表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/69

2話 ニセの彼氏彼女

「悪い、待たせた」


 10分ほどでショートホームルームが終わり、鞄を手にして、俺は急いで廊下へ。

 それから、壁に寄りかかり俺を待つ天宮に声をかけた。


「あっ、進藤くん!」


 俺を見ると、ソワソワした様子の天宮は、一気に満面の笑顔に。

 そのまま、トテトテと駆け寄ってくる。


 なんとなく、甘えん坊なわんこを連想した。

 もしも天宮に尻尾が生えていたら、ぶんぶんと左右に揺れていただろう。


「ぜんぜん待っていませんよ。だから、気にしないでください」

「そうか? でも、10分くらいはかかったような……」

「確かにそうなんですけど……でもでも、ちょっとしたデート気分でしたから、待っているのも楽しかったですよ」

「デート気分? え、どういうこと?」

「今日の放課後は、街を案内してくれるんですよね?」

「そうだな」

「だから、これはデートの待ち合わせと言っても過言ではないと思うんです」


 過言のような気がするが……うーん、どうなんだろうか?


「だから、待っている間も楽しかったです。デートって、そういうものですよね?」

「えっと……まあ、退屈していないならよかったよ」


 天宮は、わりとポジティブ思考なのかもしれない。

 俺だったら、こうは考えられないからな。


 そんな天宮の前向きなところは、俺も見習いたいと思う。


「それじゃあ、行こうか」

「あ、えと……」


 一歩歩き出したところで、天宮が戸惑うような声をこぼす。

 何事かと振り返ると、ちらちらと俺の手と自分の手を見ていた。


 はて、どうしたのだろうか?


「あ、あの……進藤くん。その……」

「うん、どうしたんだ?」

「私たち、お付き合いしていますよね?」

「そう、だな」


 軽く言いよどんでしまったのは、とある事情があるからだ。


「なら、その……手を繋ぎたいです……進藤くんの温もりを、私に分けてほしいです……」


 天宮は耳まで赤くして、そんないじらしいことを言う。


 手を繋ぐどころじゃなくて、そのまま抱きしめてしまいそうになるが……

 いかん。

 暴走するな、俺。


 天宮は俺を信じて彼女をやっているんだ。

 その信頼、期待を裏切るわけにはいかない。


「……じゃあ、手を繋ごうか」


 心を落ち着かせた後、天宮に手を差し出した。

 途端に、ぱぁっと顔が明るくなる。

 ホント、わんこみたいだ。


「え、えっと……それじゃあ、その……し、失礼しますね」


 ガチガチに緊張しつつ、天宮がそっと俺の手を握る。

 手を繋ぎたいと言い出したのは天宮なのだけど……

 それでも緊張してしまうものなのだろうか?


 この辺りは、女の子特有の機微というヤツだろう。

 たぶん。


「んっ」


 決意するような声と共に、天宮はそっと手を繋いできた。

 ……繋いだ?


 いや、まて。

 これは、手を繋いだというのだろうか?


 天宮は、ただ俺の手に自分の手を重ねているだけで……

 きちんと握っていない。

 ただ、触れ合わせているだけだ。


「なあ、天宮」

「は、はひゅっ……な、なんでしゅかっ、しんろーくん!?」


 なぜか、天宮はものすごくテンパっていた。

 おもいきり噛んでいる。


 とりあえず、そのことは指摘しないで、スルーしておく。


「果たしてこれは、手を繋いでいると言えるのだろうか?」

「つ、繋いでいると思います! バッチリです!」

「そう……か?」

「え……進藤くんは、違う意見なんですか?」

「いや、その……俺、恋愛経験が豊富っていうわけじゃないから、絶対と強く言うことはできないが……これは手を繋いでいるわけじゃなくて、ただ単に、触れ合っているだけだと思うぞ」

「そ、そんなっ……!?」


 ガーンと、なにやらショックを受けた様子だ。


「え、えっと……えっと……えとえと、それじゃあ、どうすれば……?」

「こうすればいいんじゃないか?」


 天宮の手を握る。

 女の子って、とても繊細なイメージがあるから、軽く触れる程度に優しくしておいた。


 うん、これでよし。

 これなら、手を握っていると言えるだろう。


「これでどうだろう?」

「……」

「これこそが、手を繋いで帰る、ということだと思うぞ。まあ、俺の恋愛観も古いから、完璧に正しいとは言えないが」

「……」

「天宮?」

「……」


 天宮は人形のように全身を固まらせていた。

 ほどなくして……


「きゅぅ……」

「天宮!?」


 顔を火照らせて、目をグルグルと回して、天宮はその場で倒れてしまった。




――――――――――




「す、すみませんでした……」


 学校の帰り道。

 隣を歩く天宮は、ひたすらにもうしわけなさそうにしていた。


「まさか、その……手を繋ぐことが、あんなにも恥ずかしいことだったなんて、思いもよらなくて……」


 そう……天宮は、羞恥のあまり倒れてしまったのだ。

 手を繋いだだけなんだけど……それでも、天宮にとってはかなりの衝撃だったらしい。


「天宮って、恋愛慣れしていないのか?」

「は、はい……恥ずかしながら。うぅ……すみません」

「別に謝ることないさ。俺も、今まで彼女できたことないし……恋愛初心者同士、一緒にがんばっていこう」

「は、はい! そうですねっ」


 ちなみに、今は手を繋いでいない。

 今はレベルが高いということで、いつか慣れるまでお預け、ということになった。


「でも、手を繋いだだけであんな風になるっていうのは、さすがに珍しいかもな。俺も初めて見たよ」

「もう……進藤くん、いじわるです……」


 子供が拗ねるような感じで、天宮は頬を膨らませた。

 それから、小さな声でなにかをつぶやく。


「……第一……私があんな風になるのは、進藤くんだけですよ……」

「うん? 今、俺がどうのこうの、って……」

「い、いえっ、なんでもありません。なんでもないですよ?」

「えっと……わかった。なんでもないんだな」


 なにか隠しておきたいことなのだろう。

 無理に追求するのも悪いかと思い、聞こえなかったことにした。


「うーん、それにしても……」

「ど、どうしたんですか……?」


 悩ましげな声をこぼすと、天宮が不安そうな顔になる。


「あの、その……もしかして、私に愛想を尽かしてしまった、とか……?」

「いやいや、そんなことはないよ」

「よ、良かったです……進藤くんに嫌われたら、生きていけないところでした」


 大げさだなあ。

 とは思うものの、微妙に本気っぽいところもあり、なんとも言えない。


「ちょっと、思ったんだよ」

「なにをですか?」

「俺たち、もっと恋愛に慣れておかないと……恋人らしくしないといけないんじゃないか、って。そうしないと、本当のことがバレてしまうかもしれない」

「それは……」


 天宮がなんともいえない複雑な顔になる。

 ちらりとこちらを見て……

 それから、小さな声で言う。


「そうですね……私たち、ニセの彼氏彼女ですからね」


 そうなのだ。

 俺と天宮は本気で付き合っているわけではなくて、いわば、フェイクの関係。


 なぜ、そんなややこしい事態になっているのか?

 そのことを説明しよう。


 あれは、そう……

 今からちょうど一週間前のことだ。

一日一回、12時の更新になります。

多少は続けてみようと思います。


『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

ブクマや評価をしていただけると、とても励みになります。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[良い点] 何これヒロイン可愛すぎ [一言] ここまで露骨に照れたり喜んだりしてるなら気づいていいと思うんだけど…やっぱり鈍感系主人公はこうなるのか。まぁ主人公じゃないから言えるけど、こういう時は勘違…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