26話 本当の彼氏彼女とは?
後日談、その2です。
ぎこちないランチタイムは終わり、午後の授業へ。
五限目は古文の授業なので、ひたすらに眠い。
クラスの半数近くが撃沈していた。
六限目は体育。
天宮のクラスと合同授業なら、良いところを見せようと張り切るのだけど、残念ながら今日は違う。
やる気が出るわけもなくて、適当に過ごした。
そして、ようやく放課後が訪れた。
ショートホームルームを終えると同時、鞄を手に取り、教室を出る。
そのまま天宮のクラスへ……
「あっ」
ちょうど良いタイミングで、天宮が教室から出てきた。
こちらを見つけると、ふにゃりと柔らかい笑顔を見せる。
「進藤くんです」
犬が懐いてくるような感じで、タタタ、と天宮が駆け寄ってきた。
しかし、手前でコテン、とコケてしまう。
「あ、天宮!?」
「うぅ……」
「大丈夫か? 怪我はしていないか?」
慌てて助けた。
「痛いです……」
「いきなり走るから」
「すみませんん。進藤くんにずっと会いたいな、って思っていて、それで会えたから、すごくすごくうれしくなって、つい」
寂しがり屋のわんこか。
「昼休み、一緒にごはんを食べただろう?」
「そうなんですけど……でもでも、私は、ずっと進藤くんと一緒にいたいんです。できれば、隣の席で授業を受けて、その横顔をチラリチラリと見て、時々、ひらひらと手を振り合ったりして……そ、そんなことがしたいんです」
話しているうちに恥ずかしくなってきたらしく、天宮の顔が、痛みの赤から羞恥の赤に変わる。
「ご、ごめんなさい……いきなりこんなこと」
「いや、わかる」
「え?」
「俺も、同じようなことを考えていたから。やっぱり、天宮と違うクラスなのは寂しいよな」
「……進藤くん……」
同じことを考えていたというのは、うれしい。
気持ちが繋がっているみたいで、恋人らしいと思う。
「あ……」
って、ここは教室の前。
あちらこちらから好奇や嫉妬の視線が飛んでくることに気がついた。
「いくか」
「はい」
天宮の手を取り、そのまま下校する。
「……」
「……」
ややもどかしい沈黙。
この前までは色々なことを話していたのだけど、今は、なぜか言葉が出てこない。
イヤな雰囲気というわけではないし、天宮と一緒に過ごす時間は、例え言葉がないとしても楽しい。
ただ、ちょっと寂しいというところはあり……
それは、天宮も多少は思うところがあるらしく……
互いになんともいえない顔をしていた。
「進藤くん」
「うん?」
「あの、こんなことを聞くのもなんですけど……私、ちゃんと彼女をやれていますか?」
「それは、どういう?」
「えっと……その、なんていうか……私達、本物の彼氏彼女になりましたよね? えへへ」
自分で言い、照れて喜ぶ。
そんな反応が微笑ましいのだけど、笑顔はすぐに曇ってしまう。
不機嫌でも不安でもなくて、迷い。
そういう感情を顔に貼り付けて、天宮は小首を傾げる。
「なんていうか、うまく言葉にできないんですけど……私、ちゃんと彼女をやれているでしょうか?」
「ああ……うん。天宮の言いたいこと、なんとなくだけどわかるよ。俺も、その不安はある」
「進藤くんもですか?」
「ずっとフリをしてきたからさ。なんていうか、他人の目ばかりが気になって、本来の自分達がどうあるべきなのかを忘れていて……あー、うまく言葉にできないな」
「いえ、わかります。すごくわかります!」
「ぐいぐいと来るな……」
「フリをすることなら、たぶん、問題ないと思うんです。ちょっとぎこちないところもあったかもしれないですけど、でもでも、バレたことはないですし……うまくやれていたんだと思います。でも、いざ本物となると……」
「どういう風にするのが正解なのか、わからない?」
「はい、それです」
どうすればいいのだろう?
というような感じで、俺と天宮は揃ってため息をこぼす。
今まで恋人のフリをしてきたため……
いざ本物になると、どういう風にすることが正しい恋人の在り方なのか、それがわからない。
俺達は、きちんと恋人をやれているのだろうか?
もしかしたら、おかしな形となっていて、歪んでいるのかもしれない。
そうだとしたら、最悪、別れるという形に……
「うぅ……進藤くん、不甲斐ない彼女ですみません」
「謝ることじゃないって。というか、俺も答えがわからないでいるし……不甲斐ない彼氏ですまない」
どうすればいいのか?
どうするべきなのか?
答えが見つからなくて、迷う。
先が見えないことに、不安を覚える。
彼氏彼女になれたことで、ものすごく浮かれていたのだけど……
それは、勘違いだったのかもしれないな。
彼氏彼女になれたことはゴールではなくて、スタート地点。
少し大げさな言い方かもしれないが、本当の試練はここからだ。
「彼氏彼女って、難しいな……」
「そうですね……」
俺達は揃って空を見上げるのだった。




