16話 デートプランを練ろう
「なあ、真司」
「なんだ?」
「デートって、どういうプランを立てればいいんだ?」
「シネ」
休み時間。
真司に相談してみると、とても辛辣な返事が。
というか、ただの悪態じゃないか。
「なぜ、いきなり暴言を吐く?」
「歩がデートについて考えるってことは、どうせ、姫とデートするんだろ?」
「そうだな。その予定だ」
「あの姫とデートをするなんて……くそっ、うらやましい!」
「真司には彼女がいるだろ」
「それはそれ、これはこれ、っていうやつだ」
コイツ、いつか刺されるのではないだろうか?
そのうち欲望に負けて、浮気する未来が見えた……ような気がした。
「で、教えてくれないのか?」
「教えてやるよ」
「意外だな。今の反応からすると、拒否されるかと思っていたが」
「嫉妬はするけどな。でも、友達の頼みをつまらないことで拒否るほど、落ちぶれてないさ」
「本音は?」
「後で色々と感想を聞かせてくれ」
「そんなことだろうと思った……」
どこまでもらしい友達に、ため息をこぼす俺だった。
――――――――――
夜。
いつものように、天宮が料理の練習をかねて、ウチに来ていた。
最近は、けっこう手際がよくなっているような気がする。
今も慣れた手付きで、フライパンを振っている。
「うーん……」
一方の俺は、携帯の画面を睨みつけていた。
真司から教えてもらった、色々なデートスポットが掲載されているサイトを見ているのだけど……
「……わからないな、どこがいいんだ?」
この街だけに限定しても、デートスポットは10以上。
当然、一日で回りきれるわけがないから、絞らないといけないのだけど……
どこを削り、どこを残すべきなのか?
その判断ができない。
「はい、できました」
料理を手に、天宮がこちらにやってきた。
今日は、野菜たっぷりの鍋だ。
料理の練習になるか、少し微妙であり……
また、この季節に……? と思うかもしれない。
しかし、なんだかんだで鍋はうまい。
正義だ。
天宮と一緒に鍋をつつく。
「なんていうか……」
「うん?」
「こうして、ほぼ毎日、進藤くんの家でごはんを作っていると……結婚したような、そんな気分になっちゃいます」
「……」
今日も天宮はグイグイと攻めてきていた。
「ところで」
ふと思い出したような感じで、天宮が話を転換する。
「難しい顔をしていましたけど、どうしたんですか?」
「えっと……」
「なにか困り事で、私に力になれることがあれば、手伝わせてください! 私、こう見えても、家族からはけっこう頼りにされているんですよ」
えへん、と天宮が胸を張る。
とはいえ、デートプランを練っています……なんてこと、デートの相手に言っていいものか?
いやしかし、見栄などを気にして一人で暴走した挙げ句、デートが大失敗なんてしたら目も当てられない。
「……実は、デートプランを考えていたんだ」
結局、俺は素直に打ち明けることにした。
男としての見栄を張りたい気持ちはあるが……
それ以上に、失敗なんてしないで、天宮に楽しんでもらいたいという気持ちがある。
「デートプラン……ですか?」
「俺、経験がまったくないからさ……事前にあれこれと考えておいた方がいいんじゃないか、って思ったんだ。その……天宮に楽しんでほしいから」
「……進藤くん……」
感動した様子で、天宮が瞳を潤ませる。
そんなに大したことは言っていないのだけど……
天宮にとっては、とてもうれしいことだったらしい。
「私のことを考えてくれて、ありがとうございます。すごくうれしいです」
「まあ……二人のためでもあるし」
「でも、私はどこでも構いませんよ? 進藤くんと一緒なら、公園でのんびり日向ぼっこをするだけでも、最高に楽しめると思いますから」
「そう、なのか?」
「はい! だって……進藤くんが一緒にいれば、私はそれでいいんです。隣で笑ってくれるだけで、全部全部、この胸は満たされてしまいます」
天宮は胸元に手を置いて、優しい声でそう言う。
「だから、そんなに悩まないでください。進藤くんの好きに決めたらいいと思います」
「……わかった、そうしてみるよ」
なおさら、プレッシャーが増したような気がするが……
でも、その分、やる気も増した。
天宮のこの笑顔を、もっといいものにしたい。
最高に輝かせたい。
そのために、日曜は最高のデートを演出しようじゃないか。
「日曜日、楽しみですね」
「ああ、楽しみだな」
「あ、そうだ」
閃いたという様子で、天宮はにっこりと笑う。
「私、お弁当作っていきますね」
「え? 弁当?」
「はい。デートといえば、お弁当です! 私、彼女ですから」
「そういうもの……だろうか?」
「そういうものです」
おしゃれなレストランなどを予約、という選択肢もあると思うのだけど……
まあ、それはそれ、これはこれ。
俺たちだけのデートをすればいいか。
「楽しみにしているよ」
「はい。がんばって作りますね!」
がんばるぞ、というような感じで、天宮はガッツポーズをとる。
しかしそれは、頼りになるというよりもかわいらしくて、微笑ましい。
そんな天宮を見た俺は、ついつい笑みに。
「あれ、なんで笑っているんですか?」
「いや、これは……」
「うぅ、信頼されていないのでしょうか……悲しいです」
この後、めっちゃくちゃ天宮を励ますことになった。
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