27話 らしくあろう
後日談、その3です。
ひとまず、これで終了になります。
夜。
適当にテレビを見ているのだけど、中身はまるで頭に入ってこない。
考えるのは、天宮のことだ。
恋人らしくって、どうするべきなのだろうか?
そればかり考えてしまって……
でも、答えを見つけることができなくて、ひたすらに迷う。
「うん?」
携帯が鳴る。
見ると、天宮からだった。
「はい」
「あ……私、天宮といいますが、進藤歩さんの携帯でしょうか?」
「いやいや、俺以外にいないから」
「あっ、そ、そうですよね。私ったら、つい緊張してしまって……」
「緊張?」
「その……こんな時間に進藤くんの声を聞くの、初めてなので……なんていうか、こう……色々とドキドキしてしまいます」
「そ、そっか……うん。俺もドキドキしているよ」
「ふぁ」
「天宮?」
「うぅ……進藤くんはずるいです。そんなことを言われたら、ドキドキがますます強くなって、私、どうにかなっちゃいますよ?」
そんな台詞を紡がれたら、俺の方がどうにかなってしまいそうだ。
「それで、どうかした?」
「えっと……単純に、進藤くんの声が聞きたかったのが一つ」
「こんな声でよければ、いつでも」
「えへへ。進藤くんの声は優しくて甘くて、聞いていると、とろけるような感じで、胸がふわふわってなります」
「優しいかどうかはともかくとして、甘い?」
「はい、とても甘い声ですよ。進藤くんの声は、スイーツみたいで……女の子にとって、とても大好きなものなんです」
天宮の方こそ、とても甘い声だ。
耳にしていると、優しい気持ちでいっぱいになる。
「一つ、って言っていたけど、他に用事が?」
「あ、はい。進藤くんは、明日の放課後は空いていますか?」
――――――――――
翌日の放課後。
「楽しみですね、進藤くん」
「ああ、そうだな」
俺と天宮は、映画館にやってきた。
放課後デート兼正しい恋人の在り方の勉強として、恋愛映画を観ることになったのだ。
「映画、楽しみですね」
「そうだな」
「……はっ!?」
にこにこ笑顔だった天宮だけど、急になにかを思い出した様子で、真面目な顔になる。
「いけません……本来の趣旨を見失うところでした」
「趣旨?」
「今日は、正しい恋人の在り方についての勉強がメインなんです。気を抜いたらいけません!」
「それはそうかもしれないが、そこまで真面目に考えなくてもいいんじゃないか?」
「でも……」
天宮が不安そうな顔に。
飼い主に、置いていかないで、というような犬のような感じで言う。
「ちゃんと真面目に勉強しておかないと、その、あの……わ、別れる……なんていうことに、なりかなねないかもしれませんし……」
その台詞を言うだけで、天宮は死にそうな顔つきになっていた。
彼女には申しわけないのだけど……
言い換えれば、それだけ大事に想ってくれているという証拠で、俺としてはうれしい。
「大丈夫。そんなことにはならないから」
「本当ですか?」
「本当」
「絶対に?」
「絶対」
「うぅ……」
いまいち安心しきれない様子で、天宮は落ち着かない。
こういう時は……
「えっと……よしよし」
「ふぁ!?」
とりあえず、頭を撫でてみた。
気持ちを落ち着かせる方法といえば、抱きしめるのが効果的かもしれないが……
さすがにそれはハードルが高く、頭を撫でるで妥協したみたのだ。
「俺は、天宮のことが好きだ」
「あぅ……わ、私も、進藤くんが好きです」
「だから、別れるなんてことは、1パーセントも考えてないよ。俺が振られない限り、ずっとずっと一緒にいるつもりだ」
「……いつまで、ですか?」
「天宮が望むだけ」
「私、けっこう欲張りですよ?」
「そんな女の子の期待に応えるのも、男の甲斐性だと思うんだ」
「……」
天宮は、ぽけーっとした感じで俺のことを見つめてくる。
その頬は朱色に染まっている。
「どうしたんだ?」
「……進藤くんの台詞に、キュンときちゃいました。えへへ」
「そ、そっか」
照れる。
「あ、そろそろ時間ですね。行きましょう、進藤くん」
「ああ」
俺達は自然に手を繋いで、館内へ移動した。
