24話 本物になっても、彼女がやたら本気な件について
翌朝。
家を出て少ししたところに、天宮の姿が。
「おはようございます、進藤くん」
「おはよう、天宮」
天宮の笑顔で一日が始まる。
……いや、それは言いすぎかもしれない。
別に天宮と一緒に寝ていたわけじゃないし、今日一番最初に見たものは、天井を歩いていた小さなクモだ。
今起きたわけじゃないのだけど……
なんていうか、こう、天宮の笑顔ばかり見てきたせいか、この笑顔で一日がスタートするという感覚が染み付いているんだよな。
「進藤くん?」
「あ、いや。なんでもないよ。行こうか」
「はい!」
天宮はうれしそうに微笑み、俺の隣に並ぶ。
そして、一緒に学校へ。
「えっと……」
天宮がちらちらとこちらを見てきた。
俺の顔と手、交互に見ている。
「あのっ」
「うん?」
「て、手を繋いでもいいですか!?」
「もちろん」
俺は手を差し出しつつ、
「というか、それくらいのこと、いちいち聞かなくてもいいよ。俺たちは、恋人なんだから」
そんなことを言う。
天宮が赤くなり、照れた。
「そ、そうですよね……私たち、恋人なんですよね……えへへ」
とてもうれしそうな顔をするものだから、たまらない。
抱きしめて、キスしたいくらいだ。
いや。
まだそこまでしたわけじゃないから、そんなことはできないのだけど。
でも、いつか……
「えいっ」
かわいらしい掛け声と共に、天宮が手を繋いできた。
いや、これは……
「これって、その……恋人繋ぎ、っていうんですよね?」
指と指を絡めるようにして、手を繋いできた。
「はぅ……」
ものすごく照れている。
耳まで赤くしていて、まるでりんごだ。
目を合わせられない様子で、視線はわずかに下へ。
しかし、繋いだ手は離さない。
絶対に離してたまるものかというように、指に力を込めてくる。
「その、あの……本当の彼氏彼女ですし……こうしても、いいですよね?」
「あ、ああ……いいと、思う」
「……やった」
小さな声で喜ぶ天宮。
なんというか、小動物みたいに愛らしい。
「今日は、その……このまま教室まで一緒してもいいですか?」
「え、教室まで?」
「はい。進藤くんと、こうしていたいです」
「えっと……でも、俺たち、違うクラスだよな?」
「私が進藤くんのクラスまで行って、お見送りします。それから、いってらっしゃい、って言ってほしいです」
「それは、また……」
クラスメイトの前でやるんだよな?
すさまじく恥ずかしいことなんだけど……
「ダメ……ですか?」
「……いいよ」
上目遣いなんて、反則だろう……
断るなんてできないから……
以前から、天宮のことはかわいいと思っていた。
姫と呼ばれるのにふさわしい美少女だと思っていた。
しかし、なぜだろうか?
今日の天宮は、今まで以上に輝いているように見えた。
昨日までの天宮がノーマル天宮だとしたら、今日の天宮はスーパー天宮だ。
かわいさ120パーセントアップ。
破壊力は抜群だ!
……なにを言っているんだ、俺は?
「やった、うれしいです」
「うん、まあ……俺もうれしいよ」
「毎日、こうしていきましょうね」
「え、毎日なの?」
「はい、もちろんです!」
ふんす、と気合をいれる天宮。
「やけに積極的だな……」
「そうですか? 私は、特に変わっていないと思うんですけど……でも、変わっているとしたら、それは、進藤くんのせいです」
「俺の?」
なんで?
「だって……私を、本物の彼女にしてくれましたから」
「……」
「知っていますか? 恋する女の子は、好きな男の子のためになんでもしてあげたいんですよ」
「それは……」
「あと、心をつなぎとめておくために、精一杯、アピールするんです」
そういうもの……なのか?
そこら辺はよくわからないので、なんとも言えない。
ただ、今の天宮を見ると、説得力は抜群だった。
「付き合うようになってわかったことがある」
「なんですか?」
「天宮って……けっこう積極的なんだな」
「……」
天宮はキョトンとして、
「ふふっ」
小さく笑う。
ちょっといたずらっぽい、子供のような笑みだ。
天宮は俺と手を繋ぎつつ……
人差し指を唇に当てて、パチリとウィンク。
「恋する女の子は、どこまでも積極的になれるんですよ」
これにて完結となります。
久しぶりに現代恋愛ものを書いてみましたが、いかがでしょうか?
楽しでもらえたのなら、うれしいです。
お付き合いいただき、ありがとうございます。




