21話 大事な思い出
「そう……なのか?」
やはり、俺と天宮は以前に会ったことがあるみたいだ。
しかし、俺はまったく記憶にない。
母さんに聞いても、なにも知らないという。
それはなぜなのか……?
「進藤くんが覚えていなくても、仕方ないと思います。ほんの少し、言葉を交わしただけ……たぶん、時間にしたら10分もないと思いますから」
「確か……迷子のところを助けたとか、そんな話だったと思うんだけど」
「はい、その通りですよ。私、すごく小さい頃に、一度だけこの街に来たことがあって……その時に迷子になったんです」
「すごく小さいって、どれくらい?」
「小学校に入る前だから、5歳の時ですね」
「10年くらい前のことか……」
そんなにも前に天宮に会ったことがあるなんて……
正直、まったく覚えていない。
「ホント、大したことじゃないんですよ? だから、わざわざ言う必要もないかな、って思って……すみません。隠しているつもりはなかったんです」
「いや、別に怒っているわけじゃないから。ただ、どういうことなのかな、って気になって……よかったら、具体的に教えてくれないか?」
「はい。といっても、ホントに大したことはなくて……10年前のあの日、私はこの街に遊びに来ていました。お父さんとお母さんの知り合いがこの街にいて、その関係で……という感じです」
「なるほど」
「私は、自分で言うのもなんですけど、当時はけっこうやんちゃで……新しいところに行くと、すぐに探検などをしていました」
「それで……迷子になった?」
「はい、恥ずかしい話ですけど……」
本当に恥ずかしそうにしつつ、天宮が言う。
「活発な天宮……それはそれで見てみたいな」
「ふぇ?」
「あ、いや。すまない。つい、本音が」
「ほ、本音なんですか……」
「ああ、その……本音だ」
「……」
「……」
俺が妙なことを口走ってしまったせいで、これまた妙な空気に!?
「えっと……そ、それで?」
やや強引ではあるが、話を軌道修正した。
天宮もそれに乗っかる。
「迷子になった私は……実は、それほど気にしていませんでした」
「うん? どういうことだ?」
「当時の私は、ホント、無茶をしていて……男勝りというか、男の子みたいで……両親も手を焼いていました。なにしろ……迷子になっても、これはこれで新しい体験だから楽しい! なんて開き直る性格でしたから」
「うわあ……」
思わず、そんなつぶやきを漏らしてしまう。
ひどい反応だと自分でも思うのだけど、ついつい、そう言ってしまう。
だって、仕方ないだろう?
迷子になったことを開き直る子供なんて、なかなかいない。
というか、そんな子供がいるなんて、初めて聞いたぞ。
「私は気にすることなく探検を楽しんで……そんな時、進藤くんに出会ったんです」
「俺に?」
「進藤くんは、私が迷子だということにすぐ気づいて、家まで送ってくれようとしました。ただ、その……当時の私は……ああもう、ホント、当時の私をしかりたいです……」
「ど、どうした!?」
「その……当時の私は、探検の邪魔をするな、って……進藤くんを追い払おうとしたんです」
それはまた……
なんていうか、コメントにものすごく困る。
「それで……私は、怒られました」
「もしかしなくても、俺が怒った……?」
「はい。迷子になっているくせにバカなことを言っているんじゃない……って」
昔の俺、なにをやっているんだ……
相手は女の子なんだから、もっと言い方ってものがあるだろうに。
天宮と同じように、昔の自分を恥じて悶えてしまう。
ただ、天宮は、昔の俺の行動を恥ずかしいことと思っていない様子で……
どこか興奮気味に、誇るような感じで言う。
「私、すごくうれしかったんです!」
「うれしかった……?」
「昔の私は、本当におてんばで、男の子にしか見えませんでしたから……だから、特に心配されることもなかったんです。少しやんちゃしても、あの子なら平気だろう、って」
「それは……あるかもしれないな」
初めて無茶をすれば、それは確実に心配されるが……
何度も繰り返していたら、そのうち、危機意識が麻痺してしまうだろう。
まずい方向で慣れてしまうのだ。
「だから、進藤くんに怒られた時は、とても新鮮で……あと、こんな私でも心配してくれるんだ、女の子扱いしてくれるんだ、っていう気持ちになって……なんていうか、うまくいえないんですけど、私は女の子なんだなあ、っていうことを強く意識しました」
「そうだったのか……なら、結果オーライなのか?」
「とてもオーライです」
ちょっと日本語が崩壊しているような気がして……
俺たちは、互いにくすりと笑う。
「あの日から、私は女の子であることを強く意識するようになって……それで、女の子らしくありたいとがんばるようになりました。進藤くんと再会した時に、かわいいね、って言ってもらいたくて」
「なるほど……ん?」
天宮の話を聞いて、色々と理解した。
10年前……しかも、10分の間だけ。
あと、そもそもの話……
当時の天宮は、男の子みたいな格好をしていたという。
それなら、俺が勘違いしていたのだろう。
覚えていないのも納得だ。
ただ……
天宮は、どうして俺のことを覚えていたのだろう?
「昔の俺、名乗ったりしたのか?」
「いいえ、なにも」
「それなら、なんで俺のことがわかったんだ?」
「わかりますよ」
天宮は笑顔で断言する。
「どれだけの時間が経っても、どれだけ短い間だったとしても……私が進藤くんのことを忘れるはずがありません」
「でも、名前も知らなかったんだろう?」
「はい。でも、顔は覚えていました」
「10年経っていたら、忘れそうなものだけど……」
「私は覚えていましたよ?」
にっこりと笑いつつ、天宮は言葉を続ける。
「進藤くんの声、進藤くんの顔、進藤くんの雰囲気……10年経っても、ずっと覚えていました。ずっと探していました。だから、この街に戻ってきました」
「え? それじゃあ、転校は……」
「はい。お父さんとお母さんに無理を言って、お願いしました。この街に戻れば、きっと再会できる、と思って」
「無茶をするな……」
俺と再会できる確率なんて、何パーセントだろうか?
ガチャでSSRを引くよりも低いんじゃないだろうか?
そんな小さな確率に賭けるなんて……
いや。
だからこそ、天宮らしいと言えるのか?
昔のおてんばな心は、一部、そのままで……
時折、無鉄砲な行動に出る。
また一つ、天宮の新しい一面を発見した。
「でも、よく俺だってわかったよな。俺は、まったく気づかなかったのに」
「わかりますよ」
天宮は優しく笑いながら言う。
「女の子は、初恋の人を間違えたりなんてしないんですよ?」
ついついという感じで、そんな台詞を口にして、
「……あっ!?」
次いで、天宮は顔を赤く染めた。




