17話 決意
「あ、母さん? 歩だけどさ……え? そこは俺だよ、って言いなさい? そうじゃないと、詐欺でしょう、ってボケられないじゃない? いや、なにを言っているんだ……わけのわからないことを言わないでくれ」
料理を食べて、天宮を送った後……
俺は母さんに電話をかけていた。
父さんと母さんは共働きで、同じ職場で働いている。
非常に忙しい仕事で、数ヶ月毎に各地を転々としている。
中学までは一緒についていったんだけど……
高校への進学を機に、一人暮らしをしたいと言った。
俺を連れ回すことに罪悪感を得ていたらしく、父さんと母さんは多少心配そうにしながらも、最終的に了承。
こうして、俺は一人暮らしをすることになった、というわけだ。
「最近、そっちはどう? 俺? 俺は……まあ、特に問題はないよ。普通の学生生活を送っている」
天宮のことは、まだ父さんと母さんには秘密にしている。
恋人のフリをしているとか、ややこしいことのこの上ないからな。
それに、質問の嵐をぶつけられることが目に見えている。
なので、今は秘密だ。
「そっか。母さんの方も問題はないか。父さんは、ちょっと目を離すと徹夜しそうなくらいワーカーホリックだからな。母さんがきちんと世話を……え? それくらいわかっている? まあ、そうか。俺が言うようなことじゃないな」
週に一度くらいの割合で、父さん、もしくは母さんと電話で話をしている。
話の内容は、なんてことのない雑談。
それと、近況報告だ。
今回もその類なのだけど……
一つ、確認したいことがあった。
「ところで、ちょっと母さんに聞きたいことがあるんだけど……母さんの把握している範囲で答えてもらって構わないんだけど。俺……昔、仲良くしていた女の子とかいたっけ? いやいや、そういうのじゃなくて、子供が一緒に遊ぶような感じで……幼稚園から小学生くらいの間の話で」
そんな子、いないと思うわよ。
それが、母さんの答えだった。
母さん曰く……
幼い頃の俺は男友達がほとんどで、女の子と遊んだことはほぼないらしい。
母さんの見えないところで、女の子と遊んでいたという可能性はあるが……
ただその場合、ごはんの時などに報告をしてくるはずだ、とのこと。
当時の俺は、なんでもかんでも、その日にあったことを母さんに報告していたという。
しかし、女の子の話が出てきたことはない。
故に、女の子の知り合いはおらず、将来を心配していたとか。
ほっとけ。
って、母さんの心配はどうでもいい。
「そっか……いや、なんでもない。ただちょっと、気になっただけ。うん、うん……じゃあ、また。元気で」
話が終わり、通話を終えた。
暗転する携帯の画面。
それを見つつ、俺はポツリと呟く。
「それじゃあ……あの時の天宮の話は、いったい……?」
謎だ。
あの時の天宮の話は、誰を指していたのだろうか?
本当に俺?
あるいは……別人?
もしくは、本当に些細なやりとりのみで、俺が忘れている可能性も……
とはいえ、天宮のような美少女と関わったら、多少なりとも覚えていそうだ。
やっぱり、あの時の会話は俺ではなくて別人のことを?
そうなると、天宮は……
いや、まて。
そもそもが本物の関係ではなくて、ただのフリだ。
あれこれと考えて悩んだとしても、それは意味のない行為であり……
「……本当に意味ないのか?」
これは天宮の問題というよりは、むしろ俺の問題だ。
俺の心を、どこに定めるかという問題で……
「ああ、そういうことか」
俺は……天宮のことが好きなんだな。
フリとか、そういうことではなくて……
天宮六花という女の子のことが、本気で好きなんだ。
フリが、いつの間にか本気になっていた、というわけだ。
「まいったな……」
一度自覚したら、もう止められない。
天宮のことが次から次に思い浮かび、頭の中がいっぱいになってしまう。
「こんな状況でフリなんて……無理だよな」
フリを続ければ、天宮と恋人気分が楽しめる。
幸せだ。
でも、一方であなたのことは本当は好きじゃないんですよ? と言われているみたいで、地獄だ。
「いっそのこと、フリをやめるか?」
……いや、それはどうだろうか?
一度引き受けたことだ。
特別な事情がない限り、きちんと最後までやり遂げたい。
本当に好きになってしまった、ということは特別な事情にあたりそうな気もするが……
「はあ……あれこれと言い訳しているが、俺が天宮と一緒にいたいだけか」
フリを続ける間は、少なくとも天宮と一緒にいることができる。
そのことを期待しているのだろう。
なんていうか……底の浅い人間だよな、俺。
どっちつかずの判断で、一番楽な道を選ぼうとしている。
「……いっそのこと、告白するか」
ぽんと、そんな考えが浮かんできた。
好意を自覚してしまった以上、今の関係のままではいられない。
ならば、いっそのこと告白しよう。
そして可能ならば、フリではなくて本物の関係になればいい。
幸いというべきか、次の日曜はデートだ。
そこでおもいきり好感度をあげて、告白をする。
そして、本物の関係になる。
「実際にうまくいくかどうか、それはすごく難しいと思うが……やる前から諦めるわけにはいかないよな。やるだけやって、そして、後悔してやろうじゃないか」
あるいは……笑おう。
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