――――――――――
「うぅ……ぐす、ひっく」
「天宮、泣かないでくれ……くっ」
「そういう進藤くんも、ひっく、泣いているじゃないですか……」
「だって、もう終わりなんて……俺達、始まったばかりなのに……」
天宮はハンカチで涙を拭う。
俺は、手の甲で涙を拭う。
「あの台詞……たまらないですね」
「ああ……たまらない」
映画にすっかり心奪われてしまった俺達は、人目を気にすることなく、ぽろぽろと泣いていた。
もっとも、それは俺達だけではない。
他の客も心を貫かれたらしく、泣いている人が多い。
それほどまでに感動的で、心に深く響く物語だったのだ。
「うぅ……進藤くん、今、こっち見たらダメです」
「え、どうして?」
「だって、私、涙ぼろぼろで……絶対、ダメダメな顔になっていますから」
「そんなことはないって。むしろ、いつもより綺麗なくらいだ」
「ふぇ!?」
「なんていうか、涙に濡れている天宮の顔は、いつもより艷やかというか……ちょっと不思議な魅力がある」
「あうあう」
「それに、感情豊かな女の子は、とても良いと思う」
「ふしゅううう……し、進藤くんは、私を殺す気ですか」
「なんで、そうなるんだ?」
「好きな男の子の褒め言葉は、女の子にとって、最大級にうれしいものなんですよ? 胸がドキドキして、ドキドキしすぎて、どうにかなってしまいそうです……あぅ」
心底照れているらしく、天宮は明後日の方向を向いてしまう。
そんな彼女を見ていると、天宮と一緒にいられることがうれしく思い……
「……あっ」
ふと、気がついた。
そうか、そういうことか。
「あのさ、天宮」
「はい?」
「本物の恋人って、どういう風にすればいいのか、って迷っていたわけだけど……」
「そうですね。どうすればいいか、よくわからなくて……なにか間違えてしまいそうで、なかなか……」
「深く考える必要はないのかもな」
「え?」
キョトンとする天宮に、俺は、俺なりに気がついたことを話す。
「たぶんだけど、恋人らしさって、星の数ほどあると思うんだ。すごく距離の近い恋人、逆に一定の距離を保つ恋人、他人の目を気にしたりしなかったり、毎日一回は声を聞くとか一週間に一度はデートするとか……そんならしさが、人の数だけあると思うんだ」
「それは……」
「だから、あまり深く考えなくていいのかもしれない。いや、意識しすぎる必要がない、って言った方が正しいか?」
「でも……それで、失敗をしたら? ケンカをしたら?」
「その時はその時だな。軽くすれ違っても、盛大にケンカをしても、どちらでもいい。最後には仲直りをして、また仲良くすればいいんだ」
「あ……」
「だから、あまり気にしないで……俺達は、俺達だけの『恋人らしさ』っていうものを探していけばいいんじゃないかな? 焦る必要はないし、ゆっくりと、じっくりと、二人で歩いていけばいい」
「……」
天宮がぽかんとしていた。
「ダメかな?」
「……ううん、そんなことないです。そんな風に考えたことがなくて……でも、とても素敵な考えだと思います」
天宮がはにかむ。
今まで、どこかしら影が潜んでいたのだけど、今はそんなことはない。
雲ひとつない青空のように、とても澄んだ笑みだ。
「私達なら、大丈夫ですよね?」
「ああ、大丈夫だ」
「私、がんばります。進藤くんにふさわしい彼女として。本物の彼女として。いっぱいいっぱい、がんばります」
「俺もがんばるよ。天宮とお似合い、って思われるように、たくさんがんばりたい」
これが、俺達なりの答え。
正しいかどうか、それはわからないけど……
天宮が笑顔になっているのだから、それでよしとしよう。
なによりも、彼女の笑顔が大事なのだから。
「進藤くん」
「うん?」
「……大好きです♪」
久しぶりに書いてみましたが、どうでしょうか?
半年以上空いているため、当時を思い出しながら書いてみましたが、現代恋愛ものは楽しいですね。
ひとまず、これにて終了となりますが……
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