23話 本物へ
「……」
「天宮?」
返事はなくて……
天宮は、ぽけーっとしていた。
「天宮? おーい」
もう一度声をかけてみるものの、やはり反応がない。
顔の前で手をひらひらしても、やっぱり反応がない。
なんだ?
パソコンみたいにフリーズした?
「……はっ!?」
ややあって、天宮が再起動した。
ピクッと跳ねて、こちらを見る。
その顔は……
みるみるうちに赤くなる。
「あっ、あのあのあの、い、いいい、今……ななな、なんて!?」
「天宮のことが好きだ、って」
「すっ!?」
慌てている人を見ると、逆にこちらは冷静になれる。
そんなことを今、実演していた。
「えっと、いえ、その、あの、ふぇ……」
あまみや は こんらんしている。
「えっと……ひとまず、お茶を飲んで落ち着いた方がいいんじゃないか?」
「は、はひっ」
天宮はお茶を口に運び、
「ごほっ、けほっ」
盛大にむせていた。
そうだよな。
慌てている状況でお茶なんて飲んだら、高確率でこうなるよな。
今のは俺が悪い。
「落ち着いてくれ……っていうのは、無理な話か」
「む、無理ですよぉ……だってだって、進藤くんが私のことを、す、すすす……好き……って……」
「うん、好きだ」
「あぅ!?」
この際、何度も言わないと伝わらないような気がして……
好きという言葉を重ねていく。
最初はやたらと照れて、恥ずかしく思った。
ただ、ここまできたら逆に吹っ切れてきた。
「天宮のことが好きだ。フリじゃなくて、本物の彼氏彼女になってほしい」
「そ、それは……」
「ダメか?」
「えっと、その……ダメなんていうことは、でも……」
ちらりと、天宮がこちらを見る。
親に叱られている子供が、こっそりと顔色をうかがうような仕草だ。
「私……ですよ?」
「え?」
「どんくさくて、ビクビクしてて、かわいげがなくて……そんな私のこと、なんで好きに……」
そういう卑屈な姿勢さえ輝いて見えるほど、かわいいから。
……なんてことを口にしても、信じてもらえるかわからない。
天宮は臆病というか、自分に自信を持てていない感じがあるからな。
まあ、それは俺も同じではあるが……
だからこそ、天宮の気持ちがわかる。
どうすればいいか、対処法がわかる。
「天宮の全部が好きだ」
「はぅ……!?」
「たまらなくかわいいと思う。俺にとって、一番の女の子だ」
「あぅ……!?」
「だから、彼女になってください」
ありったけの好意を伝える。
そして、俺の気持ちを信じてもらう。
それが最善の方法だ。
「あの、その……実は、私も……」
もじもじとしつつ、天宮が言葉を紡ぐ。
それは、天宮の精一杯の心の表現だ。
「フリをお願いした時は、困っていたのもあるんですけど……でも、それだけじゃなくて……」
「うん」
「進藤くんと恋人になりたいなあ、っていう……が、願望がありまして……」
「うん」
「それを体験してみたいな、という……そんな打算もありまして……」
「うん」
たどたどしいながらも想いを伝えようとしてくれる天宮のことが、とても愛しい。
できることなら抱きしめたい。
それから、もう一度好きと伝えたい。
でも、今は我慢だ。
天宮の言葉を、しっかりと聞かないと。
「こんなことを考える私で……いいんですか?」
「天宮がいい」
「私、嫉妬深いですよ……? それでも、いいんですか?」
「天宮がいい」
「それだけじゃなくて、たくさん甘えて迷惑かけちゃうタイプです。それでも、いいんですか?」
「天宮がいい」
何度も何度も、天宮を求めていることを伝える。
そうすることで、安心してもらいたい。
「えっと……」
天宮は迷うように、視線をあちらこちらに泳がせた。
いや。
迷うというよりは、恥ずかしがっているという感じか。
頬を染めていて、瞳はわずかに潤んでいる。
どんな言葉を口にしたらいいか、必死になって考えているみたいだ。
でも、そこまで深く考える必要はないと思う。
だって、俺なんてただ一言「好きだ」だからな。
情緒もなにもない。
そんな大したことのない告白。
でも、そんなものでいいと思う。
想いが伝われば、それでいい。
それだけで十分なんだ。
だから、天宮も……
「……あの、進藤くん」
それなりの間を置いて、天宮はこちらを見た。
まっすぐに俺の目を見て、顔を赤くしつつ、口を開く。
「ふ、不束者ですが、よろしくおねがいします……!」
「ああ、よろしく」
こうして、俺たちは本物の彼氏彼女になった。




