな頃があったのよ、なんていう話も聞こえてくる。
「えっと、あの……ど、どうでしょうか?」
「ああ、うん。もちろん、構わない」
「やった♪」
小さくガッツポーズをして、ぴょんと跳ねて喜びを表現する。
「進藤くんとデート……えへへ、うれしいです」
「そんなに喜ぶことか? デートなら、この前もしたじゃないか」
「ぜんぜん違います!」
ものすごい勢いで否定されてしまう。
そのままの勢いで、天宮は目に力を込めて、力強く言う。
「あの時は、まだ本物じゃありませんでした! でもでも、今は違います。その、えと……進藤くんと、相思相愛に……ふにゅ」
自分で言って自分で照れている。
「と、とにかく、そういうわけなんです!」
「そっか……うん、なんとなくわかるよ」
天宮が言うように、あの頃は付き合っていたけれど、本当は付き合っていないという複雑な状態だ。
その状態のデートを、正しいデートとしてカウントしてよいものか?
せっかく、正式な恋人になったのだから……
その状態で、改めて本当のデートをしたい。
というか、これからは、何度でも何度でもデートをしたい。
「じゃあ、さっそく明日、デートをしようか」
「……明日はイヤです」
「え、どうして?」
「だって、明日は平日じゃないですか。学校があるから、一日中、一緒にいられません。せっかくのデートだから……進藤くんと一日中、ずっと一緒にいたいです」
「そ、そうだな……うん。俺も、そう思う」
「よかった」
「なら、今度の日曜にするか。その日は……うん、予報では晴れだ」
携帯のアプリを起動して、天気予報を確認した。
「はい! あ、でもでも、日曜日が待ち遠しくて、寂しくなりそうです……うぅ、平日は平日で進藤くんと一緒にいたいのに、なんていうジレンマ」
「えっと……」
ストレートに好意を表現してくるというか……
天宮がグイグイと踏み込んでくる。
こんな子だったっけ?
ちょっとしたことで照れたり慌てたり、顔を赤くするところはそのままなのだけど……
こと恋愛に関することは、今まで以上にグイグイと来るようになった気がする。
「天宮、ちょっと変わったか?」
「え? なにがですか?」
「今まで以上にグイグイ来るようになった気がする」
「それは、えっと……」
自覚はあったらしく、天宮がなんとも恥ずかしそうな顔に。
頬を染めて、顔の前で指を合わせて、もじもじと。
その状態で視線をふらふらとさまよわせる。
「言いたくないなら、別に……」
「あ、いえ。そういうわけではないんです。ただ……呆れられないかな、とちょっと不安で」
「そんなことはないと思うぞ?」
「え?」
「俺は、天宮のことが好きだからな。呆れるなんてことは、絶対にない」
「ふぁ」
天宮が惚けたような感じで、こちらをじっと見つめてきた。
その瞳は少し潤んでいて、どことなく熱を帯びていた。
ややあって、ふにゃりと幸せそうに笑う。
「また、好きって言ってもらっちゃいました……幸せです」
「もっと言った方がいいか?」
「は、はい! できることなら、毎日、30回くらいは!」
「それは勘弁してくれ……」
「うぅ……じゃあ、50回でいいです」
「増えているよな!?」
「ふふっ、冗談です」
たくましい子に育ったなあ。
「えっと……それで、私がグイグイいく、という話なんですけど」
「ああ」
「その、えと……後悔したくないな、と思ったんです」
「後悔?」
「進藤くんと恋人のフリをするようになって、私、幸せだけど、ちょっと後悔していたんです」
「えっ、それはどういう?」
「遠回りしないで、最初から告白しておけばよかったかな……って。逃げるような真似をしたから、もどかしい思いを味わって、ちょっと悩んだりもしました」
「……そっか」
「だから、今度はそういうことがないように、その……できる限り、自分に正直であろうと思ったんです」
「その結果が、グイグイいくこと?」
「はい。進藤くんを好きな気持ち、いっぱいいっぱい、ぶつけていきたいと思うんです」
俺が思っていた以上に、天宮は成長しているみたいだ。
最初、あたふたと慌てていた頃が懐かしくもある。
でも……
恋人のフリをしていた頃のことを、失敗と考えるようなことはしないでほしい。
あれはあれで、俺達には必要な時間だったと思う。
「恋人のフリをしていた頃、俺は、楽しくて幸せだった」
「進藤くん?」
「フリをしているからこそ、生まれた時間もあったと思うんだよ。なんていえばいいか、的確な言葉は出てこないんだけど……あの時間があったからこそ、今の俺達がある。だから、後悔とかはしないでほしい」
「……はい!」
晴れやかな笑みを浮かべて、天宮は手を繋いできた。
相変わらずというか、まだまだこういう行為には慣れていないらしく、これだけで顔が赤くなってしまう。
でも、とても良い笑顔を浮かべていて……
幸せそうだ。
俺がその笑みを作る一因になっていると思うと、誇らしげな気持ちになる。
自惚れでなければいいのだが。
「やっぱり私……進藤くんのこと、大好きです」
「ど、どうしたんだよ、いきなり」
「ふふっ、どうしたんでしょうか。私の気持ち、全部、進藤くんに預けたくなったんです」
「……なら、俺は、俺の気持ちを天宮に預けないといけないな」
「ふぁ、そ、それは困るといいますか……」
「イヤなのか?」
「……進藤くんの心を預かるなんてことになったら、私、爆発しちゃいます。胸がドキドキしすぎて、絶対にそうなっちゃいます……」
「なら、なおさら預けないとな」
「うぅ……進藤くん、意地悪ですよぉ」
天宮は拗ねるようにそう言って、唇を尖らせるのだった。
「まだ続きを読みたい」「むしろ2部を読みたい」
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